ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

デジタル改革関連法の概要

 

デジタル改革関連法の概要

 

が2021年5月12日に成立。

デジタル改革関連法は、以下の6法から成る。

  • 1)デジタル社会形成基本法
  • 2)デジタル庁設置法
  • 3)デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律
  • 4)公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律
  • 5)預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律
  • 6)地方公共団体情報システムの標準化に関する法律

関連省庁による資料はここ

 

デジタル改革関連法というと、デジタル庁の新設ばかり報道されがちであるが、同法により、個人情報保護法の改正やマイナンバーと口座の紐づけ等も行われる。

 

1)デジタル社会形成基本法

関連省庁による資料から

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超概要
  • 法律→https://www.cas.go.jp/jp/houan/210209_1/siryou12.pdf
    衆議院修正→https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_annai.nsf/html/statics/housei/html/h-shuhou204.html
  • 基本法であって、ふんわりした、「こういう風になりたいよね。こうしようね。」という抽象的なことが基本的に並ぶ法律。
  • よっぽどちゃんと全部見たい人以外は、特に読まなくても良いように思う法律。
  • ベースレジストリが公的基礎情報データベースとして法律に掲載されている。
  • 個人番号の利用の拡大とか、あと非識別加工情報的なことも載っているが、ここに載っていることが政策として実現されるわけでないことは、過去を見ればまあわかる話ではある。
  • この法律に基づいて基本方針が作成される。ただ基本方針というのも、基本的にふんわりした、「こういう風になりたいよね。こうしようね。」という抽象的なことが並ぶものといえる。
    →関連省庁による資料の5/31ページに、以下の基本方針の説明あり。

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2)デジタル庁設置法

関連省庁の資料から

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水町作成資料から

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超概要
  • 法律→https://www.cas.go.jp/jp/houan/210209_2/siryou3.pdf
  • デジタル庁を作って、こういう仕事をします。デジ庁の組織はこんな感じですよ、という法律。
  • 基本的に、一般人はこの法律を見る必要はない。行政法の先生や、趣味的な人(設置法好き、所掌事務を細かく法律で見ていきたい人)などが見る法律だと思う。ちなみに新法の設置法って、私的には結構いいなと思うというか、読みたいなと思うが。

 

 3)デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律

超概要
  • 法律→https://www.cas.go.jp/jp/houan/210209_3/siryou3.pdf
  • 新旧対照表→https://www.cas.go.jp/jp/houan/210209_3/siryou4.pdf
  • デジタル改革のために、既存の複数の法律を改正するための法律。いわゆる「整備法」と呼ばれるもの。
  • 細かいので、法律自体を見てはいけない。見る時は必ず新旧対照表を見て、どこがどう変わるのかを見ていくべし。
  • 改正内容としては、押印不要とするための改正が非常に多い。あとは、書面じゃなくてデジタルでもできるよとする改正とか。
  • 大きな改正としては、個人情報保護法制の改正(いわゆる2000個問題対応)、マイナンバー関連の改正(情報連携の拡大等で、基本的に改正内容はしょぼいといっては何だけど大した改正ではないが、一番良いのは、マイナンバーカードの電子証明書の更新とかが郵便局でできるようになるところ。市区町村窓口より郵便局の方が近い場合が多いので良いと思う。)。
  • 個人情報保護法制の改正といっても、2020年改正・2022年施行予定の個人情報保護法改正とは異なる。2020年改正の方は、個人データの漏えい時等に当局報告や本人通知を義務付けたり、個人データの外国提供の際の情報提供義務等が新設され、基本的に全民間企業で対応が必要である。これに対し、デジタル改革関連法による個人情報保護法制度の改正については、いわゆる2000個問題対応として、行政機関、独立行政法人等、地方公共団体、民間事業者の個人情報に対する規制を一つの法律にまとめる改正である。民間企業には、基本的に大きな影響はないが、学術研究や医療分野、行政機関・独立行政法人等・地方公共団体との個人情報のやり取りなどの際には、影響が生じる改正である。
  • 詳細は、関係省庁の資料9/31P-24/31Pを見ると良い。

 

4)公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律

超概要
  • 法律→https://www.cao.go.jp/houan/pdf/204/204anbun_3.pdf
  • 概要→https://www.cao.go.jp/houan/pdf/204/204gaiyou_3.pdf
  • マイナンバーと口座の紐づけは2法から成る。1つは公的給付のため1口座とマイナンバーを紐づけるもの(公的給付の支給等の迅速かつ確実な実施のための預貯金口座の登録等に関する法律)で、もう1つは全預貯金口座とマイナンバーの紐づけ(個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律)である。
  • 基本的にこの2法は異なる法律・スキームなので、まず最初に明確に分けて捉えることが大事
  • 前者の公的給付のための紐づけは、コロナで特別定額給付金の支給が迅速に行えなかった反省に基づく法律である。とはいえ、あまり実効性は期待できないと考えられる。この法律では、希望者が自分の口座情報を登録した場合、行政機関や地方公共団体等がその口座を使って給付の振り込みをしたり、行政機関がマイナンバーで給付要件の判定をできるようにする法律であるが、希望者以外に給付する場合は、特別定額給付金と同様、紙又はWebから口座情報を申請してもらう必要があり、迅速な給付が可能になる法律とは言い難い。なお、希望者は自分の口座情報を、マイナポータルや金融機関などから登録できるほか、既に行政機関や地方公共団体等が給付振込や保険料引落し等のために把握している口座を本人同意によって紐づけ口座として登録することも可能である。
  • 詳細は水町過去ブログをご参照。

    cyberlawissues.hatenablog.com

関連省庁による資料から https://www.cao.go.jp/houan/pdf/204/204gaiyou_3.pdf

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水町作成資料から

 

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5)預貯金者の意思に基づく個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律

関連省庁による資料から

 

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水町作成資料から

 

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超概要
  • 全預貯金口座とマイナンバーの紐づけ(個人番号の利用による預貯金口座の管理等に関する法律)は、上の公的給付のためのマイナンバー紐づけとは異なる法律・制度。公的給付のためのマイナンバー紐づけは、公的給付を迅速に行うことが目的(但し実効性に欠く)。これに対し全預貯金口座とマイナンバーの紐づけは、余裕のある人に本人負担をしてもらうという政策背景に基づくものとみられる。所得に対する課税・本人負担計算だけではなく、家計の余裕というのは金融資産がどれ位あるかによって変わってくるので、金融資産が多い人には本人負担や課税を増加するというような政策に結び付きやすいもの。
    ※なお水町は金融資産の把握の是非については特に意見がない。それは税制/社会保障マターであり、税制/社会保障関係者に聞くべきことと考える。私はマイナンバーや個人情報、ITに興味があり、マイナンバーの個人情報保護やIT活用について意見を述べるもの。
  • 義務化ではなく、あくまで希望制であり、希望者のみマイナンバーを登録する(同法3条1項)。但し、金融機関及び預金保険機構実務へは影響があり、金融機関は、口座開設その他主務省令で定める重要な取引を行おうとする場合には、預貯金者に、説明の上、マイナンバーと口座の紐づけの意思を確認する必要がある(同法3条2項)。
  • 要は、マイナンバーと全預貯金口座を紐づける方向に進めたい政府だが、さすがに「義務化」とするほど世論が受け入れてくれるとは思っていない。そこで「希望制」でやってきたが、全然進まないので、とりあえず銀行に確認義務をかけると。そうすると「ぜひお願いします」という人は少ないかもしれないが、「はあ、まあいいですけど」みたいな人についてはマイナンバーを紐づけようとするという作戦ではないかと思われる。
  •  国会提出法案
  • 衆議院で大幅修正が入っているのかと思ったが、否決ですか。紛らわしいなあ。まあもちろん議員として修正案を出して議論することは議員の本来の仕事ではあるけど、どういう法律が成立したかを見る立場にある私としては、どの修正案が通ってどの修正案が通らなかったか、わかるようにしてほしいなあ、と。って、衆法制局のHPに修正案に対して「可決」ってないから、否決された修正案っていうことね。しかし衆議院に提出された修正案、かなりドラスティックな内容で、「え?これが成立したの?」ってすごく驚いてしまった。会議録見たら、否決された修正案なので、まあそりゃそうだろうね、と思いました。
  • なお、この法律も、水町過去ブログで一応解説しているが、短い。

    cyberlawissues.hatenablog.com

6)地方公共団体情報システムの標準化に関する法律

関連省庁による資料から

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水町作成資料から

 

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超概要
  • 法律→https://www.soumu.go.jp/main_content/000732551.pdf
  • 自治体のシステムを「コストダウン」「より安全に」「より簡単に」するための法律。本来こういうものは法律化しないで良いと思われるが、DX対応をしているという感じがやっぱり法律化したほうがでるのと、あとは自治体が従わないときに「違法ですよ!」といえるようにするためではないかと、邪推してしまったが。
  • 地方公共団体情報システムは、標準化基準に適合するものでなければならない(法8条1項)。
    基準を満たしていないと違法に
  • 地方公共団体は、標準化対象事務以外の事務を地方公共団体情報システムを利用して一体的に処理することが効率的であると認めるときは、互換性がある限り、必要な最小限度の改変又は追加を行うことができる(法8条2項)。
    →カスタマイズできる範囲、少なくない? ただ、「標準化基準」の中でカスタマイズを認めれば、カスタマイズできる範囲が広がるが。
  • 大臣は、地方公共団体情報システムの標準化のための基準を作成する義務あり(法5条1項)。内閣総理大臣総務大臣、所管大臣(標準化対象事務に係る法令又は事務を所管する大臣)で、すみわけあり(法7条1項等)。
  • 国は、地方公共団体情報システムが標準化基準に適合しているかどうかの確認を地方公共団体が円滑に実施できるようにするために必要な措置を講ずる(法9条1項)。

余談

こういうのを書きたくて、修正された法律が見たいよおと、さんざん言っていたのですよ。衆法制局HPを教えていただいたので、本当に助かりました。またこれ関連で1本軽い読み物を執筆中ですが、本当はもっと深く書きたいところではあります。

5月はありえない忙しさで、かつオフィス関係でトラブルもあり、メンタルも体力も著しく摩耗しているので、深い執筆はいつになることか。さすがに6月中は厳しいかな。