ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤の抜本的な改善に向けて(案)の感想

マイナンバー制度及び国と地方のデジタル基盤の抜本的な改善に向けて(案)

2020.12.11付

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/dgov/kaizen_wg/dai6/siryou2.pdf

以下、私の感想。

  • 細かな点の検討ができているところもあり、期待したい部分はある。ただ、全体的に、「抜本改善」ではないと思う。
    やるべきことは、マイナンバーを導入した以上、マイナンバーを安全・安心に、効果が出るようにすることである。マイナンバーのおかげで、まず、国民にとって良かったと思えることを実現すること。例えば給付金が早いとか、相続人トラブルが減るとか。2020年初頭から春にかけて、マスクやトイレットペーパーの不正転売や買い占めをマイナンバーで抑止できれば良かったのだが。
    そして行政が効率化して、役所の仕事が早くてサービスが良いようになることも、当然やるべきことである。
    個人情報保護、公権力の恣意・不正抑止は当然の前提である。
  • しかし、このペーパーでは、そもそもの検討項目が
    (1)マイナンバーカードの利便性の抜本的向上、
    (2)マイナンバーカードの取得促進、
    (3)マイナンバー制度の利活用範囲の拡大、
    (4)国と地方を通じたデジタル基盤の構築(情報システムの統一・標準化、クラウド活用の促進等)、
    (5)マイナンバー制度及びデジタル・ガバメントに係る体制の抜本的強化
    である。
    (4)(5)はマイナンバーに限らないデジタル化の話なので、このブログでは割愛するが、マイナンバーを抜本改善するために検討することは、カードの利便性やカードの取得促進、マイナンバーの拡大ではないはず。国民の役に立つことと、行政の仕事を早く正しく行い、国民にとって役立つ豊かなサービスとすることではないのか。
  • 以下、ペーパーに書かれていた、今後やるべきとされていること毎の感想(感想は→の後に書く)
  • 社会保障・税・災害の3分野以外におけるマイナンバーを利用した情報連携について、2021 年度に検討し、国民の理解の得られたものについて、2022 年の通常国会に法案を提出する。
    →機関別符号とマイナンバーの違いが普通はわからないと思う。機関別符号にニックネームをつけたり、わかりやすく図で説明しないと、「機関別符号は使うがマイナンバーは使っていない*1」という意味が周知されずに、「税・社会保障・災害対策以外もマイナンバーで芋づる式で流出するようになる!話が違う!さすが政府は信用できない!」という話に転換されると予想される。
    根本的にわかりづらすぎる。一目でわかるような図を1枚作って、それで説明するとか、なんとか工夫しないと、絶対にわからないと思う。時間があるときに私も作ってみよう。
    期間別符号ではなく、現状の「マイナンバーカードだけどマイナンバーは使っていません」というだって、このことを理解している国民が、一体何割いるのか。1割もいないのではないか。関係者しかわかっていないと思われる。
  • デジタル庁において、2022 年度までに、マイナンバー制度における情報
    連携に係るアーキテクチャの抜本的見直しを検討し、2025 年度までに実施
    する。
    →期待したい。
  • 突発的な給付金事務においてマイナンバーを利用できるようにする仕組みと、マイナンバー付き公金受取口座の登録・利用の仕組みの創設※に向け、2021 年通常国会に所要の法律案を提出する。運用開始時期については、可能な限り 2022 年度中の運用開始を目指す。
    ※ 口座の利用先について、突発的な給付金のみならず、児童手当や生活保護など、広く公金・還付金を利用の対象とする。また、口座の登録について、マイナポータルからの登録及び金融機関の窓口からの登録ができるようにするほか、行政機関等に対する申請の際に、本人同意の下、同時に登録もできるようにするなど、国民の利便性が高く、円滑に登録が行われる仕組みとする。
    →期待したいところだが、どの程度実効性をもった口座登録ができるのか。情報更新が期待できるのか、注目していきたい。
  • 新規口座開設時などに、金融機関が国民に対し、マイナンバーの告知を
    求めることを、法律上の義務として定める。その上で、預金保険機構をハ
    ブとし、各金融機関とをオンラインでつなぐ仕組みを構築することにより、
    告知を受けた金融機関のみならず、各金融機関の口座への付番を、本人同
    意の下、可能にする。さらに、マイナポータルからオンラインで、付番を
    申し込めるようにする。加えて、構築した仕組みを利用し、相続時のサー
    ビスとして、相続人の求めに応じ、あらかじめ被相続人マイナンバーを
    付番しておいた口座を、預金保険機構が金融機関に照会して探し出し、発
    見された口座をマイナポータルを通じて相続人にお示しするサービスを
    創設する。同様の仕組みを利用して、災害時のサービスとして、被災者の、
    キャッシュカード等が失われてしまっていても、被災者の求めに応じて、
    預金保険機構が金融機関に照会して、あらかじめマイナンバーが付番され
    た口座の所在を確認して、引き出しにつなげることができるサービスを創
    設する。以上の預貯金付番を円滑に進める仕組みについて、2021 年通常国
    会に所要の法律案を提出する。その際、政府と金融機関は緊密に連携し、
    窓口等で国民に対し、付番のメリット等について、わかりやすい説明等を
    行う。また、付番の状況を見つつ、更なる検討を行うこととする。
    →これも、利便性がきちんと出せるのか。預貯金口座の意義をきちんと国民に説明できるのか、注目していきたい。
  • ATM についてマイナンバーカード対応を行い、電子署名を可能とするこ
    とで、本人確認ができ、10 万円を超える現金送金を可能とするシステム対
    応を行うニーズを確認しつつ、2020 年度において業界と方向性について検
    討を行う。2021 年度以降、その方向性を踏まえ、対応を検討していく。
    →10万円をこえる現金送金以外も、利便性の上がるサービスを期待したいところ。ただ利便性が上がったり、お金関連のサービスが増えると、「落とすと怖い」問題が勃発するので悩ましいところ。
  • 2020 年度中に健康診断データの標準様式を策定する。また、生まれてか
    ら職場等、生涯にわたる健康データを、2022 年を目途に、マイナンバーカ
    ードを活用して、一覧性をもって提供できるように取り組む。
    学習者の ID とマイナンバーカードとの紐付け等、転校時等の教育デー
    タの持ち運び等の方策を 2022 年度までに検討し、2023 年度以降希望する
    家庭・学校における活用を実現できるように取り組む。
    マイナンバーカードとマイナンバーの違いを、説明しないと、「なぜここでマイナンバーが?」という話になってしまう。しかし、上記の通り、「マイナンバーカードだけどマイナンバーは使っていません」ということ自体が、わかりづらい。
  • マイナンバーカードの機能(電子証明書)のスマートフォンへの搭載の
    実現
    →これも期待しながら注目していきたい。
  • 被災者支援に係るクラウド基盤の整備
    被災者生活再建支援制度データベース整備
    物資調達・輸送調整等支援システムの高度化
    被災者再建支援制度の支給申請における添付書類の不要化・電子化
    →災害時に備えた対策も期待しながら注目していきたいと思う。

 

 最後に、私が前にまとめたマイナンバーの改善のための提言

http://www.miyauchi-law.com/f/200806mynumber_kaizen.pdf

https://www.miyauchi-law.com/f/171115mynumber_kadai.pdf

 

*1:機関別符号は広義のマイナンバーなので、この点狭義のマイナンバーを使っていないという説明になるか