ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

国・自治体のDXに足りない視点

DXが流行っているので、なんでもDX、DXと言われ、これまでIT関連の仕事をしてきていないビジネスパーソンが突如DX担当になることもあるかと思います。

そんな時に、自分に何ができるのだろうと戸惑う方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、必要なことは、意外とIT知識ではないのです。

 

なぜならば、DXというのはあくまで「手段」に過ぎないのです。そしてDXという、手段を具体化する方法は、IT知識がある人に提案を受ければいいので、DXの具体的実装方法を自分自身で考え出す必要はないのです。

 

ポイントは、「どんな課題を解決したいか」です。

 

1.課題の特定

行政であれば社会課題や庁内の課題があって、それを解決するために政策や事業を考えるはずです。

例えば少子化であれば、少子化が課題であって、子育て政策を検討するということになろうかと思います。

 

2.課題解決方法の検討

そして「子育て政策」ではふわっとしすぎていて、何をすればいいかわかりません。それをブレイクダウンして、より課題解決につながるような課題解決方法を検討していくことになろうかと思います。あくまで仮ですが、「子育て政策」をよりブレイクダウンして「子育て世帯への給付金」などです。

ここまで(1→2)はDXでもアナログ手法でも同じですね。

 

3.実務の検討→ここでDX!

1→2と来たら、次に、2を具体的に実務に落とし込む方法を検討をすると思います。現実の仕事の中できちんと回る仕組みを考えるという意味です。例えば、子育て世帯への給付金配布のために、どういう手段で実現していくのか。対象世帯にお手紙を出して、口座を教えてもらって、振り込むのかなどです。

ここでようやくDXが登場します。現代は、IT化が進んでいるので、従前のアナログ手法よりも、迅速に正確にDXで簡単に解決できる場合があります。しかし、ここが要注意ポイントですが、DXではなくアナログ手法の方が効果的な場合もあります。なので、ここはまずフラットな検討が必要です。やりたいことを正確・迅速・低コストで実現できる方法は何なのかを検討します。なお、その際、アナログ手法では全然できないことが、DXだからこそできるということもあります。例えば、コロナの特別定額給付金の場合、「住民税非課税世帯への給付」か「全員への給付」というようなゼロイチに近い政策検討がなされましたが、DXでは世帯の状況(所得、世帯構成員の状況等)をデータからとらえて、的確な支援ができる可能性があります。

 

しかし、IT知識がないと、このDX手法の検討が難しいと思います。しかし、これは大した問題ではありません。1→2までできていれば、3を考えられる人材は外部に多数います。コロナの特別定額給付金でいえば、2の段階で、どのような方を優先して迅速に支援すべきかを検討すればよく、それを実現できる手法を3で検討するという流れになります。

 

3の具体的な調達方法としては、RFIやコンペ形式などで、DXかアナログ手法かは問わないで、やりたいことを正確・迅速・低コストで実現できる方法の提案を受ければいいのではないでしょうか。

 

ITベンダー視線で見ると、この提案は、従前までの「超上流工程」になるかと思います。DX人材が不足しているなどとメディアでは言われることもありますが、ずっと以前からやってきている超上流工程をきちんと行えば、社会課題を現代風に解決する方法となるのではないでしょうか。超上流工程ができる人材って、別に稀有な人材なわけじゃなくて、結構いると思うのです。マイナ保険証がらみだと、省庁の縦割り、官民の連携不足などもありますが、超上流工程がうまく設計されていないように思うのですが、これは役所でやる必要は必ずしもなくて、役所側は1→2ができていればよく、3は外部人材を活用すればいいのではないでしょうか。

超上流工程は、高級なITコンサル、大企業ITベンダーでなくてもできると思います。私でもできるんですから。私なんてある意味、システム化提案というか超上流工程が趣味に近くて、暇な時間によく考えています。こういう人、結構いると思いますよ。

 

そして、優秀でまじめな人が役所には多いです。そういう方は、まずは1→2をやりましょう。これは従来通りの政策立案です。

そして、余裕ができてきたら、3を少しずつやってみましょう。3は超上流工程だから、優秀でまじめな役人なら、IT知識がなくても、外注しなくても実はできるのです*1。ただ、最初から全部自分でやるのは難しいので、最初は外部人材に委託するなりRFIなりなんなりでやっていって、それを発注側として注視していれば、そのうちに、自分自身でも超上流工程はできるようになります。超上流工程は、細かいIT知識や複雑なIT知識は基本的にいりません。大局的視点で、かつ実務や関係組織の実情を踏まえて、物事をとらえる、まさに役人向きの工程です。大丈夫。優秀でまじめな人なら、これまでIT経験がなくてもできます。どこにどういう情報があって、どういう情報が課題解決に必要かを考えられれば、60-70%はカバーできるようなイメージです。これに対して、下流工程になってくると、IT知識が必要になってきます。

 

なお、3の工程を外部から提案を受けたりRFIを受けたりする形でやる場合は、その提案者(コンソでもよい)に最終構築までやってもらいましょう、必ず。なぜなら、実装できない夢物語を提案してきて、結局実装できなくても責任を取らない事業者がいると、困るためです*2

役所で3を内製する場合は、システムとして実装できるかどうかを具体的に検討することが重要で、かつ実装調達に応札するであろうベンダーさん複数に意見を聞くと良いと思います。

 

霞が関でも自治体でも、上記をやっていけば、DXは別に難しいわけではないと思うのです。私も、問題点ばかり指摘するのではなく未来志向で、やる気のある優秀な職員さんなんだけど、IT経験がない方がDXを担当することになったときに、どういう思考が必要かなどを資料を作って、講演するなどして、お手伝いできればと思います。

 

昨今の傾向だと、1→2→3っていう流れじゃなくて、最初からDX(3)が目的になってしまっていて、DXをするために何をすればいいかを考えるっていう逆の発想になっている気がします。

 

マイナンバーカードでいえば、社会課題を解決するためにマイナンバーカードが役立つ場面があればマイナンバーカードを使えばいいのに、マイナンバーカードを多くの国民に使わせるような場面設定として、マイナ保険証が、そして運転免許証化が出てきているように見えてしまいます。そうではなくて、社会課題解決が目的であって、マイナンバーカードはあくまで手段に過ぎないのです。

そして、マイナンバーの誤入力などは、省庁をまたぐ、官民をまたぐ部分の超上流工程の設計が不足しているからだと思うのです。超上流工程を丁寧に行っていけば、そこはまずは外部の力を活用して、その後役所の内製でもできるようにしていけばいいのではないでしょうか。

検討会なりなんなりを立ち上げて、公開の場で、複数の事業者から3の提案を受けて、議論していく形はとれないものでしょうか。

 

DXって、そんな、今まで全然なかったようなものすごく難しいものではありません。明治時代に、不平等条約解消のためにフランスに留学して首席で法典を編纂した役人みたいに、大谷選手みたいに稀有な能力がなくても、優秀でまじめな役人なら、絶対にできます。大丈夫。

 

マイナンバーカード関連で思ったことが、国・自治体のDX全般に言えるのではないかと思い、備忘的にメモを書きました。国・自治体と書きましたが、民間のDXでも同じことが言える場合もあるかと。自治体のDXご相談を受けているうちに思ったことと、マイナンバーカード関連で思ったことを踏まえて。

*1:私もご一緒のプロジェクトで、当初はIT知識がない役人の方が、だんだんと上流工程をびしばしできるようになっていく過程を拝見したことがあります

*2:でも、こんな問題も、DXと呼ばれる前のシステム化提案の時代からずっと指摘されていることであって