ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

10万円一律給付へのマイナンバー活用

10万円一律給付にマイナンバーは活用できるでしょうか。今日はそれを検討したいと思います。

 

マイナンバーの価値は、主に以下と言えます。

  • 全住民に漏れなく付番されていること =悉皆性
  • 一人一人の状況を反映できること =マイナンバーで紐づく情報(例えば前年所得額、子供の数等)によって、給付額その他を変更できる*1

 

コロナ対策にマイナンバーができることは、現状だとそこまで多くはない点については既にブログで記載しました。

しかし、今日は、一律10万円給付に際してマイナンバーができることに特化して検討していきます。

 

 

1.申請が、郵送方式かデジタル方式か

定額給付金の際は、お手紙を自治体から送って、振込先口座を申請してもらう方式でした。

今回は、ここにマイナンバーカードを利用することも可能です。

(1)なりすまし防止の重要性

この際、一番重要なのは、なりすましの防止です。別人が私になりすまして、別人の口座を登録してしまうと、10万円を受け取れなくなってしまいます。これを絶対に防止しなければなりません。

(2)郵送

そこで、定額給付金の際は、①申請書②本人確認書類③通帳のコピー等を、市町村に郵送したようです。

https://www.city.suginami.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/010/785/sg1890_2.pdf

 

今回も、この郵送方式が採用できそうです。

ただこの場合、主に、①自治体→住民への郵送コスト、②住民→自治体への返送の際の郵送コスト、③自治体が申請書を印刷して封筒詰めするなどのコストが発生します。

(3)マイナポータル/マイナンバーカード

 今回は、郵送だけじゃなくて、マイナンバーカードを使う方式も可能ではあります。カードを使ってマイナポータルにログインし、振込先口座情報を入力してもらうという方式です。

①メリット1:本人確認書類不要

マイナンバーカードは、デジタル身分証明書になります。マイナンバーカードをピッとやって、パスワードを入力してログインすると、これはIDとパスワードでログインするよりも、安全なログイン手段になるのです。マイナンバーカードは、デジタルの実印相当ともいわれています。IDとパスワードよりも、なりすましは難しくなります。

したがって、マイナンバーカードをピッとやれば、運転免許証のアップロードなどは不要です。マイナンバーカードのピッ(+パスワード)で、本人確認は済むことになります。

②デメリット1:できる人が限定される

しかし、デメリットとして、この方式を取れる人は、マイナンバーカード保有者に限定されます。かつ、ご高齢の方ほどマイナンバーカードの所持率が高いとも一部でいわれていますが、デジタルになれていない方は、マイナンバーカードを持っていても、カードリーダーを用意してそれにカードをかざして、マイナポータルに入って、振込先を入力するというのは、難しい場合も十分に考えられます。

また、今マイナンバーカードを持っていない方については、今からマイナンバーカードを申請しても、交付は対面原則なので、コロナ感染リスクを考えると難しいかと思います(過去記事参照)。そうすると、今既にマイナンバーカードを持っている人が対象者になります。

したがって、この方式を取るとしたら、郵送も可にしなければなりません。

③メリットにもデメリットにも:早い場合/遅い場合がある

そして、マイナンバーカードでピっとやって、振込先を入力すれば、自治体からのお手紙郵送を待って、こちらから返送するよりも、時間的に早い可能性もあります。ただシステム開発に時間がかかって、かえって遅い可能性もかなりあります。

④メリットにもデメリットにも:コストが安い場合がある

 後で詳述するように、マイナンバーカードでピっとやって入力してもらうと、郵送代がかかりませんので、場合によっては国の方で負担するコストが安くなる可能性があります。

 

2.郵送方式/デジタル方式、どちらが良いか 

(1)マイナポータル/マイナンバーカードを採用するとしたら

 ということで、一律10万円給付の方法として次の2パターンが考えられるかと思います。

  • 郵送方式だけ
  • デジタル方式(マイナンバーカード方式)と郵送方式のどちらかの選択制

どちらがいいでしょうか。

マイナンバーカードを普及させたいという考えを持つ人からすれば、後者の選択制がいいと思うかもしれません。しかし、そんなよこしまな理由ではなく、きちんと合理的にどちらが良いか考えていくべきです。

そこで私が思うのは、次の観点から考えると良いのかなということです。

  • どちらが国民がストレスなく簡単に申請できるか
  • どちらが総コストが安いか
(2)ストレスなく簡単に申請できるか

 ストレスなく簡単に申請できないと意味がありません。こんな大変な状況の中、ちまちまとたくさんの資料を用意してストレスフルな申請作業をやれる人は、あまりいません。その観点から比較すると、郵送とデジタルとどっちがいいでしょうか。

これはもう人によるとか、使いやすいデザインができるか(紙のデザインしかり、システム面のユーザインターフェースしかり)によって、変わってくると思います。したがって、どっちが良いか、この観点からは決められないと思います。

 

3.マイナンバーカードでコスト削減の可能性 

  次に総コスト。これはどうでしょうか。

 (1)発生コストは?

郵送方式の主なコストは、とりあえず私が思いつくものとして、

自治体→住民への郵送コスト

②住民→自治体への返送の際の郵送コスト

自治体が申請書を印刷して封筒詰めする、返送資料を開いて確認して給付システムに入力するなどのコスト

④給付システム等の開発コスト(誰にいくらどこどこに振り込む処理を実行するシステム。これは既存のものを使えれば、コスト不要?)が挙げられます。

 

デジタル・郵送併用方式の主なコストは、とりあえず私が思いつくものとして、

A)申請システム開発

B)デジタルで申請しなかった人を切り分けて郵送方式にする手間・コスト

C)郵送方式と同様のコストが挙げられます。

 

(2)発生コストの比較?

郵送方式の ①郵送代は84円、②郵送代もそんなに重くないとすると84円。

デジタル化すると郵送代は抑えられそうです。

 

マイナンバーカードの普及率は令和2年3月1日現在、15.5%で、19,730,752枚です。その所持者全員がデジタルで申請するとはとても思えないので、このうち50%がデジタル申請すると仮定すると9,865,376人が、30%がデジタル申請すると仮定すると5,919,225.6人の郵送代が発生しなくなります。

 

<郵送代削減仮定>

カード所持者50%がデジタル申請の場合、9,865,376人×84円×2=16億5738万3168円

30%がデジタル申請の場合、9億9442万9900.8円

 

そうすると、A)システム開発代、B)デジタルで申請しなかった人を切り分けて郵送方式にする手間・コストが、上記の郵送代削減代よりも安価ならば、デジタル併用方式の方が、コストは安そうです。

私がコストを全部検討しきれていない可能性があるので、不正確な可能性がありますが、デジタル併用方式の方が安価になる可能性が高いといえるかもしれません。

 

あ、でも郵送の場合は「世帯」単位で一通で済めば、郵送料はおさえられそうですかね。マイナポータルでも、一人が「世帯」全部の振込先口座を登録できれば、郵送料はおさえられそうですが、その分のプログラムを作らないとダメですかね。「世帯」で郵送を考えると、上の計算と違ってきますね。その場合、どういう計算にすればいいのだろうか。うーん。仮定をかなり置かないと計算できなそうかも??

 

あとは、郵送単独方式の際の③申請書を印刷して封筒詰めする、返送資料を開いて確認して給付システムに入力するコストも、デジタル併用方式をとれば、デジタル申請で対応できた分は、コスト削減になる可能性があります(人件費・外注費の削減)。

 

(ご参考)マイナンバーカード普及率

https://www.soumu.go.jp/main_content/000674166.pdf

 

4.マイナンバーカード方式の問題 

ただ、マイナンバーカードによるデジタル併用形式の場合、きわめて重大な課題/問題点があります。それは、マイナンバーカードを使うためには、カードリーダーが原則必要という点です。

カードリーダーを持っていない方というのはかなり多そうです。私は珍しくカードリーダーを持っていましたが、ほとんど使っていないので、探さないとどこにあるかもわかりません。

ただ、スマホの機種によっては、スマホマイナンバーカードを読み取れるようです。

https://www.jpki.go.jp/faq/nfc.html

まだちゃんとチェックしていないのでわかりませんが、このスマホで対応可能な機種が多ければ、スマホ対応可能ですが、機種が少ない場合は、現実問題としてスマホは無理だと、カードリーダーを買わないといけなくなり、そこまでしてマイナンバーカードで申請する方がどれだけいるのかという話になってしまいます。カードリーダーって2000円~3000円ぐらいでしたっけ?郵送すれば、もっと安く済みますからね。また、カードリーダーを買う方がいたとしても、そういう需要が増えれば、カードリーダーの在庫がなくなるという可能性も考えられなくありません。

 

大多数のスマホマイナンバーカードを読み取れるとなれば、デジタル・郵送併用方式も可能そうですが、どうでしょうか。

 

5.デジタル・郵送併用方式 のやり方(時間がかかる?)

デジタルと郵送併用方式 を採用するとした場合の処理を考えます。ただの私のイメージであり、これ以外の処理も当然可能ですが。

  • デジタル申請システムを早急に開発する
  • マイナポータルに搭載する
  • 国民に周知する
  • デジタル申請を受け付ける
  • デジタル申請をした方のマイナンバー又はシリアル番号を控えておき、その方は申請書の郵送対象から外す
  • 上記でデジタル申請分を除外した上で、残りの方に郵送で申請書を送る
  • 郵送による返送を待つ
  • 振り込む

 

書いてみて思いましたが、これって結構時間がかかりそうですね。デジタル申請と郵送を同時に開始してしまうと、デジタル申請してくれる人にも、自治体→住民の84円がかかってしまうので、デジタル申請を先にやって、あとから郵送にした方がコストは安くなると思うのですが、そうすると時間がかかりますよね。

 

迅速な支援ができなそうで、そうすると、郵送の方がよいのかなあ・・・

 

また、これ、各自治体でやるのはかなり作業が煩雑そうですから、もしやるとしたらJ-LISですべての処理を一括受注したほうが良いかもしれません。

 

 

 

 

(最後にご参考)

前に書いたブログはこちらで、要約は以下の通り。

1.国民への迅速な金銭給付

→とりあえず制限なしに一律給付し、一年後などに問題ない人については返金してもらうとした場合、返金処理等にはマイナンバーは有用。一律給付の際のマイナンバーの価値は限定的(現状ではあまり価値がない)。

2.必要物資(マスク/消毒液/ペーパー等)の公平な分配

マイナンバーカードによって一人〇個までの購入制限をしたり、必要物資の売買にはマイナンバーの提示義務付けをすることで、公平な分配に役立ち得る。但し、前者の購入制限では、マイナンバーカードの取得が条件になるため、コロナ感染を防止しながらマイナンバーカードを国民に交付するという処理をどうすればよいかは困難な課題として残る。後者の提示義務については、通知カードや住民票の写しでも大丈夫なので、マイナンバーカードの普及率が現状のままでも可能。

 

cyberlawissues.hatenablog.com

 

*1:今回のブログではあまりこの価値は登場しない