ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

10万円一律給付の事務処理(その1)申請書類の郵送に時間がかかる?

2020.5.11、末尾に、プレプリント&住民側の入力・記載情報はもっと少なくて良いのではないかという点について追記しました。

 

2020.4.30記載

www.tokyo-np.co.jp

www3.nhk.or.jp

 

10万円給付の件で、代理人の話、申請書類様式の話などをブログに書きました。その件も、またブログに書いて、できれば自治体に参考になるようなブログにしたいと思ってます。問題提起だけじゃなくて、解決策までブログに書いていきたいと思います。

 

ですが、今日は、まずは素朴な疑問を。10万円給付について、自治体ごとに所要時間に大幅な違いがみられそうというニュースについて。

 

人口規模が多い自治体の方が遅くなりそうという件について、私のレベルではパッと新聞を読んだだけでは理解できなかったのですが、なぜなのでしょうか。

東京新聞の記事によると、申請書の郵送にまずは、人口規模の大きい自治体は時間がかかると書いてあります。

申請書の郵送に必要な作業としては、以下かと考えています。

  • 住民基本台帳情報(既存住基システム?)から、基準日現在の対象住民を抽出
  • 住民基本台帳情報は、世帯ごとの管理があるはずで世帯コードなども振られていると思うが、世帯ごとにデータを抽出
  • 世帯主と世帯員の基本情報を、申請書様式にプレプリント(印字)する
  • 印刷した申請書を封筒に詰めて、郵便局出し
  • 郵便局がお届け

人口規模が大きい自治体の方が、これに時間がかかるというのがいまいち理解できないのです。住民基本台帳情報をプレプリントするためのプログラムって、結構単純な気がするのです。世帯ごとに元々管理されているのでしょうから、その世帯の世帯主と世帯員を全件印字して、かつ基本情報も印字するっていうことですよね。しかも人口規模によって、このプログラムの難易度や開発速度が変わるとも思えず。

 

申請書を実際に印刷して封筒に詰める作業に時間がかかるというのなら、まだわかりますが、これも、今は、折って窓付き封筒に自動投入する機械とかもあると聞いたのですが、機械処理がすごく遅いとかなのでしょうか? あとは印刷会社さんとかにBPOしている自治体も結構いるのでは? 印刷会社さんがコロナであまり出勤できずに、発注できないっていうことなのでしょうか?

人口が少ない自治体の方がお金がないので、機械を持ってなかったり、外注できないので、時間がかかるというのならわかりますが、人口が多い方が時間がかかるというのは、どういうことなのか。対象者が多いから、印刷と封筒に詰める作業に時間がかかるということなのか。それは機械やBPOでは対応できないぐらいの多さなのか?いまいちピンときません。発注のための手続きに時間がかかるとかなのでしょうか。随契できないから、公募で入札とかすると時間がかかるとか?

 

そこで思うのが、そんなに申請書の郵送に時間がかかるなら、申請書を郵送しないという方法はないのでしょうか。または、プレプリントに時間がかかるなら、プレプリントしない状態で、申請書を郵送するという方法はないのでしょうか。

 

申請書は住民が自分でプリントアウトして、で、市区町村宛てに申請するというのではだめなのでしょうか。プリンターがないとプリントアウトできなかったり、コンビニでネット印刷するのはコンビニに外出したくないという住民がいるかもしれないので、その対応として、自治体側又は民間のご好意でプリントしておいて、スーパーさん、郵便局さん、ドラッグストアさんなどに置かせてもらうというのはダメなのでしょうか。そこが混雑してしまうと、感染リスクが増えるのでその点の配慮が必要ですが。なんなら、マスク配布の時と同じスキームで、郵便局のタウンプラスで全戸のポストにプレプリントしていない申請書をお届けするとかは、ダメなのでしょうか。

 

プレプリントの意味というのは、記入の手間の削減と、あとは本人確認の意味合いでしょうか。それ以外にもあるのかな?

プレプリントしてある申請書を住民票住所地にお届けして、で、ご本人がそれに基づいて申請してきた場合、別人がなりすまして10万円を詐取するリスクは抑えられますが、

プレプリントにそんなに時間がかかるなら、プレプリントしないでも、良いという考え方はないのでしょうか。

 

プレプリントしてなくても、本人が住民票記載情報を正確に申請書に書いてきて、で、運転免許証などの本人確認書類のコピーもつけて、そして振込先の銀行口座の名義人も世帯主の名前と完全一致している状態なんですよね? だったら、プレプリントしてなくても、なりすましリスクは軽減できるのでは?

 

マイナンバーの本人確認の際、プレプリント方式も使えるとされていました。

国税庁が、「税務署から送付されるプレ印字申告書(所得税申告書、個人消費税申告書、法定調書合計表等)」で、本人確認書類にすると言っていた件です。

https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/mynumberinfo/pdf/kakunin.pdf

 

この国税庁の考え方は非常に合理的だと思うのですが、今回の10万円給付に、そこまで1ヶ月ぐらいの時間をかけてまで、プレ印字/プレプリントする必要があるのか。

 

昨日、ずっとそのことを考えていたのですが、プレプリントの意義が私のレベルではよくわからず…。でもプレプリント方式を今回採用するのは、それなりに理由があるはずですよね。どういう理由なのだろうかと、ずっと考えていたのですが、「なりすましリスク軽減」と「記入手間削減」しか思いつかず。

 

申請書を郵送しない、又はプレプリントしない状態で申請書を郵送するという方法も、考えていただければと思いました。

 

ただ、上記ニュースを見ると、「申請状況などを管理するシステムの準備が進んでおらず見通しは立てられない」という自治体の声が掲載されており、それはそうだなと思いました。申請の有無、申請書形式ミスの有無(補正中かどうか)、支払の有無などを管理する仕組みがないと、未払いや二重払いが出てしまいますから。

ただ、これも、住民基本台帳データに、「申請フラグ」(申請ありなし、申請が正しく受理されたかどうか、申請方法が紙かマイナンバーか)、「支払フラグ」(支払済、処理中、未済)をつけて、あとは申請書の情報やマイナポータルの申請情報を紐づけておく感じでしょうかね。ものすごく複雑なプログラムというわけではない気もしますが。

 

これ、J-LISで一括開発とかできないんですかね。一括開発しても、既存住基システムとの接続・調整が必要だから、あまり各自治体の負担軽減にはならないのでしょうか。住基ネットを使ってJ-LIS側で一括処理とかしちゃうと、住基法に抵触するんですかね。

 

 

そして、これらよりも時間がかかるのは、申請書の確認手法でしょうか。世帯主名義以外の口座に申請があった際の処理、代理申請の場合の処理、本人確認書類不備の処理、二重申請の処理とかを決めて、それを一件一件やっていかないといけないので、これはやっぱり、かなり自治体側の手間がかかると思います。人口が少なくても大変ですが、人口が多いほど、さらに時間がかかると思います。

マイナポータル申請が多ければ、自動でできる部分が増えるようにも思います。例えば二重申請の処理とかはプログラムで対応できないのかな、とか。本人確認書類不備はなくなるわけですし。口座名義も、プログラムでエラーではじければそれが効率的ですよね。ただ、マイナポータル申請がそんなに多くなさそうなのと、今のマイナポータルの仕様だと、あんまり自動処理してくれない可能性もあるかと。

 

10万円給付も受けつける側の事務処理がかなりありますので、カットできる事務はどんどんカットしていった方が良いと思います。その意味でも、申請書のプレプリントとかは、いらないんであれば、カットしてもいいのではと思いました。

10万円給付をきづかない住民の人もいるかもしれないから、広報の意味で、申請書を郵送するんですかね。その意味もありますかね。でも、それはプレプリントしなくても、大丈夫そうですよね。

 

2020.4.30午後14時追記

考えてみましたが、プレプリントによって、「世帯主が誰かわからない」という問題は解決しそうですね。マイナポータルの場合は、「誰が世帯主か」というのが表示されるかどうかは不明なので、まだマイナポータル経由の場合は「世帯主が誰かわからない」問題が発生しますが、紙申請の場合で、プレプリントしてあると、世帯主名も印字されているので、誰かわからないことはなさそうです。

「世帯主が誰かわからない」で手続きに時間がかかったり、間違って記載して申請ミス扱いになって受け付けてもらえず、訂正でさらに時間がかかるという問題は、プレプリントによって一部解決できるのかもしれません(ただ、それでも、世帯主名の口座でない口座を書いてしまった、代理人関係などの問題は残りますが)。

しかし、そのプレプリントのために1ヶ月かかる自治体があるのだとしたら、「世帯主がわからない」問題が発生する頻度・発生した際に手続にかかる所要時間と住民等に与えるストレスと、プレプリントのための費用と時間を比較考量したほうが良いと思います。

 

2020.5.11追記

書面申請の際のプレプリントの話、マイナポータル申請の際の世帯員氏名の入力の話、双方つながっていると思うのですが、申請時にそこまでの情報がいるのかがよくわかりません。住民側が書くべき=自治体に知らせるべき内容は、以下ではないのでしょうか。

  1. あなたは誰ですか。本当にその人ですか。
    =氏名等と本人確認書類(運転免許証OR利用者証明)
  2. どの口座に振り込みますか。
    =銀行口座情報
  3. (世帯主申請にしなくていいと私としては思ってますが、世帯主申請にする場合でも、以下を追加すればよいのでは?)
    世帯主ですか。違う場合は委任状はありますか。

世帯員の氏名、生年月日とかは不要なのではないでしょうか。

そして、世帯主本人も住所、氏名、性別は、あくまで氏名だと同姓同名がいるかもしれないからそのための本人特定用ということではないのでしょうか。

 

だとすると、以下しか、住民側が書くべき=自治体に知らせるべき内容はないのではないでしょうか。

マイナポータルの場合は、「2.銀行口座情報」だけでよいのではないでしょうか。

なぜなら

  1. あなたは誰ですか。本当にその人ですか。
    マイナンバーカードで足りる
  2. どの口座に振り込みますか。
    =銀行口座情報を入力
  3. 世帯主ですか。違う場合は委任状はありますか。
    =世帯主本人以外はマイナポータル申請不可のため、特に情報は不要

書類申請の場合は、「1.氏名、住所、生年月日(、性別)」「2.銀行口座情報」「3.世帯主かどうかを記載させ、違う場合は委任状を添付」で良いのではないでしょうか。

  1. あなたは誰ですか。本当にその人ですか。
    マイナンバーを記載させると本当は良い。マイナンバーが分からない場合は、氏名、住所、生年月日(、性別)を記載。
    あとは、運転免許証やマイナンバーカードの写しを同封する。
  2. どの口座に振り込みますか。
    =銀行口座情報を記載
  3. 世帯主ですか。違う場合は委任状はありますか。
    =世帯主かどうかを記載させ、違う場合は委任状を添付。

 

プレプリントしないと、住民側が自由に書くことになって、エラーが増えて、かえってエラー訂正する作業量が増えて、給付が遅れるということを、熊谷俊人 千葉市長がのべていらっしゃるようです。

 

今の申請様式よりも、住民記載欄を大幅に削減できるのではないでしょうか。

そして、マイナポータルの場合は銀行口座情報だけでいいのだから、住民側が間違うとしても、世帯主名義の口座にしなかった、画像添付が間違っていたという問題だけになる気が。そしてせっかく電子申請なんですから、世帯主カナと口座名義カナが一致するかどうか、申請時点でチェックして、違う場合はエラーではねるべきです(今その処理をマイナポータルでやっているかどうかは確認未済)。

書類申請の場合も、「1.自分の氏名、住所、生年月日(、性別)」を間違えるというのは、住所が住民票住所地じゃないぐらいの間違いでは?氏名と生年月日を間違えるっていうのは、字が下手すぎて読めないということはありえても、自分の名前や生年月日を間違えることはないような気がするのです。
ただ、「3.自分が世帯主かどうか」を間違える人は一定数いると思うのです。その場合も、世帯員が世帯主名義の口座で申請してきたら、委任状なしでも世帯主の代理人扱いするというわけにはいかないのでしょうか?