ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

10万円一律給付の事務処理(その13)10日の開発期間でリリース

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テストが著しく不足した状態でオンライン申請の受付を開始したことが問題ではないでしょうか。

テスト不足でリリースを決定した根拠は何なのか。早く給付したいという一心だけで、受付だけすれば、あとは自治体側のシステムでやるだろうという思い込みはなかったのか。

みずほ銀行の例が起こる前は、システム部門がいくら「時間が足りないので、リリースを伸ばしたい」といっても、決済する側は「言っているだけだろう」というような思い込みがあったような印象もなくはありませんが、世の中的にも様々なシステムトラブルを経験して、テストが足りないと悲惨なことになるというのは周知されたように思っていましたが、国ではシステム経験が少ないので、こういうことが起こるのだと思います。テストは大事。業務要件に即した設計も大事。どうでもいい語句修正とか不合理な調整ばかりに時間をかけずに、必要なことに時間をかけないといけないです。

 

また、10日間の開発期間とありますが、どの程度の開発ボリュームなのかによって、10日でも著しく短期間とまではいえない可能性があります。マイナポータルも、その一部のぴったりサービスも、既に開発済というか、それよりも進んだ状態、つまり「本番稼働中」です。その上に、申請をのっけたはずなので、既存の仕組みを使っているはずです。その既存の仕組みがどの程度使えたのか、今回の開発分はどれぐらいのボリュームなのかによるのでは? 入力フォームを作るだけだったら、10日でもテストが十分できるかもしれません。 

 

あとは、テスト不足だけが原因ではないと思います。銀行名の入力をフリーフォーマットにするとかって、オンラインバンキングとかの他の入力フォーマットを真似すれば、そうはならないはずですし。世帯員の氏名を入れるのも支離滅裂ですし。世帯員の受給意思確認のために世帯員氏名を入力させたといっているようですが、だったら、世帯主だけ辞退する場合はどうするんですか?世帯員しか辞退できないのか?きちんと説明してほしい。eTaxだと銀行口座を入力できますかね。eTaxの入力フォームを参考にすればよかったかもしれませんね。

 

入力フォームの設計に問題があった。テストも不十分だった。

 

というより、失敗の原因としては、結局入り口だけ作って、出口を考えなかったことによるのでは? 受け付けた後にどういう審査をしてどういう処理をすれば早く振り込めるか、その工数を減らすために、どういうシステム設計にすればいいのかを考えなかった、これが問題では?

そのために、人海戦術で対応させられた自治体からすれば、いいトバッチリでは?

 

といって、批判ばかりしていても仕方がない。失敗が次に生かされないと意味がないと思います。

今のように、各省が素人としてシステム調達している現状では、結局、工数の妥当性もわからないし、テストの重要性もわからないと思います。厚労省の雇用関係システムで、他人の情報が閲覧できてしまったっていうトラブルだって、各省がシステム調達している現状では、別の調達でもまた同じ失敗が繰り返される可能性があります。

だって、調達している側、発注側はシステムのことよく知らないわけです。システムを知らない人でも発注しさえすればよいように作ってくれるというものではない。既製品を買ってくるのと違い、個別に構築されるシステムでは、発注側もシステムを理解していないと、ちゃんとしたシステムは作れない。当たり前の話です。

なので、政府IT庁みたいなのを作って、システム関連の調達と運用とかは、どこの省庁のシステムでもそこが汗をかいて仕事をするというのがいいのではないでしょうか。発注側としてのITスキル・外注管理スキルを身につけなければ、いつまでたっても今のママです。JUASとかにヒアリングするとかして、発注側としてのスキルを身に着けていくよう努力すべきだし、体制を変えるべきではないでしょうか。

国だと、「査定当局」を作りがちで、「政府IT庁」を作っても、そこが何も仕事をしないで、偉そうに各省に「指示」「審査」「査定」するだけだと、今の現状が全く何も変わらないと思います。というよりも、かえって「当局対応」の仕事が増え、無駄な仕事が増えるのにリリース時期は変わらず、かえって業務過多に陥って、システム失敗が増えるリスクすらあります。「指示」する人ではなく、各省に代わって、ITの発注スキル・外注管理スキル・業務要件をシステムに落とし込むスキル、こういうものを獲得する担当者が必要だと思います。