ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

10万円一律給付の事務処理(その11)世帯員情報の一致と突合キーと国がデータを持っていない問題

 

1.世帯員情報の一致の問題

前からものすごくしつこくブログに書いている、特別定額給付金の申請時に世帯員の氏名等を自治体側で確認する必要はないのではないかという件について。

 

(1)世帯員氏名等は一致しなくても良い

自治体側で把握している世帯員人数と、住民ご本人が申請してきている世帯員人数があっていれば、世帯員の氏名等が、自治体把握情報と申請情報とで一致していることを確認しなくても、振り込んでしまってよい、という風に5月(GW明けか少なくとも5月下旬に)国が自治体に伝えているようです。

 

でも、人数も別に一致してなくてもいいと思いますけどね。同一人を複数行に書いちゃったとしても、それって別に単なるミスでは? というか、ミスした住民側からしても、「同一人が二行にわたって入力されていますよ」っていう電話が自治体から来ても、「ああそうでしたか。世帯員一人分でいいです」っていうだけのような気が。「いえ、同一氏名の者がうちの世帯には二名いるんです!」って住民側がいっても、それが正しいかどうかは自治体側の住民基本台帳にすべて反映されていて自治体側は正しい情報がわかるわけですよね。1人1人に電話している時間は、総人数を掛け合わせるとかなりの時間数になるわけで。電話じゃなくて郵送で確認するのなら、まだ時間は短縮できそうですが、一件一件内容の違う郵便を個別に作って送るのも大変でしょうから=時間がかかるでしょうから、データ印刷・フォーム印刷で可能な印刷にした方が良いと思います。

 

 

(2)10万円うけとるかどうかの個別意思表示らしい

まあでもそれよりちょっとびっくりしたのが、住民に、世帯員の氏名等を申請時に入力させているのは、その人(世帯員)が10万円を受け取るかどうかの意思確認のためだそうです。

 

「私の世帯では、世帯主は10万円を受け取ります。世帯員の配偶者は受け取りません。世帯員の娘は受け取ります。世帯員の息子は受け取りません。」とかって、意思表示するために、マイナポータルで世帯員の氏名を入力する欄があったんですね。

私がマイナポータルで申請した際は、そうは感じなかったのですが、きっとそのようにどこかに記載があったのでしょう。「10万円辞退したい世帯員がいる場合は、氏名を入力しないでください」とかって赤字かなんかで書いてなければ気づかないような気も。これ、世帯主自体が辞退したいという場合はそういう入力はできないので、世帯員の氏名を一人減らせばいいのでしょうかねえ。

 

というか、財務大臣発言の出元が何なのか、財務大臣個人の考え方なのか、財務省の考え方なのか知りませんが、各個人で10万円を辞退するかどうか意思表示をするっていうのが、やはり良くないのではないでしょうか。

財政のことを考えてであれば、一律10万円給付した上で、国庫への寄付を受け付けるとか、あとは来年の確定申告時等に所得があまり減少していない人には返してもらうとかした方がよかったのでは(その場合、国税側の対象者ならいいけれども、それ以外の方をどうするか問題があるのと、督促・回収作業負荷の問題がありますが)。

尖閣だってかなりの寄付が集まったんですし、「マスクのための寄付」「医療従事者支援のための寄付」とかって、使途を明確化すれば、寄付も集まるかもしれません。

 

あとは法的に考えると、そういう理屈建てにしてしまうと、世帯主が勝手に「うちの世帯員は10万円いらないや」とかおもって、世帯員の意思に反していた場合どうするのか。この場合、10万円給付を受けるか辞退するかの意思表示主体は世帯員なはずであり、世帯主は世帯員の代理人になるわけですかね。代理人が本人の意思に反して意思表示してしまったらどうなのか。しかも本人が代理人を選んだわけじゃなくて、国から強制的に世帯主を代理人にさせられているわけで(世帯主と世帯員の関係が未成年者とその親であるなら法定代理人ですが、配偶者とか成年の子、成年のご高齢者がいる世帯で成年の子が世帯主などの場合はどうなのか。兄弟姉妹とか叔父叔母とか。これはあくまで任意代理ではないのか。)。行政に対する申請だから契約法理がそのまま適用されるわけではないと思いますが。ちょっとどうなのか。

 

社会学的に、日本の世帯概念と制度の変遷をたどっていって、それと家父長制的概念、家族の在り方的な話を掘り下げてみても良いのかもしれません。ただまあ「世帯」概念自体が行政事務に必要なことはそうなんですよね。扶養家族概念がないと、個人個人で納税して健康保険と年金ってなりますからね。

 

2.突合キー不存在という悲しい話

そして、びっくりしたのが、突合キー不存在問題です。

本人が申請してきたときに、「あなたは誰ですか」という情報が、氏名や生年月日等で把握されているという問題です。氏名だと外字等の問題もあり、また同姓同名もいます。変更もあります。そのため氏名等での照合は不効率なためにマイナンバーやその他の番号が活用されています。

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しかし特別定額給付金では、マイナンバーは活用されていません。マイナンバーカードのシリアル番号が使われています。シリアル番号があれば、別にマイナンバーがなくても、「あなたは誰ですか」という情報が、番号で管理できるので、一発で検索できるし突合できて処理が効率化します。

ところが、マイナポータルからオンライン申請されても、シリアル番号がわからない場合があるようです。あんなにいろんなパスワード入れているのに、なんとマイナンバーも取得していないし、シリアル番号も取得していないとは!

シリアル番号がわからなければ、氏名等で住基情報と突合しなくてはなりません。せっかくマイナンバー制度があるというのに、そしてマイナンバーカードを使ってマイナポータルを使っている申請というのに、なんたる非効率な突合なのか。

 

オンライン申請が電子証明書の発行日に行われたときとか、あとはマイナンバーカードは持っているけど利用者証明用電子証明書をつけていない場合には、マイナポータルから申請しても、シリアル番号がわからないそうです。なので、申請してきた人が誰かというのは、氏名等から住基情報等を検索して調べるしかなさそうです。生年月日検索なら数字のみの検索なので外字問題等は発生しませんが、生年月日なら2/29とか以外だとすごく対象者(同一生年月日の人)が多そうですし。

あとは、世帯員情報も突合キーがありません。マイナポータル申請だと氏名しか入力がないから、世帯主がだれかシリアル番号か氏名等から住基情報等を検索して、そこから同一世帯の世帯員情報を検索するということになるのでしょうか。

 

マイナンバーやシリアル番号という突合キーがあるのに、なぜ氏名で突合しなければならないのか。おそらく、マイナポータルでシリアル番号が取れない場合というのが、申請開始当初はわからなかったのかもしれませんが、シリアル番号ないっていうのはちょっとなあ。ならマイナンバー入力させればいいのに。

 

3.国がデータを持っておらず自治体にしかもっていないデータがある

国が一括で印刷を委託したりすればいいんじゃないかなとか、あとはマイナポータル側で世帯主のシリアル番号を持っておいて世帯主以外からの申請を排除するようチェックすればいいんじゃないかなとか考えましたが、国ではデータを持っておらず、結局、データは各自治体が持っているという問題があります。

 

あと、特別定額給付金の申請をオンライン又は紙でしたものの振り込まれないのでどういう状況か聞きたいという住民や、オンライン申請が受け付けられているか不安なので確認したいという住民向けに、Amazonの注文履歴・配達ステータスじゃないですけど、申請のステータスを本人が見られるようにした方が、自治体の問合せ対応負荷が減るんじゃないかなとか考えましたが、これも、国ではデータを持っておらず、結局、データは各自治体が持っているという問題があります。

 

J-LISが住基ネットの情報を元に一括で処理すれば、各自治体の手間が削減できて、各自治体で重複した作業っていうのも一部あると思うので、全体として処理が効率化できるかなとかも思いましたが、これも、J-LISではデータを持っておらず、結局データは各自治体が持っているという問題があるようです。

 

住基ネットデータを使えばいいと思ったものの、住基ネットは、住民情報は全部持っているものの、世帯情報がないそうなので、世帯情報を調べるためには情報提供ネットワークシステムを使わないといけない。これを使えば、世帯主本人かどうかはわかるのではないかと考えましたが、そうでしょうかね。でも、J-LISって情報提供ネットワークシステムを使う権限がないんでしたっけ? もちろん重要な役割を担っているわけですが、別表第二に載っていない? すると、世帯情報をJ-LISは情報提供ネットワークシステムから取得できないのではないかとも思います。まあその場合でも、法改正をするという手はもちろんありますが。

現行法のままでいくとすると、住基ネットデータだと世帯情報がない。各自治体の既存住基にしか世帯情報がない。だから、J-LISで一括処理をするのはできないのでしょうか。

 

紙の申請書のプレ印字も、住基ネットデータをもとにJ-LISで一括受注すればいいのかなとも思いましたが、世帯情報がJ-LISで取得できなければ、各自治体から世帯情報をもらわないといけない。

(市名の違いとかは、データ印刷というかフォーム印刷というか、プログラムでカスタマイズ可能ですよね? ここの場所にCSVデータのこの部分を入れる的なプログラムで可能かなと思ったのですが。問題は世帯情報が分からない点かなと。)

 

また、申請のステータスを本人が見られるようにするといっても、申請のステータスは各自治体でしかもっていないので、申請ステータスをマイナポータルで本人が確認できるようにするためには、申請ステータス情報を日々マイナポータル側に自治体からアップしてもらわないといけない。

 

さらに、マイナポータルで世帯主かどうかチェックするために世帯主のシリアル番号をマイナポータル側でもって、世帯主以外のシリアル番号から申請がきたらはじく処理をするにしても、世帯主かどうかは、既存住基か情報提供ネットワークシステムを使わないとわからないとすると、これもやはり各自治体から世帯主情報をもらって、で、そのシリアル番号をマイナポータル側で持っておかないといけない。

 

まあ自治体からデータをもらってマイナポータル上で持っておくということも技術的にはできなくないですよね。ただ、どうやってデータをアップしてもらうか、まあそれはデータをアップする画面を設けて、データの形式決めればいいわけですが、そうはいっても、そのデータを自治体に作ってもらうのは、自治体の負担になるわけだし。

 

そうだとすると、受給権者リスト(支給対象者リスト・マスタ)を、自治体の協力のもと、やはり内閣府かJ-LISで作って、そのリストを作るところは自治体側にデータを出してもらう又は法改正して情報提供ネットワークシステムで世帯情報取得して、で、あとの処理は内閣府かJ-LISで一括で処理するってなれば、データも一か所にあり、自治体の負荷も減らせるかと。

 

それかやはり世帯単位をやめれば、J-LISの住基ネット情報で行けますよね。ただ世帯単位をやめて個人単位にする場合は、未成年者や成年被後見人等にどう振り込むか、誰の口座にするかを検討する必要がありますが、国から全自治体に依頼するよりは、一か所で処理をすれば、その検討もその一か所と協議して伝えればいいから、効率的かなと。

 

結構複雑な問題がいっぱいあるので、ゆっくりデータの置き場とか、データの管理方法とか、自治体の手間とか、実際に全住民に振り込まれる期間がどの方法だと一番早いかとか(目先の速さの問題ではなくて、結果が出るまでの早さを考える)、国の手間とか、コストとか、実現可能性とか、住民側の手間とか、3密回避とか、いろんなことをじっくり考えてからじゃないと、なかなかオンライン申請と紙申請っていっても、難しいのかもしれません。

 

初期の検討に1ヶ月弱ぐらい取って、で、そこから急いでバーッと振り込むとかした方が、結果的に振り込みが早くなるのかもしれません。

 

 

 

 

ちなみに、世帯員情報の一致の件は、私は前からしつこくブログで次のように書いていました。

https://cyberlawissues.hatenablog.com/entry/2020/05/20/164912

https://cyberlawissues.hatenablog.com/entry/2020/05/07/094157

本人が「私の世帯員は100人です!」「私の世帯員にはハローキティがいます!」とか言ったところで、本人の申請情報は無視されますよね? 

だって正しい情報は自治体側の住民基本台帳情報なんですから。

それを、本人に「あなた、ハローキティが世帯員にいるって書いてますけど、自治体側ではハローキティ―さんは世帯員ではなく、水町雅子さんが世帯員だと把握していますので、そのように申請書を修正してよいですよね?」って確認する必要ありますか?

だって、そこで例えば本人が「いえ、水町雅子は世帯員ではなく、私の世帯員はハローキティ―なんです!」って言い張ったら、どうなるんですか? 本人の申告は無視するわけですよね? 世帯変更届とか出さないと、世帯変更できないですよね。そして世帯変更届で、「ハローキティ―を世帯員にしてください」って手書きで申請されたとしても、却下しますよね。

 

あと、本人がいくら「世帯員が100人いるから、自分は1010万円支給されるべき」っていったところで、却下しますよね? だって正しい情報は自治体側の住民基本台帳情報なんですから。

 

10万円給付で必要な情報は、

  • あなたは本当にその人ですか?なりすましではないですか?
  • あなた名義の銀行口座を教えてください、そしてその証拠として通帳やキャッシュカードのコピーを見せてください。
  • あなたは世帯主ですか?

っていう、この3点だけじゃないんですか?