ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

次世代医療基盤法改正の感想

23.1.12赤字箇所追記(法改正に関する個人情報保護についての感想追記)

次世代医療基盤法の改正に向けて検討が進められていましたが、現場ニーズに即した大幅な改正が盛り込まれる模様です。

https://www.kantei.go.jp/jp/singi/kenkouiryou/data_rikatsuyou/jisedai_iryokiban_wg/dai7/siryou1.pdf

www.kantei.go.jp

こういう法改正って、「一応改正しました」的なお茶を濁すものになることが多いのに、こういう風に大幅な改正をするとは、「法改正とはかくあるべし」という感じを受け、素晴らしいことだと思います。

どっかの法改正とは全然違うな~、と、どっかに対して地味に嫌味を言いたい気持ちです笑。

 

  • 社会課題を把握・調査する
    (この例でいえば、匿名加工医療情報の活用の困難さ)
  • 社会課題解決をするためにハードルとなるものを特定する
    (この例でいえば、個人情報保護)
  • ハードルを越えて社会課題を解決する方法を検討する
    (この例でいえば、利活用者の大臣認定制度の創設に基づく仮名加工医療情報の創設)

 

法改正とは、新法とは、こういう風に考えてほしいという、好例ですね。

被害者救済法とか、マイナンバーの実務なども、もっと良いものになることを期待します。

 

23.1.12追記
この改正の肝としては、

  • 現状の匿名加工医療情報のままだと、利活用ニーズが満たせないことがある(希少疾患の研究などができない)
  • そこで、匿名加工医療情報ではなく仮名加工医療情報を認めて、希少疾患の研究などにも活用できるように法改正した
  • しかし、匿名加工から仮名加工にすると、加工レベルが落ちるため、プライバシー権侵害リスクが生じてくる。そこで、仮名加工医療情報を取り扱う者への規制を強化し、個人情報の悪用・漏えい等を防ぐ。
  • 具体的には、仮名加工医療情報を作成する事業者のみならず、仮名加工医療情報の提供を受けて研究開発に用いる事業者についても、大臣認定を取得した者でなければだめとする。これによって、適切な管理等ができる事業者しか、仮名加工医療情報を触れないようにする。
    この点、現状で認められている匿名加工医療情報だと、匿名加工医療情報を作成する事業者のみ大臣認定を受けなければだめで、匿名加工医療情報の提供を受けて研究開発に用いる事業者については大臣認定は不要。なぜならば、匿名加工医療情報は完全に匿名化されているので、その提供を受ける者については最小限の規制で良く、医療情報(=個人情報)を匿名加工化して匿名加工医療情報を作成する事業者のみ厳格に管理すればよいという発想に基づくものである。
    これに対し、法改正で認められる仮名加工医療情報だと、医療情報(=個人情報)を仮名加工化して仮名加工医療情報を作成する事業者のみならず、仮名加工医療情報の提供を受けて研究開発に用いる者についても、仮名加工医療情報を取り扱うことになるため規制を強化する必要があるが、次世代医療基盤法改正案では、この規制を大臣認定という非常に強い規制にすることで、プライバシー権を保護しようとしており、この利活用ニーズを満たす状態のデータ提供をとても強い規制の下で行うという、利活用と保護のバランスが良いと考えます。
  • 残る論点としては、大臣認定の基準をどの程度にするか、でしょう。さすがに現状の匿名加工医療情報作成事業者並みの認定を利活用者にも行おうとするのは、厳しすぎでしょう。
    なぜならば認定匿名加工医療情報作成事業者とは異なり、仮名加工医療情報取扱事業者が扱う情報は生情報ではなく、あくまで仮名加工医療情報だからです。さらに、今の匿名加工医療情報作成事業者の認定、認定までに数年(2年?3年?)かかる模様であり、それを利活用者(仮名加工医療情報取扱事業者)にもやろうとするのは、タイムスケジュール・負荷的にも難しいと思われます。
    ですが、生情報ではないといっても、仮名加工医療情報を取り扱うわけであり、ずさんな認定では意味がない。違反をした際の制裁もきちんとする必要もある。そこの塩梅(どの程度の認定基準とするか)が難しそうです。
    そして、大手企業の利活用者なら対応できる認定基準でも、研究機関では対応できない場合もあり、しかし個人情報保護はきちんと行わなければならず、研究機関向けの認定基準も、実務的には悩ましそうです。

 

法改正となれば、次世代医療基盤法の書籍改訂しようかなあ。少なくとも公表しているパワポは修正しよう。