ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

10万円一律給付の事務処理(その10)マイナポータル側の申請チェックが必要では

しつこく10万円一律給付の問題について書いています。

 

オンライン申請に不備があったとの報道が盛んで、オンライン申請の受付停止をする自治体も散見される状況とのことです。

 

エラーの大別

今回、マイナポータルから特別定額給付金のオンライン申請があると、以下の事象が発生してしまいます

  • 1 申請者が世帯主でない可能性がある
  • 2 マイナンバーカードに書かれた本人ではない人が申請する可能性がある
  • 3 重複申請される可能性がある
  • 4 誤記される可能性がある

 

1 申請者が世帯主でない可能性がある

 マイナンバーカードがあれば、世帯単位じゃなくても、個人単位で管理ができるわけだし、DV被害者の場合世帯主に振り込まれても困るといった問題も軽減でき、一人ひとりに支給できるわけです。世帯主が全員分使いこんでしまうといった問題も回避できるわけです。

変に世帯主じゃないと申請できないとしたからこそ、申請者が世帯主でないと申請ミスになってしまうわけで、そして申請を受け付ける自治体側で申請者が世帯主かどうかを確認しなければならないという負荷が発生してしまったわけです。

別に、国民側だって悪気があるわけではなくて、自分が世帯主かどうかわからない人っていそうですし、あとは家族の中でマイナンバーカードを持っている人が世帯主でないってこともありそうです。

申請者を個人ごとにすれば、申請者が世帯主かどうかの確認も不要です。さらにいえば、世帯員情報の入力も不要で(これは世帯主申請を維持する場合でも不要だとは思いますが)、世帯員の氏名等が間違っているかどうかのチェックも不要になります。

 

申請者をどうしても世帯主にしたいとしても、だったら、マイナポータルで申請させる際に、裏で住民基本台帳データの検索処理を走らせて、その人が世帯主かどうかをチェックした上で、世帯主でなければ、エラー画面を出して申請を受け付けなくすべきだったのではないでしょうか。その処理を走らせると、重くなって、エラーが頻発したり、落ちたりっていうことももしかするとあるかもしれませんし、あとはマイナポータル運営組織の考え方からマイナポータル側で情報漏えいしたくないので極力個人情報を持ちたくないという考えがあるのかもしれませんが、

例えば、全世帯主のシリアル番号をマイナポータル側で持っておいて、で、申請が来たら、シリアル番号で検索かけて、全世帯主のシリアル番号に該当がなければ、世帯主じゃないっていうことで、エラー画面を出して申請を受け付けなくすればよかったのではないでしょうか。そうすれば、シリアル番号だけなので、氏名等の情報自体は申請で受け付けるまではマイナポータル側で持ちませんし。ただ、この処理でも重いかもしれませんが。

 

もっとも世帯主による申請にしないで個人単位の申請にする場合は、未成年者への振り込みはどうするかを検討する必要があります(未成年者だけではなく成年被後見人等の問題も考えなければなりませんが、未成年者の単独世帯の方が、成年被後見人の単独世帯より少ない気がします。)。父親か母親のどちらかに振り込むことになるのでしょうが、別居中であったり、親権者が一人である場合にどうするのか。未成年後見人がついている場合や施設入所の場合にどうするのか。同一住所の人で先に申請してきた親に振り込むのか。施設入所の場合、未成年者自身に口座があるのか。現金払いか。

 

2 マイナンバーカードに書かれた本人ではない人が申請する可能性がある

この問題が私にとっては意味不明なのですが、マイナンバーカードってピッとやると、カードの表面(券面)に書いてあるデータが読み取れるのですよね。だから氏名・住所・性別・生年月日は読み取れるわけです。

で、マイナポータルから申請するときに、本人が希望すれば、マイナンバーカードから券面入力情報を読み取れるようにしてましたが、問答無用で必ず券面入力情報を読み取らせるべきだったのではないでしょうか。

そして、マイナポータルから申請するときに、本人が希望すれば、マイナンバーカードから券面入力情報を読み取ったうえで、本人が訂正できるようになってましたが、その必要あります? マイナンバーカードと違う内容に勝手に直しちゃっても、住民票はマイナンバーカードのままなんですよね?(住民票住所地は更新したが、マイナンバーカードは更新していないということもなくはないが。もうこれはマイナンバーカードの更新漏れということでエラーではじいてもいいのでは?)マイナンバーカードに記載された内容以外はダメということにして、氏名や住所を変更できないように、マイナポータルの申請画面側でやってあげればよかったんじゃないでしょうか。

 

国民だって、ミスで間違って直しちゃったという場合や、子供(若者)がマイナンバーカードを持っていて、お父さん(世帯主)はカードを持っていないので、子供が自分のマイナンバーカードでマイナポータルにログインしたけど、申請者は世帯主だから、世帯主氏名に直しちゃったっていうことだって、別に悪意なくあると思うんですよね。

 

そういうのを受け付けないなら、マイナポータル側でエラーとしてはじいて、それだと申請できませんよって教えてあげた方が、申請する国民の側から見ても親切だし(だって、2か月ごととかにいきなり「あなたの申請では内容が不適切なので受け付けられませんでした」とか言われても困りますよね)、申請を処理する自治体側から見ても親切ではないでしょうか。

 

それかそもそも券面記載情報の氏名とかすらいらないですよね。マイナンバーかシリアぐ番号を読み取れば、もうその人っていうことでいいのでは?だってマイナンバーカードを所持していて、かつパスワードもわかっていて、さらに世帯主名義の口座までわかっている人なんですよね。で、どうせなりすまししたとしても、世帯主名義の口座にしか振り込まれないんですよね。なりすましリスクはかなり低いのでは?

 これに対してキャッシュカードなんて、カードの所持と暗証番号だけで、もう本人とみなしてお金おろしたり振り込んだりできるわけですよね? クレジットカードなんて、カードの所持とあとはカード記載事項しか入力させなくないですか?それで買い物できちゃうんですよね。

なんで、特別定額給付金だけ、ここまでやるのか。世帯主名義の口座にしか振り込まれないし、カードを所持していて、パスワードも1種類どころか、何種類もわかっているわけで、さらに券面記載事項を入力させて修正可能にするっていうのが、なぜなのか。

 

3 重複申請される可能性がある

次、移りますが、これも、なんで重複申請排除をしないのかよくわかりません。申請状況の確認画面とかも用意してもいいぐらいでは?

まあそこまですると処理が重くなったり開発期間を考えたのかもしれませんが、せめて申請済シリアル番号をマイナポータル側で持っておいて、その申請済シリアル番号にある番号から再度申請が来たらはじいてあげたらいいのでは?

ただ、マイナポータル異常な遅延が発生してたんで、一回申請受け付けたけど、完了処理までいっていない10分後とか5分後に申請がまた来たら、申請済シリアル番号に記載もないので、重複申請でも通っちゃうとかはあり得る気もしますが、まずその遅延というか、エラー画面でユーザ側には表示しつつも、実際には1週間後に処理が完了するとかいう変な状態を解消して、そして仮処理済と本処理済を分けて、ロールバックするっていうか、なんとかできそうな気もしますけどね。だめなんですかね。

 

4 業務効率化につながるIT化にしないと意味がない

オンライン申請の方が紙申請よりも、申請を受け付ける側のチェックに時間がかかるというのは、設計がおかしいと思います。

だって、例えば、クレジットカードを新しく作るときに、昔だったら、紙で細かく自分でいろいろ書いてやってましたよね?それが最近では、申込者本人にタブレットで全部入力させてますよね?

紙で書いてもらっても、それを受け取る事業者側でデータ入力しなければならず、データ入力の外注費がかかりますが、タブレットで入力してもらえば、データ入力の外注費が不要です。さらにデータでもらえば、データの状態でチェックもかけられます。

さらにいえば、クレジットカードの支払いをする銀行口座の登録の際に、押印が必要などとして、あとから郵送してもらう方式だと、押印が面倒くさくて、最後まで手続きを完了させない人とかいそうですよね。そういったカード作成の取りこぼしを防ぐため、最近では、クレジットカードの支払いをする銀行口座の登録の際に、押印は不要として、その代わりキャッシュカードがその場にあれば手続可能としたりしていますよね。

 

というように、本人に紙で書いてもらうよりも、本人の時点でデータ化してもらった方が、コストカット・業務効率化につながると思います。というか、つながらないような設計にしないのが通常だと思うんです。

 

それが、オンライン申請を紙に印刷して目でチェックするというのは、いかがなものか。急いでオンライン申請を開始したいという意思があったのだと思いますし、それ自体は良いことだったとは思うのですが、日でも早く受給したいという国民の声にこたえるためだと思いますが、結果的に申請を受けた後の処理が遅れて、受給も遅れればどうなんだろうとは思いますが。

 

 

そして、マイナポータル側も改善したとの話も聞きました。ただ、私はもう申請済だから、自分で確かめることができず。申請を最後までやらずに途中までの状態で試してみれば、どう改善されたかがわかるんですかね?でも、前に申請した際、最後まで完了できなかったのに、1週間後に受付メールが来たりしたんで、また申請を最後までやらないで試しただけで勝手に重複申請扱いにされても困るし…。

 

結局、マスク配布にしてもマイナポータル申請にしても、あまりに急ぐと、仕事に必要な期間が取れずに、ちゃんとしたものにならない可能性があると思います。

弁護士の仕事でも、「1時間で見てください!」「2時間で見てください!」みたいな依頼がくることがありますが、そうすると、結局、1時間でできる作業ならいいですけど、そうじゃないと、そんな時間しかかけられなければ、頑張って作ったところで不備のある契約書ができたりしちゃいますよね。弁護士側で断らないといけない。お客さま側はどうしても急ぎでっていう要望はあるかもしれませんが、翻ってはお客さま側のリスクになるわけで。「ここ直すだけなら1時間でできますよね?」というお客さんもいらっしゃいますが、実際に仕事として、てにをはを直すだけなら確かに5分でできるかもしれませんが、契約書を数か所直したら、全体に影響が出る可能性もあり、やはり通読したり検討が必要だから、1時間じゃ無理というものもあり。そういう依頼は断らないといけないと思います。あとはこちらも他の会議に出ていたり講演していたり他の急ぎの仕事をやっている場合があり、お客さまだけの仕事に急ぎで専念できるわけでもなく。

まあ、民間でも官でも、あまりに急ぎすぎると、仕事をだらだらしているわけじゃなくて、相場の期間というものがあって、それをあまりに急ぎすぎると難しいかなと思います。