ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

デジタルガバメント改正法案

2020.9.1追記しました。

 

2020.8.27

www.jiji.com

 

預貯金口座とマイナンバーの連結法案が、総務省から来年通常国会目途で提出されると以前より報道されていましたが、マイナンバー活用その他のデジガバ関連法案も一緒に提出され、一括提出されるそうです。

 

 

政府は来年にかけてマイナンバー制度を軸とする行政のデジタル化を一気に進める方針だ。

国は20年ぐらいこれ(=行政のデジタル化)を言い続けているように思いますが、なぜ進まないのか、その理由を分析して、課題を克服していかないといけないのではないでしょうか。

口先だけでDX、ユーザエクスペリエンス、UI向上などといっても仕方がなくて、何をどういう風にデジタル化するか、その目標・各省への義務をどうかけていくのか、利用者が使いやすいように設計するために本当の意味で利用者の声を聴く機会を必ずもうけさせるようにするためのスキームなどを検討していくべきでしょう。

 

昔は「デジタル化」とか言わずに、「IT」とか「いっと」(笑)とか言っていたように思いますが、呼び方は変わったものの内容とか進まなさとかは20年前から大して変わっていない気が。

 

緊急経済対策などに伴う給付の迅速化を図るほか、生活保護、児童手当もマイナンバーを通じた給付を検討する。支給ミス防止や手続きの簡略化にもつなげる。

具体的に何をするのか、それによって現状と何が変わるのかをきっちり示しましょう。

生活保護、児童手当もマイナンバーを通じた給付って言っているだけでは? 両方、個人番号利用事務でしょう。なぜマイナンバーをそもそも活用していないのか。児童手当の現況届、まだ国民に出させている自治体ありますよ。生活保護だって、重複申請のチェックがマイナンバーでできなかった気がしますが?

 

運転免許証との一体化で調整しており、将来的には現行の免許証の廃止も視野に入れる。医師免許などの国家資格証もマイナンバーカードに集約するほか、日本に中長期間滞在する外国人に交付する在留カードも一体化の対象としたい考えだ。

運転免許証とマイナンバーカードを一体化するっていっても、ゴールドかどうかとか有効期限とか眼鏡着用とか書く必要があるから、どうするんでしょうかね。券面に書かないで、別途書類でもらうとすると、有効期限とかわからなくなる人いると思うのですが。警察が切符きるときは、ピッとやる端末みたいなのを持っているとも思われるので、ICカードで対応できそうですが。

医師国家資格証っていうのは、保険証を兼ねるから、病院にはカードリーダーが入るから、HPKIもそれでよんでねっていう話ですかね。

 

そりゃ確かに免許証と一体化すれば、普及率は上がるでしょうが、カード二枚持たせる仕組みとかにもししたら、めちゃくちゃ国民利便性下がりますよね。今の国家公務員の入退館って、マイナンバーカードの上からもう一枚カードをかぶせているんでしたっけ? ああいう形に運転免許証をするとすれば、ものすごく不便ですよね。だからさすがにそれはしないかな。所持者側の利便性と、バックエンド側の効率化、両方を達責するスキームにしないといけないですよね。

 

あとはJ-LISに支払う2円問題を解決しないと。お金は2円じゃなかったでしたっけ?2円でしたっけ?忘れてしまいましたが。

2円を保険者が負担するとか、利用者が負担するとかって、その2円を上回る利益がない限り難しいわけで。今は2円払ってないのに、なぜマイナンバーカードを使うと2円払う必要があるのか。2円払ってでも2円を超える価値が出るなら払うけど、でもそんなに財政に余裕ないし、みたいな。

運転免許証をマイナンバーカードにして、警察が切符をきる用にマイナンバーカードを読み取るたびに、J-LISに2円払うんでしょうか。国庫金で警察が予算を取る? どうなんでしょうかねえ…。HPKIは2円とは関係ない?

既に判明している課題を放置して、拡大を続けるっていうのは、失敗する可能性が高くなる気がするのですが。どうなんでしょうかねえ、ほんとに…。

 

既存のカードありきで、既存のカードと一体化する戦略も否定はしませんが、それよりも前にブログで書きましたが、社会課題を解決するスキームにしていくべきだし、マイナンバーの本来の効果を発揮するスキームにしていくべきだと思います。

マイナンバーカードがあれば、例えば住民票はいらない、戸籍も取りに行かなくていいとか、待ち時間ゼロの優先レーンとか、DXによって国民に便利さ・快適さを提供できるような、そして同時に役所側のバックエンドの処理も効率化・迅速化して、公益に役立つような、そういうデジガバを実現するような検討が必要だと思います。

 

もう、だんだん、これ関連のニュース見ても、毎度毎度同じことばかり思うので、だんだんムカムカしなくなってきました。特別定額給付金の時にマイナンバーが活用できなくて、毎日ムカムカして、どうすれば改善できるか必死に考えていろいろやってきましたが、なんでこういう検討・改善をしないんだろう、なんでこんなスキームなんだろうと考えれば考えるほどムカムカしていましたが、だんだん慣れてきたというか、またかと思うというか。まあ淡々と私にできることをやっていきたいと思います。

 

2020.9.1追記

住民票とか戸籍抄本・謄本とか印鑑証明書とかの証明書類の発行通数は、年間、1つの区又は市で数十万枚にも及ぶようです(団体の人口規模にもよってきますが、人口数がそこまで多くない区で数十万通なので、大規模自治体だと百万枚に達する可能性も?)。全国的に見たら、どれだけの枚数が発行されているかを考えると、すごい数に及ぶと思います。

それをデジタル化できたらかなりの件数ですよね。半分デジタル化するだけでも、すごい数です。ペーパーレス、住民側の手間(来庁するための時間、待ち時間、申請書記入時間等)・役所側の手間(外注費、人件費等)削減の観点からも、期待できそうです。

 

マイナンバーカードがあっても、住民票とかの証明書類は引き続き必要なわけですが、例えばマイナンバーカードによってそれがどれ位削減できたのかなどの具体的効果が出てくると、本当に良いと思います。

なぜ、いま困っていない保険証や運転免許証をマイナンバーカードに統合したがるのか。

保険証をマイナンバーカードに統一することで、ICカード化・全国共通化できるので、効果が上がる可能性はありますが、そうはいっても今の検討状況だと、オンライン資格確認だって、現状と比べ費用対効果が上がるのかどうか(コストの方が高いというオチにならないのか)、全国共通化のメリットは何かなど、きちんとした分析が必要だと思います。

運転免許証はもともとICカードの気がしますので、マイナンバーカードと統合されることで、マイナンバーカードの普及率向上以外に具体的にどのような効果があるのかを明確に示す必要があるのではないでしょうか。マイナンバーカードの普及率が向上したって、それって別に政策目的ではないというか、ゴールではないですよね。カードの普及率を向上させるっていうのは、何らかの政策目的達成のための手段では? 手段とゴールの混同など、論理的な検討・分析ができていないように感じてしまいます。

 

あとは、証明書自動交付機が、多くの自治体で設置されていて、そのためのカードって結構な普及率だった気もしますが、マイナンバーカードの登場によって証明書自動交付機もカードも廃止になり、マイナンバーカードによるコンビニ交付(マイナンバーカードでコンビニで住民票の写しとかが取れるようになったので、市区町村独自の証明書自動交付機は廃止)に切り替わっています。

しかし、証明書自動交付機によって交付されていた証明書の通数と、マイナンバーカードのコンビニ交付で交付されている証明書の通数を比較すると、後者の方が少なく、証明書自動交付機の廃止によって、コンビニ交付がそれを代替するというよりも窓口交付増につながっている可能性もあります。

この辺りもデータとして、きちんと分析していくべきではないでしょうか。せめてコンビニ交付ぐらいは、証明書自動交付機よりも成果を上げてほしいものです。そして、証明書自動交付機のためのカードの発行枚数と、マイナンバーカードの発行枚数の比較とかもやっていくべきですよね。

 

まずは足元から、すでに実施している政策から、現状をきちんと把握・分析して、課題を克服して、具体的効果を上げていくべきではないでしょうか。思い付き的にマイナンバーカードの政策を打ち出しても、今と何も変わらない気がします。迷走ぶりが謎です。