ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

マイナンバーをやり直すということ?(デジタルIDとマイナンバーのすみ分けは困難では)

r.nikkei.com

 

 

どういう仕組みにするつもりなのか

マイナンバーに対して「怖い」「いやだ」という評判の方が多いので、マイナンバーやマイナンバーカードの活用をあきらめて、デジタルIDという名前に変え、実際はマイナンバーやマイナンバーカードでやりたかったことをやるという風に、読めてしまいますが、その理解で正しいでしょうか。

以下ということでしょうかね。

 

マイナンバーとのすみわけは現実には不可能では

 マイナンバーとデジタルIDの二重投資になります。ので、二重投資を許容できるような費用対効果を示してもらわなければなりません。

マイナンバーとすみ分ける机上整理を事務的にはするのでしょうが、現実的にはすみわけは不可能でしょうね。

 

―税番号としてマイナンバーが必要では

マイナンバー自体を廃止してデジタルIDに全面移行できれば、すみわけ問題は発生しませんが、マイナンバーの廃止は税番号として使う以上できないですよね。マイナンバー自体は、税務署への法定調書提出のために、見えないIDじゃなくて見える番号の形で必要ですもんね。

まあでも、税番号としてのマイナンバー自体を廃止するという選択肢もなくはないかもしれません。税番号として大して効果が出てないなら、まあいらないですよね。そこの検証をして、マイナンバーを廃止するかどうか決めた方が良いと思います。二重投資って本当にもったいないし、すみわけもできないと思うので。ただ、税番号として効果があがっているなら、そこはやはり廃止できないですよね。

 

まあでも、たぶん、マイナンバーを廃止してデジタルIDに切り替えって、やらなそうですよね。もしそれをやると、マイナンバーが失敗だったって認めるようなもんだから、国としてはそういうことはやらなそうな気がします。

 

―すべての窓口に読み取り機?

税番号としてのマイナンバーを廃止すれば、それ以外でマイナンバーという見える番号が必要な場面って本当はないのかもしれません?? 

でも、仮に税番号としての機能をやめたとしたら、マイナンバー自体を廃止することは可能で、デジタルIDに全部切り替えられるかもしれませんが、その場合、目で見て確認できるマイナンバーではなく、デジタルデータとしてのIDだから、何らかの手続や処理をするすべての窓口に、必ずカードの読み取り機をつけないといけないですよね? 

 

それが現実的なのかどうなのか。

読み取り機問題を回避するためには、カードという物理媒体をやめて、スマホへのインストールみたいにするとか?? そうするとカードはなくて、本当に物理的なものいっさいなしで、というかスマホ又はパソコンだけで、完結できますね。

 

ただ、カードをやめると、耐タンパ性がないですよね? 耐タンパ性をあきらめて普及率向上を目指してスマホアプリみたいにするっていうことでしょうかね? そうじゃないとカードという物理媒体が必要だと、読み取り機も必要になりますけどね。

 

マイナンバーカードはどうするのか? 

そして、マイナンバーカードは廃止ですかね。だって、保険証だって図書館カードだって券面入力補助APだって入館証だって、マイナンバーが書いてある必要はないんですから。

マイナンバーの証明用に別途何かは必要ですが、そうすると通知カードを廃止する必要はなかったのでは? 通知カードでマイナンバーの証明して、今のマイナンバーカードみたいなものはデジタルカードにするっていうことでしょう。

 

でも、保険証のオンライン資格確認だって、もうシステム作っちゃってるんですよね?とりあえず当面はオン資はマイナンバーカードでやって、その新しいカードができ次第、そっちに切り替えるんですかね。お金が二重投資でもったいないですよね。でもオン資には問題があるから、これを機に切り替えられたらいいかもしれませんけどね。そういうのってどうなんですかね。

 

そしてマイナンバーカードを図書館カードとか券面入力補助APで使っている自治体は、現行のマイナンバーカードも使えるけど、ゆくゆくはそのデジタルカードに切り替えてね的にするんですかね。切り替えに国費つけるんですかね。もし切り替えに国費つけないとなると、一生懸命マイナンバーカードを盛り上げようと努力してきた自治体が損(金銭面でも労力面でも)をすることになり、不公平ではないでしょうか。

 

結局は、デジタルIDといってもマイナンバーと変わらない。イメージの問題だけ。

 まあ、すみわけと切り替えに、自治体で大混乱が生じそうですが、かなりの問題が発生しそうです。

そして、それ以上に懸念されるというか、その問題を押して、多額の国費を投入したって、結局デジタルIDなんてやったところで、これって「国民ID」のリバイバルっていうか、結局はマイナンバーですよね。機関別符号とか、機関ごとに異ならない符号と同じ話だから。実態は一緒なのに、目くらましっていうだけですよね。

 

で、マイナンバーが進まないのは、「怖い」「いやだ」という評判の方が多いからというのもあるのかもしれませんが、それよりも、実際にどういうユースケースでどういう効果を出そうとするかというのが不明瞭なままに、幅広にマイナンバーを使える事務はあるものの、結局事務的にもあまり使わず、使っているのって住基ネットだけじゃないですか?的な感じだからじゃないですか? 

少なくとも、行政のバックエンドの処理っていうのは、マイナンバーでいいはずですよね。それすら進んでいない現状で、今みたいに、適当にユースケースも考えずに効果も考えずに、思い付き的政策でデジタルIDを入れなおしても、「見えない」符号だから、「怖い」「いやだ」という評判はマイナンバーほどはなくなるかもしれませんが、行政での活用っていうのは難しいと思います。民間活用を促すっていう効果は期待できるかもしれませんが、結局はそのカードを取得してもらわないとだめっていうことだと、普及率の話になって、元の木阿弥に戻る的な気もして。

 

「IDがあるといいよね」「マイナンバーで何かできるんじゃないの」という漠然とした思い付きで政策決定するのではなく、具体的にどういうユースケースでどういう効果を発揮したいのか、それを元に考えていかないと、いつまでたっても、国費を大量に使ったところで、同じことの繰り返しだと思います。

 

デジタルIDに変えなくても、マイナンバーのままでも、きちんと国民に理解してもらうようにわかりやすい誠意ある説明を繰り返し、かつマイナンバーの具体的な効果をきちんと発揮することこそが大事じゃないでしょうか。コロナで、「マイナンバーがあるのに何をやっているんだ」という声が多かったと思います。「マイナンバーがあって、本当に良かった!」と国民が感じられるような、そういうユースケースできっちり効果を出す、そして事故を起こさなければ、「怖い」「気持ち悪い」「気味が悪い」「裏があるのでは?」というようなマイナンバーへの印象も変わっていくと思います。

 

どうしてもデジタルIDに変えたいなら変えてもいいと思いますけどね、お金がもったいないと思いますが、でも、変えるのなら、変えた意味を出すような、きちんとした圧倒的効果を発揮しないといけない。じゃなければ、なんのためにデジタルIDに変えるのかわからないから。

 

ちゃんと、漠然とした思い付きではなく、こういう効果を出すという政策目標を決めて、そのためにどういうスキームが必要なのか、どう事務処理を変えればいいのかを地道に検討していかないと、結局デジタルIDに変えたところで、マイナンバーと実態的には一緒なんですよね。マイナンバー制度だって符号やシリアル番号があるわけですからね。「見える」マイナンバーが消えるっていったって、印象論に過ぎない気もします。

 

アフターコロナもあり、やはり本当にICTは重要になってきます。ここで、IT化がほかの分野と比べて遅れている行政や医療にICTをどかっと投入して、目に見える効果を発揮して、そして当然安心も担保する、こういう仕掛けが必要なことは絶対にその通りで、大きな目指す道は間違っていない。ただ、その道に行くための政策が、ちょっとどうなの?と思うわけで、そこはきちんと地道な検討を続けて、世の中の役に立つ制度を作るべきだと思うのです。

 

デジタルID入れるとしても結局はマイナンバーの仕組みをほぼ流用可

ただ、あれですね。いいこととしては、デジタルIDを入れるとしても、結局目くらましにすぎず、マイナンバーと変わりがあんまりありませんから、そうなってくると、マイナンバーの仕組みをほぼそのまま流用できるかもしれませんね。

マイナンバーカードからマイナンバーの表記さえ取れば、そのままデジタルIDカードになりますよね。だって、電子証明書とシリアル番号はそのままでいいんですから。

で、それを読み取って処理すればいいだけだから、マイナンバーを書かないっていうだけで、あとは、そのまま使えばいいのでは?

行政内の処理も、機関別符号とIDコード、これでやれば、マイナンバーを使っていないってことになるので、見えるマイナンバーさえ取っちゃえば、もうそのままデジタルIDになりますね。

マイナンバー制度をほぼ変えないで、そのままデジタルIDになりますね。

そうすると、あんまり投資しないでよさそうですね。生のマイナンバーをそのまま取得しているところを変える必要がありますが、たぶん、そこはいじらないで、税番号の部分は今のままにして、そのまま生のマイナンバーをそのまま持っていていいっていうことになりそうな気が。

そうすると、仕組みは、カードからマイナンバーの表記を取るぐらいしか、変えなくていいのでは? そうすると、二重投資っていっても、全然お金かからないかもしれません。ただ、国民への広報・企業への広報・マイナンバーとの切り分け・自治体の事務支援で、そこそこのお金がかかる気はしますが。

 

プラットフォーマー対策になるのか??

あと、日経にあった以下の記述も謎です。 

政府はプラットフォーマーと呼ばれる巨大ITにデータが集中するのを防ぐには、デジタルIDで個人が情報を管理する必要があるとみている。

 これも、もう少しはっきりとした検討が必要ではないでしょうか。プラットフォーマーって、無料メールとか無料テレビ会議とか無料クラウドサービスとか無料検索サービスとかオンラインショッピングモールとかを提供して、それでユーザのデータを得ているんですよね?

メールの内容とかチャットの内容とか、画像の保存場所、ドキュメントの保存場所等ファイルサーバとしての活用、あとは購買履歴に検索履歴、位置情報とかって、デジタルIDがあったとしても、やはりプラットフォーマーに集中するのでは?

デジタルIDがあっても、Yahoo!ウォレットとかの情報とか、なんていうか基礎情報、氏名、性別、生年月日、住所、クレジットカード、銀行口座とか、そういうのを管理するだけではないのでしょうか? 検索履歴とか購買履歴もデジタルIDと紐づけて、情報銀行的に個人の意思に基づいて管理するということを目指しているのか?

なんかちょっとよく意味が分からないような…。