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弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

【マイナンバーQ&A】税・福祉などマイナンバーを利用する事務でも、自治体にマイナンバーの提出を求められませんでした

自治体からの質問)マイナンバーを利用する事務で、住民に記入していただく「申請書」に個人番号の記載欄を設けず、個人番号を記載せずに申請していただいてもよいでしょうか。自治体の内部処理上は、申請書に記載された住所、氏名、生年月日等をもとに自治体の方で申請者の個人番号を調べて補記等する予定です。法律上問題ないでしょうか。

市民からの質問)平成28年になって市区町村窓口に行きました。税・福祉などマイナンバーを利用する事務で手続をしたのですが、なぜか自治体にマイナンバーの提出を求められませんでした。申請書にマイナンバー欄もなく、自治体の人に「私のマイナンバーを書かなくてもいいのですか?」と聞いたのに、「いいです」と言われてしまいました。なぜなのでしょうか。本当にこれでよかったのでしょうか。

よくお寄せいただく質問です。

市民の方への回答)マイナンバーを利用することのできる事務は、法律上限定されていますが、どの申請書・申告書にマイナンバー記載欄を設けるかどうかとなると、これは自治体の判断によるところもあります。したがって、自治体の方で、「マイナンバーを書かなくてもよい」というのであれば、基本的に大丈夫でしょう。もっとも、自治体のその職員がミスをしていることも考えられなくはありません。しかし職員が仮にミスをして、マイナンバーを本来は記載していただかなくてはならないのに記載しなかったとしても、ご本人に不利益はありません。自治体の方で処理できますので、大丈夫です。

逆に、「あなたの申請書にマイナンバーが記載されていなかった。今すぐ電話で教えてください。」といった電話や、訪問に気を付けるようにしましょう。そういった電話や訪問は詐欺の可能性が高いので、相手の部署名・氏名を聞いた後、すぐ電話を切ったり、ドアを閉めて、ご自身でインターネットやタウンページなど、自治体のきちんとした電話番号を確かめ、そこに電話して、相手が名乗った部署名を名指しして、こういうことがあったけど本当か、と聞くようにしましょう。


自治体の方への回答)個人番号の取得に関する解釈は、「どんな場合でも必ずこう」とは言い切れず、難しいところがあります。

なぜなら、一律にどのような場合でも必ずしも個人番号を取得する義務はないものと思われるからです。

自治体では、住民基本台帳マイナンバーを記録して管理しています(住民基本台帳法7条8号の2)。
したがって、自治体においては、マイナンバーを住民の方から教えていただかなくとも、自治体の側で調べて、内部処理効率化を図ることができます。これは、法律違反ではありません。法律に基づき住民基本台帳法に記録し、法律に基づく範囲内で、マイナンバーを含む住民基本台帳情報を利用するからです*1


別表第一事務で個人番号を利用すること、これは番号法の趣旨から、自治体においてやっていただきたいことですが、各フェーズごとに必ず個人番号を取得すべきかというと、番号法からは、「事務効率化・住民利便性などを考え、適宜判断」ということになるかと思います。

事務効率化という意味では、従来の申請書などだと、名前・住所だったわけで、それをシステム検索等するには、入力して検索ということをやっていたと思います。その点マイナンバーだと入力ミスも減り、入力の手間も減り、また複数人該当者がいるということがなくなりますので、「鈴木さん」などで検索して10人表示されたりしてしまうと、本来見る必要のない個人情報を見ることになっていたかと思います。これがマイナンバーだとみる必要がなくなり、業務効率化・ミスの削減・プライバシー保護の観点から望ましいといえます。

住民利便性向上という意味では、申請書によってマイナンバー記載があったりなかったりすると混乱するので、その混乱を防止するということが考えられます。


もっとも、番号法ではなく、事務の根拠法(地方税法等)の規定やその趣旨から、個人番号の取得が義務付けられる場合もあるので、一概に、必ず個人番号の取得が不要とはいえません。

したがって、一概に、「個人番号を必ず取得すべき」とは言い切れないものの、基本的には、事務効率化、住民の混乱(例えば、地方税なのにマイナンバーが求められる手続と求められない手続があることの混乱)を考えると、別表第一事務については、個人番号を取得すべきと考えられますが、法的義務があるかということをぎりぎり詰めていくと、事務の根拠法や根拠法を所管する官庁の見解を逐一確認しなくてはならないということになります。

なお、証明書類のように、住民から受け取るものではなく、住民に渡すものについては、事務の根拠法や根拠法を所管する官庁の見解として、個人番号を記載すべきでないという考えが示されていますので、これについてはそれに従って、個人番号を記載しないということになります。

最後に補足ですが、知り合いの方から情報提供いただきました。平成28年度税制改正大綱(19頁)では「マイナンバーの記載に係る本人確認手続やマイナンバー記載書類の管理負担に配慮し、一定の書類についてマイナンバーの記載を不要とする見直しを行う。」と書いてあるそうです。

*1:なお、これに対して、国税庁日本年金機構ハローワーク健康保険組合、民間企業などは、住民基本台帳自体を持っていません。したがって、基本的にはご本人からマイナンバーを聞かないと、マイナンバーを知ることはできません。もっとも、番号法14条2項に基づき、住基ネットが利用できる一定の機関は、住基ネットマイナンバーを知ることができますが、民間企業は住基ネットに接続できず、これはできません。