ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

マイナンバーに関する裁判例

判例調査をしていたところ、マイナンバーに関する裁判例を見つけましたので、備忘としてブログに記載しておきます。

 

東京地裁平成28年10月25日 損害賠償等請求事件

  • 当事者)原告→個人,被告→自治
  • 事案の概要)東京都A市に住民票を有する原告が、刑務所に収容されているため、マイナンバー通知を,直接市役所に受取りに行くことも,住所地の自宅で受け取ることもできないため,被告A市に対し,平成27年12月以降,再三にわたって,原告の居所地に送付するよう求めた。ところが,その後,被告から回答も返信もないまま3か月以上が経過しており,これにより,原告は,多大な肉体的・精神的・経済的損害を受けたとして,損害賠償及び謝罪文の掲載等を求めた事案。
  • 結論)請求棄却
  • 判断)被告は,当該時期,通知カードの発送事務及び個人番号カードの発行業務に忙殺されていた上,マイナンバーに関する事務は法定受託事務であるところ,刑事施設入所者に関する取扱いについて総務省から明確な事務処理要領の指示がなかったこともあり,原告への対応を直ちにとることができなかったこと,その後,被告において対応を検討の上,原告に対する書面をもって,居所情報登録申請書と在監証明書を送付してもらえれば通知カードを渡すことができる旨の通知をし,その後,原告から上記必要書類が提出されるのを待って,原告の収容先に通知カードが配達されたこと,被告は,このほかにも,原告の要請に応じて書類を返送するなどの対応をしていること等の事実が認められた。
  • 刑事施設に収容されている者にとって,マイナンバー通知を速やかに受領することについて,不法行為法上の保護の対象となるような法的利益があるか疑問である上,仮にこれを肯定できるとしても,上記で認定した経緯に照らして,被告の公務員において,職務上の注意義務に違反して,通知カードの発送に係る事務を不相当に遅延させたとまで認めることはできない。
  • そうすると,原告の損害賠償請求は理由がなく,また,その余の請求についても,当該請求権を生じさせる根拠について必要な主張立証があるとはいえない。

 

感想↓

自治体のマイナンバー通知事務も大変であるなと思いました。但し裁判所の判断として「刑事施設に収容されている者にとって,マイナンバー通知を速やかに受領することについて,不法行為法上の保護の対象となるような法的利益があるか疑問である」という言い方はいかがなものかと。もう少し論理的に(マイナンバー必要となる場面であるA、B、Cなどは収容中は行えない等の理由を付す等)、法的利益について判示した方が良かったのではないかと思いました。