国として、デジタル化は進めるべきと考えています。ただ、「デジタル化=マイナンバーカードの普及率向上」ではないと考えます。マイナンバーカードには確かに意義がありますが、普及率とか保険証とかよりも、デジタルハンコとしての価値を着実に積み重ねて、セキュアで利便性の高いサービスの実現を目指すべきと考えます。
8/4首相会見
まず、岸田政権は「なぜデジタル化を急いで進めるのか」ということです。2020年、私は党の政調会長として、コロナとの闘いの最前線に立っていました。そして、我が国のデジタル化の遅れを痛感いたしました。
国民への給付金や各種の支援金における給付の遅れ、感染者情報をファクスで集計することなどによる保健所業務のひっ迫、感染者との接触確認アプリ導入やワクチン接種のシステムにおける混乱。欧米諸国や台湾、シンガポール、インドなどで円滑に進む行政サービスが、我が国では実現できないという現実に直面し、我が国がデジタル後進国だったことにがく然といたしました。
このデジタル敗戦を二度と繰り返してはならない。主要先進国に大きく後れを取っている我が国行政のデジタル化の遅れを取り戻したい。この強い思いから、政権発足以来、デジタル田園都市国家構想、マイナカードの早期普及を進めてきました。
コロナ対応として、デジタル活用がうまくいかなかったのは事実です。
ですが、首相が掲げる「デジタル田園都市国家構想」や「マイナカードの普及」によっても、首相がおっしゃる「国民への給付金や各種の支援金における給付の遅れ」「感染者情報をファクスで集計することなどによる保健所業務のひっ迫」「感染者との接触確認アプリ導入やワクチン接種のシステムにおける混乱」は解決しません。
コロナや将来起こるかもしれない問題に対して、
- 2020年以来の問題を具体的事例で総括し、
- それを解決するためには、具体的にどういう対応をすべきなのかを検討し、
- デジタル化で本来どういうことができるべきなのか、どうあるべきなのかを検討していく
ことが必要なのではないでしょうか。
首相スピーチは役人が書いているはずです。スピーチを書いた各省の方、ぜひ、ここを考えるべきではないでしょうか。ぜひ、考えませんか。
例えば、給付金の迅速な支給、感染者数情報等の情報共有の効率化・迅速化、繁忙業務をDX・BPRすることで職員の負担軽減、不足物資の公平な支給、感染者情報・研究に必要なデータの効率的・正確な分析、この辺りが2020年以来できていなかった課題なのでは。
それを解決するためにはどうしたらいいのか。デジ田やマイナンバーカードだけではなく、以下のような検討が必要では?
- 給付金の迅速な支給:給付金・支払金などの口座や手続を、簡単に登録・変更・確認できるようにする仕組み作り(公金受取口座制度だけでは難しい)
- 感染者数情報等の情報共有の効率化・迅速化:個別システムの作り込みにも時間がかかるので、突発ニーズが出たときに迅速な情報共有を可能にする方法の検討
- 繁忙業務をDX・BPRすることで職員の負担軽減:保健所業務、病院業務を例にとって、具体的解決策を積み上げる
- 不足物資の公平な支給:これこそマイナンバーカードが役立つのでは。配給制度がどう実現されていたか調べたうえで、不足物資を公平に支給するための方策を検討する。買占め防止、転売防止、必要な人に迅速に支給するための方策等。東日本大震災の時に、赤ちゃんのミルクを作る用のミネラルウォーターとかも、同じ論点だと思われる。コロナに限らず、地震などの災害時などにどうするか。
- 感染者情報・研究に必要なデータの効率的・正確な分析:プライバシーとセキュリティを確保したうえで、医療情報を集約して、必要な分析をできるようにする仕組み作り
〇さえやれば、デジタル化が一足飛びに進むというようなものはないのでは。
一個一個丁寧な地道な検討が必要なのではないのか。
森喜朗氏のインタビュー記事も読んだ。
「仕事するのはいいが、政権が取り組むメニューが多すぎる。解決したのは半分もないよ。例えば少子化対策。『異次元』という発想は良かったが、厚生労働省が喜ぶような中身を発表しただけじゃないか。なぜ若い人が結婚しないのか、子どもをつくらないのかが問題なはずだ。役人に任せて、役人向けにしゃべって、役人が後処理している。ふたを開けてみたら大したものじゃなかった、ということが続くと、支持率は下落してしまう」
(中略)
―マイナカードを巡る混乱が続く。
「僕は、森内閣でIT基本法を成立させた張本人ですよ。今はデジタル化時代。慣れれば、確かに便利なものなんだろう。自動車だって、交通事故で犠牲者が出ても『車をなくせ』とは誰も声を上げない。なぜかと言えば便利だからだ。日本のデジタル化の遅れを象徴するのがマイナカードであって、普及へ思い切った首相は勇気があると思う」
「日本のデジタル化の遅れを象徴するのがマイナカード」というのがどういう意味なのか。「象徴」というのは、論理的関係はあまりないが、イメージ論というような意味あい? マイナカードの普及を急いだからといって、デジタル化が進むわけではない。
政策目標は、人々の生活に役立つデジタル化、コロナその他の困難の下でも社会生活を維持できるデジタル化(?)と思われ、その手段がなぜマイナンバーカードの早期普及になるのか。論理的関係性が不明ではないのか。