ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

処方せん、お薬手帳に関するメモ

処方せん、お薬手帳、診療録に関する法律上の建付けの個人的メモです。

健康保険法第四十三条ノ四第一項及び第四十三条ノ六第一項(これらの規定を同法第五十九条ノ二第七項において準用する場合を含む。)、並びに日雇労働者健康保険法及び船員保険法の下位規範としての「保険医療機関及び保険医療養担当規則

健康保険法第四十三条ノ四第一項及び第四十三条ノ六第一項(これらの規定を同法第五十九条ノ二第七項において準用する場合を含む。)、並びに日雇労働者健康保険法及び船員保険法の下位規範としての「保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則」


1.処方せん

  • 法令等の定め
    • 保険医療機関及び保険医療養担当規則20条(医科)21条(歯科)三で使用期間等が定められている。
    • 23条1項で処方せんを交付するときの記載義務。2項で疑義照会対応義務。
    • 様式は、様式第二号又はこれに準ずる様式(23条1項)。
    • 保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則3条で処方せんの確認義務。
    • 6条で3年間の処方せんの保存義務。
    • ジェネリックの説明(8条3項)。
  • 個人情報
    • 処方せんの流れ:医師が作成→患者に交付→薬局に患者が提出→薬局で保存
    • 医師→患者:(患者の個人情報の側面)本人への提供で第三者提供に該当せず、(医師の個人情報の側面)本人同意または法令に基づく提供
    • 患者→薬局:個人データの提供に当たらないので個人情報保護法の問題にはならない。これに対して医師→患者は、1枚の処方せんであっても、個人情報データベース等を構成するデータであるので、個人データに当たると解するのが適当か。
      • 仮に個人データに当たった場合は以下の通りか。
        • (患者の個人情報の側面)本人による提供であるし、患者は個人情報取扱事業者にあたらないし、患者本人の同意がある、(医師の個人情報の側面)患者は個人情報取扱事業者にあたらないが、仮に当たる場合でも本人同意または法令に基づく提供
        • 患者本人はいくら反復継続して受診していたとしても、個人情報取扱事業者には当たらないと解するのが自然。個人情報取扱事業者に当たる患者はいないはずだが、例えば介護事業者が本人に代わって処方箋を薬局に提示しているような場合、介護事業者は個人情報取扱事業者になる。そうすると、医師の個人情報の側面は、法令に基づくとするか医師本人の同意があると解することになる。法令に基づくとする場合は、何法何条が根拠条項となるのかという論点があるが、薬剤師法23条や保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則1条・3条が根拠となるのであろう。

2.お薬手帳

  • 法令等の定め
    • 健康保険法七十六条第二項(同法百四十九条において準用する場合を含む。)及び高齢者の医療の確保に関する法律七十一条第一項の下位規範としての「診療報酬の算定方法を定める件(診療報酬の算定方法の一部を改正する件)(告示)」
    • これの別表第三調剤報酬点数表の区分10薬剤服用歴管理指導料の中の手帳
  • 個人情報
    • お薬手帳の流れ:処方せんデータの一部(?)を薬局でお薬手帳に貼付するシール化して作成→患者に交付→患者が他の医療機関や薬局に提示することもある
    • 薬局における作成:利用目的の特定具合によるが、通常は目的内利用
    • 薬局→患者:(患者の個人情報の側面)本人への提供で第三者提供に該当せず、(医師の個人情報の側面)医師本人の同意または法令に基づく提供で提供可、(薬剤師の個人情報の側面)通常は薬局名だけで薬剤師名は記載されていない例が多いと思うが、仮に薬剤師名が記載されていると、薬剤師本人の同意または法令に基づく提供で提供可
      • 医師の個人情報の側面について法令に基づくとする場合は、何法何条が根拠条項となるのかという論点がある。かなり強引だが、健康保険法63条1項2号の療養の給付及び76条2項・「診療報酬の算定方法を定める件(診療報酬の算定方法の一部を改正する件)(告示)」の療養の給付に関する費用を、根拠条項とするのか。薬剤師法25条の2という手もなくはないか。医師本人の同意を擬制するのか。仮に医師が、お薬手帳に自分の名前を記載するのに同意しないと、明示的に不同意を表明した場合、同意構成の場合どうするのかという論点はある。仮に不同意をしたとしても、制度上医師の同意がみなされると無理くり解釈するのか。それともその場合は、人の生命・身体・財産の保護で同意を得ることが困難として提供可とするのか(個人情報保護法23条1項2号)。このように、医師本人の同意または法令に基づく提供という構成、ともに、難は残る。しかし最終的には人の生命・身体・財産の保護で同意を得ることが困難に当たり、提供可となるので、あくまで論理上の難にすぎず、実務上の影響はないのだろう。
      • 薬剤師の個人情報の側面は、薬剤師法25条か、医師の個人情報と同じ条項か、同意で行ける。
    • 患者→他の医療機関・薬局:個人データの提供に当たらないので個人情報保護法の問題にはならないことが多い。ただし、家族分のお薬手帳をインデックス管理などしていたら、個人データの提供に当たるか。これに対して薬局→患者は、1枚のシールであっても、個人情報データベース等を構成するデータであるので、個人データに当たると解するのが適当か。
      • 仮に個人データに当たった場合は以下の通りか。
        • (患者の個人情報の側面)本人による提供であり、個人情報取扱事業者にあたらないし、本人同意がある、(医師の個人情報の側面)医師本人の同意または法令に基づく提供、(薬剤師の個人情報の側面)通常は薬局名だけで薬剤師名は記載されていない例が多いと思うが、仮に薬剤師名が記載されていると、薬剤師本人の同意または法令に基づく提供
        • 法令、同意ともに上記と同じ論点はある。

3.診療録

保険医療機関及び保険医療養担当規則8条で診療録の記載及び整備義務。
22条で記載義務。
様式は、様式第一号又はこれに準ずる様式(22条)

4.関連法令抜粋

〇健康保険法

(療養の給付)
第六十三条 被保険者の疾病又は負傷に関しては、次に掲げる療養の給付を行う。
一 診察
二 薬剤又は治療材料の支給
三 処置、手術その他の治療
四 居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護
五 病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護

(療養の給付に関する費用)
第七十六条 保険者は、療養の給付に関する費用を保険医療機関又は保険薬局に支払うものとし、保険医療機関又は保険薬局が療養の給付に関し保険者に請求することができる費用の額は、療養の給付に要する費用の額から、当該療養の給付に関し被保険者が当該保険医療機関又は保険薬局に対して支払わなければならない一部負担金に相当する額を控除した額とする。
2 前項の療養の給付に要する費用の額は、厚生労働大臣が定めるところにより、算定するものとする。

〇薬剤師法

(処方せんによる調剤)
第二十三条 薬剤師は、医師、歯科医師又は獣医師の処方せんによらなければ、販売又は授与の目的で調剤してはならない。
2 薬剤師は、処方せんに記載された医薬品につき、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師の同意を得た場合を除くほか、これを変更して調剤してはならない。
(処方せん中の疑義)
第二十四条 薬剤師は、処方せん中に疑わしい点があるときは、その処方せんを交付した医師、歯科医師又は獣医師に問い合わせて、その疑わしい点を確かめた後でなければ、これによつて調剤してはならない。
(調剤された薬剤の表示)
第二十五条 薬剤師は、販売又は授与の目的で調剤した薬剤の容器又は被包に、処方せんに記載された患者の氏名、用法、用量その他厚生労働省令で定める事項を記載しなければならない。
(情報の提供及び指導)
第二十五条の二 薬剤師は、調剤した薬剤の適正な使用のため、販売又は授与の目的で調剤したときは、患者又は現にその看護に当たつている者に対し、必要な情報を提供し、及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わなければならない。
(処方せんへの記入等)
第二十六条 薬剤師は、調剤したときは、その処方せんに、調剤済みの旨(その調剤によつて、当該処方せんが調剤済みとならなかつたときは、調剤量)、調剤年月日その他厚生労働省令で定める事項を記入し、かつ、記名押印し、又は署名しなければならない。
(処方せんの保存)
第二十七条 薬局開設者は、当該薬局で調剤済みとなつた処方せんを、調剤済みとなつた日から三年間、保存しなければならない。

保険薬局及び保険薬剤師療養担当規則

(療養の給付の担当の範囲)
第一条 保険薬局が担当する療養の給付及び被扶養者の療養(以下単に「療養の給付」という。)は、薬剤又は治療材料の支給並びに居宅における薬学的管理及び指導とする。

(処方せんの確認)
第三条 保険薬局は、被保険者及び被保険者であつた者並びにこれらの者の被扶養者である患者(以下単に「患者」という。)から療養の給付を受けることを求められた場合には、その者の提出する処方せんが健康保険法(大正十一年法律第七十号。以下「法」という。)第六十三条第三項各号に掲げる病院又は診療所において健康保険の診療に従事している医師又は歯科医師(以下「保険医等」という。)が交付した処方せんであること及びその処方せん又は被保険者証によつて療養の給付を受ける資格があることを確めなければならない。

(調剤の一般的方針)
第八条 保険薬局において健康保険の調剤に従事する保険薬剤師(以下「保険薬剤師」という。)は、保険医等の交付した処方せんに基いて、患者の療養上妥当適切に調剤並びに薬学的管理及び指導を行わなければならない。
2 保険薬剤師は、調剤を行う場合は、患者の服薬状況及び薬剤服用歴を確認しなければならない。
3 保険薬剤師は、処方せんに記載された医薬品に係る後発医薬品が次条に規定する厚生労働大臣の定める医薬品である場合であつて、当該処方せんを発行した保険医等が後発医薬品への変更を認めているときは、患者に対して、後発医薬品に関する説明を適切に行わなければならない。この場合において、保険薬剤師は、後発医薬品を調剤するよう努めなければならない。