ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

医療分野の個情法一元化に係る法制局資料の疑問点

令和3年個人情報保護法改正の法制局提出説明資料を見ていたところ、かなり気になる記述がありました。

「医療分野について個人情報保護法制が分かれていると大変なので、統一します」という説明の中に、次の通りの具体例が書かれていました。

 

20201225_第19回(部長審査_新旧プレ①)2012 説明資料

6 医療事業を行う独立行政法人等に対する民間部門における規律の適用
(新第58条及び第125条関係)

2.医療事業を行う独立行政法人等に対する独個法の適用に係る課題

(2) 他の医療機関への病歴等の提供の困難性

例えば、患者XがA病院(独立行政法人等)からB病院(民間又は独立行政
法人等)に転院する場合、通常は本人の同意を得ることが可能であり(独個法
第9条第2項第1号)、たとえ本人の同意が得られなくても、適切な医療を提
供することは明らかに本人の利益になるため(同項第4号)、病歴等を提供す
ることができることとなる(利用目的の特定の仕方によっては、患者に対する
医療の一環として、利用目的の範囲内における提供に該当することもあり得
る。)。
他方、A病院の患者Xの病歴等をB病院が患者Yの治療の参考とする場合は、
患者Xの同意が得られない限り、「相当の理由」又は「特別な理由」の該当性
について、A病院が個別具体的に判断しなければならず、また、病歴等を提供
する場合は、措置要求の要否についても判断し、必要があると認める時は、措
置要求をしなければならないこととなる。
これに対し、仮にA病院が民間の医療機関であれば、「人の生命、身体又は
財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難で
あるとき」(個情法第23条第1項第2号)に該当し、本人同意なしに病歴等を提供することが可能であり、また、措置要求をする必要もないこととなる。
このため、同じ医療機関であるにもかかわらず、独立行政法人等の医療機関
においては、他の医療機関に病歴等を提供するために、「相当の理由」 又は「特
別な理由」の該当性や措置要求の必要性を個別具体的に判断することや、必要
があると認めるときに措置要求をすることが負担となり、医療機関間の相互協
力に支障を生じさせかねない状況となっている。

 

病院Aが他の病院Bに患者の病歴を、B病院の他患者の治療の参考用に提供する事例。

患者同意なく、提供するって実務上普通なんですかね?

Aが民間病院だったとして、私相談を受けたとしても、『「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」に該当するので、患者同意なく提供できますよ』とは一律には答えないと思います。

だって、「本人の同意を得ることが困難」といえるのか、個人情報保護法だと厳しい解釈になるはずですよね?本人にちゃんとアプローチしたんですかっていう話にまずなるし。

さらにいえば、「人の生命、身体の保護のために必要がある」といえるかも疑義が残りますよね。その患者さんの病歴が、他患者の生命・身体の保護に必要があるとまでいえるような、そんな重要な病歴なのかなとか、まあ遺伝性の疾患で家族の病歴とかだったら確かに必要かもしれませんが、それだったら同意を取るのではとか思って、法制局提出資料の具体例が疑問です。

 

立法事実はどうなのかなあ。