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弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

農山漁村再生可能エネルギー法に関するメモ

農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律(農山漁村再生可能エネルギー法)に関するメモ(随時更新予定)。

平成25年11月に農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律(農山漁村再生可能エネルギー法)が成立し、平成26年5月1日に施行されました。

1.資料

2.法律の概要

  • 目的・趣旨
    • 農山漁村において農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電を促進するための措置を講ずることにより、農山漁村の活性化を図るとともに、エネルギーの供給源の多様化に資する(法1条)
    • 再生可能エネルギー発電を促進し、地域における所得の向上等に結びつける(法骨子1)
    • の無計画な整備により、農林漁業の健全な発展に必要な農林地等が失われ、これらの機能の発揮に支障を来すことがないよう、農林地等の利用調整を適切に行う(法骨子1)
  • 主務大臣が基本方針を定める(法4条)
  • 事業者は、市町村に、基本計画の作成についての提案をすることができる(法5条6項)
  • 基本計画を作成しようとする市町村は、基本計画の作成及びその実施に関し必要な事項について協議を行うための協議会を組織することができる(法6条1項)。
    • 構成員(法6条2項)
      • 基本計画を作成しようとする市町村
      • 事業者
      • 当該市町村の区域内の関係農林漁業者及びその組織する団体、関係住民、学識経験者その他の当該市町村が必要と認める者
      • 構成員と期待される役割については、このパワポの13ページ
  • 市町村は、申請があった場合において、その申請に係る設備整備計画が次に掲げる要件に該当するものであると認めるときは、その認定をする(法7条3項)
    • 設備整備計画の内容が基本計画に適合するものであり、かつ、申請者が当該設備整備計画を実施する見込みが確実であること。
    • 設備整備計画に記載された再生可能エネルギー発電設備等の整備に係る行為が、当該計画作成市町村が管理する漁港の区域内の水域又は公共空地において行う行為であって漁港漁場整備法第三十九条第一項の許可を受けなければならないものである場合には、当該再生可能エネルギー発電設備等の整備に関する事項が同条第二項の規定により当該許可をしなければならない場合に該当すること。
    • 設備整備計画に記載された再生可能エネルギー発電設備等の整備に係る行為が、当該計画作成市町村が管理する海岸保全区域(海岸法第三条の規定により指定された海岸保全区域をいい、同法第四十条第一項第二号 及び第三号 に規定するものに限る。次項第七号及び第十三条において同じ。)内において行う行為であって同法第七条第一項又は第八条第一項の許可を受けなければならないものである場合には、当該再生可能エネルギー発電設備等の整備に関する事項が同法第七条第二項 (同法第八条第二項において準用する場合を含む。)の規定によりこれらの許可をしてはならない場合に該当しないこと。
    • 認定をする場合は、関係機関(知事、大臣等)へ協議・同意を得る必要あり(法7条4項)
    • ポイント!!!
      • 市町村は、認定設備整備者が認定に係る設備整備計画に従って再生可能エネルギー発電設備等の整備を行っていないと認めるときは、その認定を取り消すことができる(法8条3項)!!!
  • 農地の転用、保安林の立木の伐採など、個別法の手続がワンストップ化
    • 個別法の許可権者である国の出先機関都道府県に出向く必要がなくなり、市町村から助言を受けながら申請書類を作成すればよい
    • 個別法とは、農地法、酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律、森林法、漁港漁場整備法、海岸法、自然公園法、温泉法
  • 農林値所有権移転等促進事業
  • 国→市町村への援助(努力義務、法20条)
    • モデルケースの紹介、情報提供、技術的助言
    • 地方農政局等に相談窓口が設置
  • 都道府県→市町村への援助(努力義務、法20条)
    • 立地条件等の情報提供、技術的助言
  • 市町村→事業者への指導・助言(義務、法21条)


3.事例

このパワポの26ページ以下

  • JA浜中町太陽光発電を活用した酪農経営による生乳のブランド化「エコ牛乳」。高級アイスクリームの原材料!
  • 熊本県上益城郡山都町水増集落:太陽光発電の売電収入の約5%の500万円/年を地域還元
  • はさき漁業協同組合:風力発電による漁港施設の電力費用負担を軽減。漁港のイメージアップ。新エネ大賞受賞。
  • その他

農水省Webサイトにおける紹介

  • 基本計画作成の取組状況(平成27年12月末現在農林水産省調べ)
    • 基本計画を作成済: 12市町村
    • 基本計画を作成中: 13市町村

基本計画の作成を検討中: 39市町村
基本計画の作成に関心あり: 285市町村


4.基本想定

基本想定Q&Aから抜粋

  • メリット
    • 地権者は、新たな地代収入が得られる
    • 市町村は、固定資産税による税収の増加が見込まれる
    • 地元企業は、発電設備の整備やメンテナンスに携わることが可能となり、雇用の創出につながる
  • 市町村が中心的役割を担う
    • 国の基本方針に基づく、基本計画の作成
    • 基本計画の作成・実施のための協議会の組織・運営
    • 再生可能エネルギー発電設備の整備を行おうとする者の作成する設備整備計画の認定
    • 認定設備整備計画の適確な実施を担保するための指導及び助言  等
  • 農業委員会の役割
    • 農地を含めようとする場合には、農地転用の可否について判断が伴う場合も考えられるため、農業委員会の委員を協議会の構成員とすることが適当
    • 設備整備計画の認定に係る農業委員会の関与については、都道府県知事が市町村の認定に対する同意の可否を判断する場合、農地法に基づく許可の審査と同等の効果を持たせるためには農業委員会の関与が必要であることから、市町村が農地法に基づく許可が必要な行為が記載された設備整備計画を都道府県知事に協議する際には、あらかじめ当該市町村の農業委員会の意見を聴く
  • 農地転用
    • 区域には、
    • 農業上の再生利用が困難な荒廃農地
    • 農業上の再生利用可能な荒廃農地のうち、生産条件が不利で、相当期間耕作に供されず、受け手が見込まれないため、今後耕作の見込みがない土地
    • であれば、第1種農地であっても含めることができることとし、認定を受けた設備整備計画に従ってこの区域で再生可能エネルギー発電設備を整備する場合には、転用が可能
    • 風力発電設備及び小水力発電については、転用面積が点的であること、風況が良いなど立地場所に制約があること等から、沿道など農業上の利用に支障がない位置に配置する等の要件を満たす場合、荒廃農地以外の農地も「再生可能エネルギー発電設備の整備を促進する区域」に含めることができる
    • To Be Continued...


5.残念な問題

上記のようにとてもよさそうな法律に見えますが、実際上発生している再エネ設置関係の問題を踏まえると、あまり有効とはいえない法律かなとも思います。その理由です。

  • この法律に従わない事業者に対する制裁方法がない
    • 法7条1項では、「再生可能エネルギー発電設備の整備を行おうとする者は、農林水産省令・環境省令で定めるところにより、当該整備に関する計画(以下「設備整備計画」という。)を作成し、基本計画を作成した市町村(以下「計画作成市町村」という。)の認定を申請することができる。」と規定されています。
    • 「できる」規定であっても、計画作成市町村内で設備の整備を行おうとするときは、申請を行わなければならないと解釈するのだろうと当然思いましたが、担当課(農林水産省食料産業局再生可能エネルギーグループ)に問い合わせたところ、なんと申請をしなくてもよいということです。文字通り、申請をしてもよいという規定だそうです。
    • 残念です。
    • これは行政有権解釈ですので、裁判所の解釈は異なる可能性があります。しかし仮に、裁判上、法7条1項申請義務と解釈したとしても、申請しなかった事業者について、制裁を加えることができないのではないかと思います。
    • 除却命令みたいなものを出して法律に規定しないと代執行できないのではないかと思いますし、執行罰、直接強制も見当たりません。
  • 計画の中にさまざまな内容を盛り込むと、適切な再エネ設備整備につながるとは思います。しかしさまざまなことが盛り込めないのではないかと思います。
    • 同法の趣旨は「農山漁村において農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電を促進するための措置を講ずることにより、農山漁村の活性化を図るとともに、エネルギーの供給源の多様化に資すること」です。
    • したがって、たとえば基本計画の中で、他の趣旨、例えば観光産業発展との調和、住民の住環境の平穏・安全の確保など、法の目的の範囲外のことを盛り込んで、認定基準とすると、他事考慮として、裁判上違法になる可能性はないのかという疑問が生じます。
  • したがって、再エネ設備の規制を検討する市町村においては、この法律を使う場合は、あくまでソフトな手段にとどめたい場合に限るのかな、と思いました。そうでないような問題が発生している市町村においては、この法律ではなく、景観条例でいくのか、独自条例を作るのかといったところなのでしょうか。