条例を制定するに当たって、法令に反してはいけませんが、どういう検討をする必要があるのかについて、今調べているところなので、途中過程ですが、備忘メモ的にブログに書いておきたいと思います。
1.前提
憲法は、「地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる」と定める(憲法94条)。これを受けて地方自治法では、「普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる」と定めている(地方自治法14条1項)。
法令に抵触した条例は違法・無効であり、条例を定めるに当たって、「法令に違反しないかどうか」が問題となる。条例が法令に抵触するか否かを巡っては、かつては、古典的法律先占論が通説であり、法律が明示・黙示に対象としている事項については、法律の明示的委任なしに同一目的の条例を制定しえないと解された。しかし、1960年代後半から公害問題が深刻となり、公害防止条例で法律による規制よりも厳格な規制を定める例がみられ、古典的法律先占論は、現在ではほとんど支持を失っている(宇賀克也『地方自治法概説第6版』210−211ページ)。
しかし最近でも、2002年制定の「千葉県廃棄物の処理の適正化等に関する条例」の立案過程において、環境省などが、廃棄物処理法の規制対象外の施設の独自規制は同法の規制で必要かつ十分と考えるべきであるゆえに違法と主張したことがあったとのこと(北村喜宣『自治体環境行政法第7版』(第一法規、2015年)22ページ)。びっくりすぎます!
また、法律の空白は、伝統的立場によっても、なんら積極的な意味を持たないと解されよう(北村喜宣『自治体環境行政法第7版』(第一法規、2015年)22ページ)。つまり、法律がない場合に、規制しない趣旨であるとは考えないということ。
この点、判例は、徳島市公安条例事件最高裁判決(最大判昭和50年9月10日刑集29巻8号489ページ)がリーディングケースである。同判決は次のように述べる。
- 条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規制文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない。
- 例えば、ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも、当該法令全体から見て、右規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなりうるし、
- 逆に、特定事項についてこれを規律する国の法令と条例が併存する場合でも、後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり、その適用によって前者の規定の意図する目的と効果をなんら阻害することがないときや、両者が同一の目的に出たものであっても、国の法令が必ずしもその規定によって全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく、それぞれの普通地方公共団体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは、国の法令と条例との間にはなんらの矛盾抵触はなく、条例が国の法令に違反する問題は生じえないのである
まとめると、
- 法令なし、しかし放置する趣旨 → 条例は制定不可
- 法令あり、しかし目的が相違し、条例が法令の目的・効果を阻害しない場合 → 条例可
- 法令あり、目的が同一だが、全国一律の規制ではない場合 → 条例可
- 条例の法律適合性の判断(最高裁の判断枠組み)の図は、同書33ページ、元は北村喜宣・磯崎初仁・山口道昭編著『政策法務研修テキスト第2版』(第一法規、2005年)15ページだが、修正されている。
- 目的が同じであっても、条例の可能性は排除しないと解すべき。法律が一定目的を掲げていれば、条例の目的がそれと同じあるいは包含される限り制定できないとすれば、法律専占論よりもさらに後退した議論になってしまう(23ページ)。
- スソ切り:国の法令が一定規模、一定基準以上の種類・事項を規制対象としている場合、条例が法律と同目的で、法律の規制対象から外れているものを規制することは可能か(24〜25ページ)
- 横出し:法律の規制から漏れてはいるが自治体によっては規制が必要な領域に規制を及ぼすこと(25〜26ページ)
- 一般に、適法とされている
- 横出し条例の典型例は、規制基準項目の追加、規制対象施設の追加、手続の追加、規制対象規模未満の施設の規制
- 横出しの場合、法律に規定がある場合は別にして(例、都市計画法33条4項)、規制実施のために当該法律を利用することができず、所定の実施手続が規定されたフル装備の自主条例を制定要と考えられてきた
- 上乗せ:国の法令と同一目的で同一対象に関してより厳しい規制を規定(26〜27ページ)
- 水質保全法と工場排水規制法に基づく排水規制と条例の関係についての内閣法制局の法制意見(1968年10月26日)
- 横出し条例は認められるが、規制は必要かつ十分な内容を持っているから、指定水域内の工場の規模の裾切の引き上げや新たな汚濁物質の規制(横出しか)は許されないとした
- 全国的見地からの判断であって、それでは十分と自治体が判断してより厳しい規制をすることを考えている場合には、地域的事情の考慮を自治体に任せればよい。ただ事業者の義務の上乗せと引き換えに自治体の責任を緩和することには問題がある。
- 「かえて適用」(例、水質汚濁防止法3条3項、大気汚染防止法4条1項)がない場合は、フル装備型の自主条例を設ける必要がある。
- 水質保全法と工場排水規制法に基づく排水規制と条例の関係についての内閣法制局の法制意見(1968年10月26日)
- 法律に規定される文言の詳細化・具体化の例(39〜40ページ)
- 条例の制定に当たっては、法律による規制の限界、それに起因して発生している社会的弊害、地域的観点からみて独自の対応をすべき必要性などを慎重に検討したうえで、自治体の環境空間のよりよい管理と創造のために、新たな可能性を追求することが期待されている(42〜43ページ)
3.法令に反して違法な条例の例
目的が相違するが条例が法律の目的・効果を阻害し違法とされた例として、宗像市環境保全条例に関する福岡地判平成6年3月18日行集45巻3号269ページ(判例集未確認、インターネット判例.comで閲覧、抜粋)では、このように述べている。
- 廃棄物処理法一五条による法上の産業廃棄物処理施設の設置等に対する規制は、右処理施設に起因する環境悪化の防止という要請との調和を保ちつつ右処理施設による産業廃棄物の処理を通じて生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図るという目的に出たものであるのに対し、新条例七条及び八条による条例上の産業廃棄物処理施設の設置等に対する規制は、もつぱら自然環境の保全及び自然環境に係る事業者と市民の間の紛争を予防する観点から一般的に産業廃棄物の処理施設の設置等の抑止を図るものであるから、その目的の貫徹を図ろうとする限りにおいて、必然的に同法の法目的の実現が阻害される関係にあることは明らかというべきである。
- 新条例は、同法が規制の対象としていない規制外処理施設をも条例上の産業廃棄物処理施設として規制の対象に取り入れた上で、「自然環境の保全又は紛争の予防を図るための措置が必要であると認めるとき」という要件の下にその設置等に係る計画の変更又は廃止の指導・勧告を罰則の制裁を伴って規定しているのであるから、その適用いかんによっては産業廃棄物の処理施設による産業廃棄物の処理を通じて生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図るという同法の目的を阻害することになるものというべきである。
- もっとも、同法一五条が、産業廃棄物の処理施設の設置等による同法の法目的の実現と施設に起因する生活環境の悪化の防止の要請との調整をすべて国の専管事務とし、地方公共団体が地域の自然的社会的諸条件に応じて異なった規制を施す余地を一切認めない趣旨までを規定したものと解すべきか否かについては、さらに検討を要するところといわなけれはならない。そこで、考えるに、産業廃棄物の処理施設が一般に自然環境に深刻な影響を及ぼす危険を有しており、しかもその影響の程度、内容が地域によって異なり得ることに鑑みれば、規制外処理施設といえどもその設置等により著しい自然環境の破壊を生じる具体的な危険が存し、かつ、右環境破壊について市民と事業者との間に深刻な紛争を生じるおそれがある場合等には、地方公共団体が、かかる事態を防止するため、条例でもって規制外処理施設の設置等に関し同法一五条に規定するのと同様の規制を施すことも同法の趣旨に反するものではないと解する余地もなくはないように思われる。そこで、新条例八条の「自然環境の保全又は紛争の予防を図るための措置が必要であると認めるとき」の文言を、一般人の立場から読み取れる範囲内で、右の趣旨、すなわち、「著しく自然環境を破壊する具体的危険があり、かつ、極めて深刻な紛争を生ずるおそれがある場合」等に限って規制を施す趣旨のものであるという具合に合理的な限定解釈を行い得るかについて検討するに、右要件の文言及び新条例の関連規定などをみても「自然環境の保全」や「紛争の予防」といった抽象的な文言以外に合理的限定解釈を行うための文言上の手掛かりは見出せず、他に合理的限定解釈を行う指針となるべきものを見出すこともできないから、新条例に右のような合理的限定解釈は行い得ないと解するのが相当である。
- 水町コメント:廃棄物処理法は、環境悪化を防止しつつも産業廃棄物の処理を通じての生活環境の保全及び公衆衛生の向上が目的であり、ある意味、処理にフォーカスが当たっている一方、条例は自然環境の保全、事業者と市民の紛争予防の観点から産業廃棄物の処理施設設置等の抑止を図るものであり、施設設置抑止にフォーカスが当たっているため、条例が法律の目的・効果を阻害するとされた。それでも限定的謙抑的な規制であれば、条例が適法と解される余地があったと見える。
(2)飯盛町旅館建築の規制に関する条例
必要以上に厳しい規制を行ったとして比例原則に違反し違法無効となった例→福岡高判昭和58年3月7日行集34巻3号394ページ(百選3版30)。
旅館業を目的とする建築物を建設しようとする者は当該建築及び営業に関する所轄官庁への認可申請前に町長の同意を要することとした上,右同意の基準を定めた飯盛町旅館建築の規制に関する条例(昭和53年飯盛町条例第19号)3条が,旅館営業につき旅館業法より強度の規制を行うべき必要性及び規制手段の相当性がないとして,同法に違反するとされた事例である。
- 旅館業法は、公衆衛生の見地及び善良の風俗の保持という二つの目的をもつて種々の規制を定めているが、旅館業を経営しようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならないとし(同法三条一項)、都道府県知事は、許可の申請に係る施設の設置場所が、学校、児童福祉施設、及び社会教育法二条に規定する社会教育に関する施設で、学校、児童福祉施設に類するものとして都道府県の条例で定めるものの敷地の周囲おおむね一〇〇メートルの区域内にある場合において、その設置によつて当該施設の清純な施設環境が著しく害されるおそれがあると認めるときは、許可を与えないことができるとしている(同条三項)。
- 本件条例が飯盛町内における旅館業につき住民の善良な風俗を保持するための規制を施している限り、両者の規制は併存、競合しているということができる。
- ところで、地方公共団体が当該地方の行政需要に応じてその善良な風俗を保持し、あるいは地域的生活環境を保護しようとすることは、本来的な地方自治事務に属すると考えられるので、このような地域特性に対する配慮を重視すれば、旅館業法が旅館業を規制するうえで公衆衛生の見地及び善良の風俗の保持のため定めている規定は、全国一律に施されるべき最高限度の規制を定めたもので、各地方公共団体が条例により旅館業より強度の規制をすることを排斥する趣旨までを含んでいると直ちに解することは困難である。もつとも、旅館業法が旅館業に対する規制を前記の程度に止めたのは、職業選択の自由、職業活動の自由を保障した憲法二二条の規定を考慮したものと解されるから、条例により旅館業法よりも強度の規制を行うには、それに相応する合理性、すなわち、これを行う必要性が存在し、かつ、規制手段が右必要性に比例した相当なものであることがいずれも肯定されなければならず、もし、これが肯定されない場合には、当該条例の規制は、比例の原則に反し、旅館業法の趣旨に背馳するものとして違法、無効になるというべきである。
- 本件条例の規制内容を検討すると、およそ飯盛町において旅館業を目的とする建築物を建築しようとする者は、あらかじめ町長の同意を得るように要求している点、町長が同意しない場所として、旅館業法が定めた以外の場所を規定している点、同法が定めている場所についてもおおむね一〇〇メートルの区域内という基準を附近という言葉に置き替えている点において、本件条例は、いわゆるモーテル類似旅館であれ、その他の旅館であれ、その設置場所が善良な風俗を害し、生活環境保全上支障があると町長が判断すれば、町におかれる旅館建築審査会の諮問を経るとはいえ、その裁量如何により、町内全域に旅館業を目的とする建築物を建築することが不可能となる結果を招来するのであつて、その規制の対象が旅館営業であることは明らかであり、またその内容は、旅館業法に比し極めて強度のものを含んでいるということができる。
- 原審証人A、当審証人B、当審における控訴人本人の各供述をはじめとする本件全証拠によつても、旅館業を目的とする建築物の建築について、このような極めて強度の規制を行うべき必要性や、旅館営業についてこのような規制手段をとることについての相当性を裏づけるべき資料を見出すことはできない。右各供述によれば、本件条例は、いわゆるモーテル類似旅館営業の規制を目的とするというのであるが、規制の対象となるモーテル類似旅館営業とは、どのような構造等を有する旅館の営業であるかも明確でなく、本件条例の各条文につき合理的な制限解釈をすることもできないし(条例三条中の「附近」を旅館業法三条三項のおおむね一〇〇メートル程度と解する余地があるにせよ、本件旅館の建築予定地が最寄りの中学校から直線距離で約七〇〇メートル、保育園からは同じく約六〇〇メートル離れていることは当事者間に争いがないのである。)、また、一般に旅館業を目的とする建築物の建築につき町長の同意を要件とすることは、職業の自由に対する強力な制限であるから、これと比較してよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によつては、前記の規制の目的を十分に達成することができない場合でなければならないが、そのようなよりゆるやかな規制手段についても、その有無、適否が検討された形跡は窺えない。
- 以上の検討の結果によれば、控訴人が本件不同意処分をするにあたつて、その根拠とした本件条例三条の各号は、その規制が比例原則に反し、旅館業法の趣旨に背馳するものとして同法に違反するといわざるを得ない。
(3)高知市普通河川の管理条例
最判昭和53年12月21日民集32巻9号1723ページ(百選33)は、高知市が、河川法が規制対象外としている普通河川に関する規制を定めた条例を定めた件。 いわゆる普通河川の管理について定める普通地方公共団体の条例において、河川法がいわゆる適用河川又は準用河川について定めるところ以上に強力な河川管理の定めをすることは、同法に違反し、許されない。
- 河川の管理について一般的な定めをした法律としては河川法があり、同法は、河川を、その公共性の強弱の度合に応じて、同法の適用がある一級河川及び二級河川(いわゆる適用河川)、同法の準用があるいわゆる準用河川並びに同法の適用も準用もないいわゆる普通河川に区分している。一級河川とは、国土保全上又は国民経済上特に重要な水系で政令で指定したものに係る河川で建設大臣が指定したものをいい(同法四条一項)、二級河川とは、右政令で指定された水系以外の水系で公共の利害に重要な関係があるものに係る河川で都道府県知事が指定したものをいい(同法五条一項)、準用河川とは、一級河川叉は二級河川以外の河川で市町村長が指定したものをいい(同法一〇〇条)、普通河川とは、これらの指定を受けていない河川をいうのであるが、普通河川であつても、これを河川法の適用又は準用の対象とすることを必要とする事情が生じた場合には、いつでも適用河川又は準用河川として指定することにより同法の適用又は準用の対象とすることができる仕組みとなつている。
- このように、河川の管理について一般的な定めをした法律として河川法が存在すること、しかも、同法の適用も準用もない普通河川であつても、同法の定めるところと同程度の河川管理を行う必要が生じたときは、いつでも適用河川又は準用河川として指定することにより同法の適用又は準用の対象とする途が開かれていることにかんがみると、河川法は、普通河川については、適用河川又は準用河川に対する管理以上に強力な河川管理は施さない趣旨であると解されるから、普通地方公共団体が条例をもつて普通河川の管理に関する定めをするについても(普通地方公共団体がこのような定めをすることができることは、地方自治法二条二項、同条三項二号、一四条一項により明らかである。)、河川法が適用河川等について定めるところ以上に強力な河川管理の定めをすることは、同法に違反し、許されない
(4)淫行条例
最大判昭和60年10月23日刑集39巻6号413ページ(百選29)
(5)無効といえないとされた例、東郷町ホテル等条例
- 一審の名古屋地裁平成17年5月26日判タ1275号144ページ
- 風営法と本件条例とは、その目的及び規制対象についてはほぼ共通し、規制手法についてはかなりの程度異なる反面、重なる部分も存在しているものの、風営法は、それが規制の最大限であって、条例による上乗せ規制、横出し規制を一切許さない趣旨であるとまではいえず、かえって、地域の実情に応じた風俗営業への規制を行うことにより、良好な生活環境、教育環境の維持、発展を図ることが地方公共団体の本来的な責務であると考えられることに照らせば、本件条例が、風営法の規制の対象外となっている前記の性的好奇心を高める設備等を有しないラブホテル等をも規制の対象としているからといって、風営法の趣旨に反するとまではいえないと判断するのが相当である
- 原告は、条例によって風営法が定める構造基準よりも強度の規制を行うためには、それが必要最小限度の規制であることを要するところ、本件条例はかかる比例原則に違反する旨主張する。しかしながら、東郷町は、町内全域が田園的雰囲気を残し、宅地化された地域も、生活のための居住空間がほとんどであって、都会化された地域と比較して、生活環境、教育環境への悪影響は相当なものがあると推認できることに照らすと、東郷町が、その全域において、良好な生活環境、教育環境を維持すべく、ラブホテル経営に用いるのに適した建物の建築を抑制することを企図して、本件条例を定めたことには相応の合理性があるといわざるを得ない。そして、本件条例は、いわば通常のホテル等が有する構造でない限り、建築について同意しないという規制手法を採用することによって、間接的にラブホテル等の建築を抑制しようとするものであるが、もとより本件条例の定める構造基準を満たすホテル等を、あえて性的な営みをする場所として提供すること自体を禁ずるものでなく、また、既存の建物をラブホテル等として利用することも禁ずるものでないことを考慮すると、その規制の手法、内容が比例原則に反するとまではいえない。
- 旅館業法が、同法に定める以上の規制を禁止する趣旨のものであると解することはできない。
- 本件条例は無効とはいえない
- 最高裁は上告不受理
4.狙い撃ち条例、全体として違法な処分的な問題
法の一般原則に反してはならない
- 信義誠実の原則
- 権限濫用の禁止原則
- 配慮義務、信義則
- 最判平成16年12月24日民集58巻9号2536ページ百選Ⅰ32事件
- Xが産業廃棄物処理施設の設置許可申請の準備を進めていたが、水源の上流に当たった。Yは立地規制を含む条例を制定。本件施設を紀伊長島町水道水源保護条例2条5号所定の規制対象事業場と認定する旨の処分を行った。
- 本件条例は、水源保護地域内において対象事業を行おうとする事業者にあらかじめ町長との協議を求めるとともに、当該協議の申出がされた場合には、町長は、規制対象事業場と認定する前に審議会の意見を聴くなどして、慎重に判断することとしているところ、規制対象事業場認定処分が事業者の権利に対して重大な制限を課すものであることを考慮すると、上記協議は、本件条例の中で重要な地位を占める手続であるということができる。
- そして、本件条例は、上告人が三重県知事に対してした産業廃棄物処理施設設置許可の申請に係る事前協議に被上告人が関係機関として加わったことを契機として、上告人が町の区域内に本件施設を設置しようとしていることを知った町が制定したものであり、被上告人は、上告人が本件条例制定の前に既に産業廃棄物処理施設設置許可の申請に係る手続を進めていたことを了知しており、また、同手続を通じて本件施設の設置の必要性と水源の保護の必要性とを調和させるために町としてどのような措置を執るべきかを検討する機会を与えられていたということができる。
- そうすると、被上告人としては、上告人に対して本件処分をするに当たっては、本件条例の定める上記手続において、上記のような上告人の立場を踏まえて、上告人と十分な協議を尽くし、上告人に対して地下水使用量の限定を促すなどして予定取水量を水源保護の目的にかなう適正なものに改めるよう適切な指導をし、上告人の地位を不当に害することのないよう配慮すべき義務があったものというべきであって、本件処分がそのような義務に違反してされたものである場合には、本件処分は違法となるといわざるを得ない。
- 最判平成16年12月24日民集58巻9号2536ページ百選Ⅰ32事件
- 平等原則
- 比例原則
- 宇賀克也『行政法概説Ⅰ』44〜46ページ(有斐閣、2004年、古い版注意)
- ドイツにおいて警察権の限界に関する法理の一つとして形成。ここにいう警察犬とは、社会公共の秩序を維持し、その障害を除去するために一般統治権に基づいて国民の自然の自由を制限する公権力の事であり、食品安全のための規制、建築物の安全規制等も含まれる。
- 比例原則は、アメリカの違憲審査に用いられる「より制限的でない代替手段(less restrictive alternatives)」の法理、すなわち、ある目的を達成するために、規制効果は同じであって被規制利益に対する制限の程度がより少ない代替手段が存在する場合には、当該規制を違憲とする法理と同様の理念に基づくものであり、不必要な規制、過剰な規制を禁止。LRAの原則は法令の合憲性審査の基準だが、比例原則は行政作用の適法性審査の法理といえる。
- しかし、環境規制、安全規制等の領域において、規制により利益を受ける者との関係で、被規制者に対して比例原則を適用することの妥当性については議論がある。比例原則を適用して規制に消極的になることは、規制により利益を受ける者の期待に反し、これらの者の利益を損なう恐れがある。行政と規制の名宛人の二面関係のみを念頭において比例原則を適用すべきではなく、規制により利益を受ける者を含めた三面関係において規制権限の発動の是非を考えるべきとの主張は、とりわけ食品公害、薬品公害の多発を契機に有力に。
- 比例原則が適用された判例として、岡山地判平成6年4月20日。30日間の営業停止処分が重すぎるとして、7日間を超える部分を取り消した。
- 比例原則の趣旨を明文で示す法律措定、警察官職務執行法1条2項、国税徴収法48条1項など。
- 大橋洋一『行政法Ⅰ』(有斐閣)75ページ
- 条例が厳しい規制を採用する場合には、規制を行うべき必要性が存在しなければならず、必要性に比例した相当な規制手段が肯定されなければならない。したがって規制手段を採用する際にこういった検討を立法作業上行わなければならない。
- 芦部信喜『憲法』(岩波、2002年、古い版)100ページ、190〜191ページ、204〜210ページ
- 二重の基準論→経済的自由の規制立法については「合理性」の基準が適用。精神的自由の規制立法には妥当せず。
- 経済的自由権の規制手段としては、届出、許可、資格、特許、国家独占などがある。
- 消極目的規制:主として国民の生命及び健康に対する危険を防止・除去・緩和するために課せられる規制。警察的規制。消極的・警察的目的のための規制は、行政法にいう警察比例の原則(規制措置は社会公共に対する障害の大きさに比例したもので、規制の目的を達成するために必要な最小限度にとどまらなくてはならないという原則)に基づくものでなければならない。各種の営業許可制は、おおむね消極目的規制に属する。
- 積極目的規制:福祉国家の理念に基づいて、経済の調和のとれた発展を確保し、とくに社会的・経済的弱者を保護するためになされる規制。特許など。
- 経済的自由の規制立法については「合理性」の基準が適用。立法目的・立法目的達成手段の双方について、一般人を基準にして合理性が認められるかどうかを審査するもので、立法府の下した判断に合理性があるということを前提としている(合憲性推定の原則)ので、比較的緩やかな審査の基準。合理性の基準は、規制目的に応じて二つに分けて用いられる。
- 消極目的規制:厳格な合理性の基準→裁判所が規制の必要性・合理性、同じ目的を達成できるよりゆるやかな規制手段の有無を立法事実に基づいて審査する。薬局距離制限事件(最大判昭和50年4月30日)で採用され、違憲とされた。
- 積極目的規制:明白の原則→規制措置が著しく不合理であることの明白である場合に限って違憲とする。立法府の広い裁量を認める。小売市場距離制限事件で採用され、合憲とされた。その他、たばこ(最判平成5年6月25日)などでもこの判例が引用されている。
- 芦部は、これは学説でも広く支持されたが、規制目的のみですべて判断できると考えるのは妥当ではないとする。積極目的・消極目的の区別は相対的であり、例えば公害規制や建築規制のように従来消極目的とされてきたものの中にも積極目的の要素をも含んだ規制が増加。公衆浴場距離制限は消極と考えられたが、積極目的と解される(最大判昭和30年1月26日では消極目的と認めたと解されるが、最判平成元年1月20日では積極目的と捉え合憲とした。もっとも消極・積極を併有するとして合理性の基準により豪検討する判決も(最判平成元年3月7日))。規制目的を重要な一つの指標としつつ、いかなる行為がどのように規制対象とされているかなど、規制の態様を考えあわせる必要があろう。例えば、消極目的でも、職業選択の自由そのものの制限(職業参入への制限)は選択した職業遂行の自由(営業行為)に対する制限よりも一般に厳しく審査されるべき。参入制限も一定の資格・試験などではなく、本人の能力と関係しない条件(例えば競争制限的規制)による制限である場合には、厳格にその合理性を審査する必要。なお、規制目的を積極・消極のいずれかに割り切れない場合もある(酒類販売免許制事件、最判平成4年12月15日)。目的に分論を否定する説も有力化している。
- 「より制限的でない他の選びうる手段」の基準
- 合理的関連性の基準
- 規制目的の正当性、規制手段と規制目的との間の合理的関連性、規制によって得られる利益と失われる利益との均衡
- 目的と手段の関連が抽象的なもので足りる、利益衡量が形式的・名目的である点で問題も多く、学説上異論が強い
- 規制目的の正当性、規制手段と規制目的との間の合理的関連性、規制によって得られる利益と失われる利益との均衡
5.条例による財産権規制
憲法29条2項が「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」と定めていること、財産取引は全国的に行われていることなどから、かつては条例による財産権規制に消極的な見解が有力だったが、今日の通説では、自由権であっても条例で規制できることとの均衡、条例が公選議員から成る議会で制定される民主制を持つこと、土地基本法12条1項等に照らして、憲法29条の「法律」には条例を含むと解している(宇賀克也『地方自治法概説第6版』218ページ)。
奈良県のため池の保全に関する条例(最大判昭和38年6月26日刑集17巻5号521ページ、百選27の読み方はいろいろあり、財産権の制限を定める条例を合憲としたものと読む者もいれば、そもそも憲法でも民法でも財産権の適法な行使として保障されていないので、そういった判例ではないと読む者も。
条例による土地利用規制の憲法上の根拠については、憲法29条の問題ではなく94条の問題として捉える説も。憲法29条2項の「法律」は国法を指し、精神的自由権であっても経済的自由権であっても、それを制約する条例制定権の根拠は憲法94条と解し、その限界は憲法21条、29条などの解釈によるほか、法律の範囲内の解釈によると考える。その方が、地方自治を尊重する憲法解釈である。土地基本法も、自治体に土地利用措置を適切に講ずる責務を負わせているが、それに当たって「法律の定めるところにより」といった制約を規定していない(北村喜宣『自治体環境行政法第7版』(第一法規、2015年)20〜21ページ)。
6.条例による罰則
条例による罰則は、二年以下の懲役若しくは禁錮、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料(地方自治法14条3項)。
Vagueゆえ無効(憲法31条違反)として争われたものとして、最大判昭和37年5月30日刑集16巻5号577ページ(百選28)、世田谷区清掃・リサイクル条例事件(最決平成20年7月17日判時2050号156ページ)
7.条例による強制執行
- 金銭債権の場合、強制徴収か民事執行。強制徴収には根拠用。
- 非金銭債権は、行政代執行か、執行罰(間接強制)か、直接強制
- 条例に基づき課された義務について、行政代執行は可能(行政代執行法2条)
- ただし、行政代執行は代替的作為義務に対するもの。不作為義務には行政代執行ができないし、非代替的作為義務にも行政代執行ができない。そのため、禁止処分のほか、除却処分、原状回復命令などを出して、大体的作為義務にする例がある。
- 非金銭債権に対する民事執行は否定された。
8.その他
もっとも、法律が許認可等の規制の対象としている事項について、同一目的で上乗せ・横出しする条例でも、条例による規制が勧告等の行政指導にとどまる場合は、法律違反の問題は生じない(宇賀216ページ、小早川光郎「基準・法律・条例」塩野古希『行政法の発展と変革』(有斐閣、2001年)398ページ、小早川論文未確認)。したがって、行政指導の指針を定めた要綱に基づく行政が広く行われる。