ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

自治体 業務プロセス ・情報システム標準化について

自治体システムの標準化について、ブログであまり*1書いていませんでした。

しかし今日、はてなブログを拝見していて、「まさに私が言いたいこともこれだ!」と思うような記事を拝見しましたので、ブログを書こうと思いました。

 

 

1.標準化で期待できる効果

まず、業務プロセスやシステムの標準化・効率化を図るということは良いことに間違いありません。これによって生まれ得る、思いつく長所を以下に書きます。

  • 論理的な実現可能性
    特に法律に根拠を置く自治体業務の場合は、全国的に標準化が図れる可能性が高い
  • コスト・時間の削減
    最近は法令改正が頻繁に行われるが、その都度、同じ法令改正に対応するため全国2000の自治体が同様の作業をするというのは、人件費・外注費・時間のロスともいえる。
    またいわゆる割り勘効果で、システム開発・運用・保守費を下げることができる。
    仕様を検討するのに膨大な調整が必要になるのが公共システムの習いであるが、これを標準化できれば、その分のコストを全カットすらできる。
  • 住民の期待に応える、自治体負担の軽減
    セキュリティ対策や効率的なシステム開発・運用・保守等から考えても、特に、人口規模の小さい市町村等の場合に、新たな技術トレンド等を抑えた的確な対策を適時に行っていくというのは自治体の負担が重い。しかし住民等にしてみれば、人口規模の小さい市町村であっても大きい市町村であっても、同様に自身の情報を守ってほしいし、業務継続も他市町村と同様に行ってほしいと思うと思う。
  • 早く国民の役に立てる
    特別定額給付金や災害対策など、一刻も早く国民の役に立つ必要がある場合に、何らかのシステムを作ろうと思っても、自治体システムが多様だと、国で一括して仕組みを作り上げることができず、自治体ごとに処理も速度もバラバラになる、国としては「自治体ごとに違うから、どの自治体にも通用するスキームは作れない」と思うが、自治体としては「国が政策を決めて自治体にやらせているのに、自治体に何をさせるのかをいっこうに明確にしてくれない」と国と自治体の仲がどんどん悪くなる。お互い公務員はそれぞれの仕事を一生懸命やっているはずなのに、いがみあいにつながりかねない。私も特別定額給付金ではさんざんブログに国のことを書いたものの、自分も国にいたのでわかるが、国で働く公務員だって一部の人を除いては一生懸命仕事をしているが、「国は何もわかっていない」「国は何も示さずにやれやれという」と言われがちであり、かなりストレスフルな仕事である。
  • 新しい技術による効率的・効果的な業務運営
    AIやRPAを利用した効率的・効果的な業務運営、公的個人認証の活用、パブリッククラウドをどう活用すべきかなど、技術トレンドが生まれるたびに、安定運用・住民情報を確実に守ることが要求される自治体では、新しい技術を活用して業務運営を効率化・効果的に行いたいものの、一方で安全に実現するためにはどうあるべきか、悩みが生じるが、標準化や共通クラウド化によって、この辺りも国と自治体とでもっと迅速に検討・決定でき、悩みも解決する可能性がある。

 

2.標準化の検討状況

では、標準化の検討状況はどうかというと、すごいスピード感をもって、取り組んでいるようです。このスピード感はすごい。

 

3.私の感想

以下はあくまで私が軽く思っただけですので、ただの思い付きの個人的な雑感です。

  • 標準化というのは非常に大変な作業である
    これは本当に大変な作業だと思います。しかもノンカスタマイズを前提とするとすると、ものすごく大変ですね。
    企業合併に伴うシステム統合なんかだと、統合失敗がニュースとして表に出てきていますが、そういうニュース化されるものだけではなくて、成功事例だって、内部では、A銀行のシステムとB銀行のシステムを統合するのに、本当に恐ろしいまでの調整・苦労があると思います。
    総務省所管法令に基づく業務・システムの標準化は、総務省の矜持でやり切るのかもしれませんが、他府省所管法令に基づく業務・システムの標準化、これが完了するのか。結構大変な作業で、他府省としてこれをやり切るモチベーションがあるのか。そのあたりはデジタル庁が仕切るのか。しかしデジタル庁、やることが大量にあると思うので、この仕切りができるのか、やるのか、やるとしてもデジタル庁に求められる政策が目白押しの中で優先順位はどの程度なのか。デジタル庁でないとするとIT室がやるのか。この仕切り、どうやっていくのか。私だったらこの担当にはなりたくないぐらいの、本当に膨大な仕事だと思います。

  • ほぼすべての業務が標準化された方がいいに決まっている、しかし対象をまずは小規模自治体に絞るとか、災害対策に絞るとかそういう方向でも良いかもしれない

 

今日、拝見したブログ。EA(Enterprise Architecture)でも、理想はそうだが、とても大変だという話が書かれていて、ものすごく賛同しました。

hiizumix.net

 

EAとは「業務とITの最適化」を目指し、企業内のすべての業務とITについて、数年後の「理想姿」をあらかじめ計画したうえでIT化を進めていくべきだ、という考え方である。代表的な適用事例としては米国財務省国防総省、そして日本の電子政府構築などがある。ある程度の大企業では一度は取り組んだ方法論だろう。

業務のムリ・ムダ・ムラを廃絶し理想的な全社業務フローを描いたうえで、その業務フローに必要十分なITを用意していく。

 

なぜうまくいかないのか。僕の経験で話そう。

まず、IT利用企業は業務とITの理想像を作ることができない。

 

本当に、理想はその通りなんだけど、実現するのは非常に難しいと思います。

 

ただ、誤解がないように補足しておくと、自治体システム標準化の場合、キーマンを投入することができます。ただ、様々な団体のキーマンが参加されてもですよ、企業のA部署のキーマン、B部署のキーマンなら、その部署を把握しています。しかし自治体や国の優秀な方も、全国2000の意見を調整する、実務を調整するというのは、非常に骨の折れる仕事だと思うのです。「実際に事務が回らないってなったらどうするんだ!」っていうのは、パワーワードに近いですからね。全国2000ってことは、離島から東京都まであるわけです*2。その実務調整って…、でも法律根拠だからそこまでバリエーションはないのでしょうか。もしそうであるなら、標準化もそこまで大変ではないのかもしれませんが。業務やカスタマイズのバリエーションがどの程度あるのかが肝かもしれません*3

ただ、私個人としては、この作業なら、個人情報保護条例の統一の作業の方が、作業量がはるかに少ないと思うぐらいです。

しかし、この作業を乗り越えて、理想の標準化が実現できれば、本当にすごい効果が生まれると思います。

*1:少しは書いています

*2:私なんてマイナンバーで「事務が回らない」「離島はどうするんだ」とかなり言われたことが今でもトラウマで、個人的な旅行で島に行っても、「あ、離島だ。でもここなら本州に近いから専門家も呼べそう」とかいまだに関係ないのに思ってしまいます。

*3:以下の資料の5ページ目を見ると、戸籍と生活保護はカスタマイズが少なそうです。でも住基もカスタマイズが多いのに標準化やりきったんですよね?ならできるのかな?どうなのか?ただこれはあくまでカスタマイズ有無のグラフであって、カスタマイズのバリエーションはわからないので。https://www.kantei.go.jp/jp/singi/it2/senmon_bunka/dejigaba/dai11/siryou3.pdf