医療情報は、プライバシー性の高い情報といえます。しかし、医療情報を活用することで、今は治療が困難な病気も治療成果が上がったり、特効薬が開発されたり、人のQOLが改善されたりする可能性があります。また医療情報の活用は、一企業のビジネス上の利益のためというより、一人の人の利益のためというより、公益(みんなのため)に資する場合があります。
これらのことから、医療情報の保護と活用の両立が望まれるところです。
では、どのように保護と活用を両立すればよいでしょうか。その一つの解が、誰の情報かわからなく加工することです。
誰の情報かわからなく加工した情報は、個人情報保護法では「匿名加工情報」、独立行政法人等個人情報保護法や個人情報保護条例では「非識別加工情報」と呼ばれます。
個人情報保護法に基づく「匿名加工情報」の場合、医療情報も対象です。なぜなら医療情報は要配慮個人情報ではありますが、要配慮個人情報も匿名加工情報とすることができるからです。
これに対し、独立行政法人等個人情報保護法や個人情報保護条例に基づく「非識別加工情報」の場合は、グレーゾーンが残ります。というか、非識別加工情報にできない医療情報とできる医療情報とに分かれてしまい、かつ非識別加工情報にできない医療情報の方が多いんじゃないかなと私の感触としては思います。
というのも、非識別加工情報も別に医療情報は絶対ダメというわけじゃないのですが、非識別加工情報になるためには条件があるのです。
独立行政法人等個人情報保護法でいうと2条9項2号がありまして、人に見せられるような情報じゃないと、非識別加工情報にはできないよという条件があります。
より詳しくいうと、「その情報を見せてくれ」と他人から要求された時に一部でも出せるかどうかによります。情報公開請求された時に、全部開示か一部開示、又は意見書提出機会の付与にならなければならないということです。
つまり、存否応答拒否の情報については、独立行政法人等個人情報保護法2条9項2号の要件を満たさずに、非識別加工情報とはできません。
存否応答拒否とは、「その情報を見せて」といわれた時に、「あるともないとも答えられない情報」をいいます。例えば、国立病院に「水町雅子のカルテを見せて」と他人が言ってきたとして、その時国立病院が「いや、ありますけどね、あなたご本人じゃないから見せられませんよ」と言ってしまうと、「ああ、水町雅子はこの国立病院に通院か入院したことがあるんだ」ということが分かってしまいます。ですので、こういう場合は、国立病院は存否応答拒否をして、「カルテがあるともないともいえません」という回答をします。
なぜ、他人が他人の個人情報を見せろと言う権利があるかというと、これは開かれた行政、行政の説明責任等の観点からであって、例えば知事の公用車の移動履歴、知事の交際費なんかは、知事本人以外も見ることができます。知事の個人情報ではあります(公開すべき情報であって秘匿性のない情報も、個人情報に当たります)。
これに対し、私のカルテや、知事であってもカルテなんかは、開かれた行政のためとはいえ、他人に見せるべきものではありません。その時は、法律上、存否応答拒否をすることになっていて、「あるともないともいえません」になるわけです。
そして、この「あるともないともいえません」情報については、独立行政法人等個人情報保護法2条9項2号を満たさないため、非識別加工情報にできません。
しかしこれはすごく変です。前にブログで書きましたので、今日は省きますが、
非識別加工情報について立法措置を検討中と聞いていますが、自治体に非識別加工情報を展開する際は、独立行政法人等個人情報保護法2条9項2号のようなものは、非識別加工情報の条件から落とした方が適切だと考えます。この件に関して過去に書いたブログはこちら↓
で、話を戻すと、医療情報は存否応答拒否になるものも多いのではないかと思うので、そうすると非識別加工情報にはできない場合が多いと思うのです。ただ、医療情報であっても存否応答拒否にならないものもおそらくあると思うんですよね。だから医療情報=非識別加工情報にできないというわけじゃないけれども、できない場合が多いんじゃないかと思います。
ただ、この点、次世代医療基盤法を使えば、匿名加工医療情報にできますので、国立病院や公立病院の医療情報は、非識別加工情報ではなく次世代医療基盤法による匿名加工医療情報にして活用するということになろうかと。
問題は、医療情報には当たらない健康情報ですよね。ヘルスケア的なものについては、医療情報に当たらない可能性があります。
この点、個人情報保護法では要配慮個人情報に当たらないというだけなので、別に、匿名加工情報にもできるし、オプトアウトも共同利用もできます。次世代医療基盤法上の医療情報に当たらなかったとしても、オプトアウトや匿名加工情報のスキームで、大臣認定事業者に合わせて処理してもらうことも可能なのではないでしょうか。
これに対し、独立行政法人等個人情報保護法や個人情報保護条例の場合、オプトアウトがないので、医療情報に当たらない健康情報を収集したいとなったときに、どうするのか。研究目的での目的外提供でいくか、非識別加工情報でいくか。しかし健康情報とはいえ存否応答拒否の場合もあり得るとすると、非識別加工情報にはできない場合もあり。純粋な研究だけの目的じゃない場合(研究と同時にか別個に治療に役立つ医療機器開発をする場合等)に、どうすればいいのか、審議会を通せばいいという条例ならいいですけど、それ以外ならどうするのか。
民間と国立、公立で、こういう非対称性があるというのは、おかしいと思います。しかも国立病院、公立病院、国保、後記高齢といった、公的組織の方が、より公益に役立つ研究とかをすべきであり、法制として無理がある気がします。
9 この法律において「独立行政法人等非識別加工情報」とは、次の各号のいずれにも該当する個人情報ファイルを構成する保有個人情報(他の情報と照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるもの(他の情報と容易に照合することができ、それにより特定の個人を識別することができることとなるものを除く。)を除く。以下この項において同じ。)の全部又は一部(これらの一部に独立行政法人等情報公開法第五条に規定する不開示情報(同条第一号に掲げる情報を除く。以下この項において同じ。)が含まれているときは、当該不開示情報に該当する部分を除く。)を加工して得られる非識別加工情報をいう。一 第十一条第二項各号のいずれかに該当するもの又は同条第三項の規定により同条第一項に規定する個人情報ファイル簿に掲載しないこととされるものでないこと。二 独立行政法人等情報公開法第二条第一項に規定する独立行政法人等に対し、当該個人情報ファイルを構成する保有個人情報が記録されている法人文書の独立行政法人等情報公開法第三条の規定による開示の請求があったとしたならば、当該独立行政法人等が次のいずれかを行うこととなるものであること。
ちなみに、今、医療情報関連の書籍のゲラをチェックしていて、この問題を記述していて、それでブログにも書いてみました。しかし今週末、すさまじい台風が来るようで。今日、ゲラを宅配便で出版社に送るとすると、台風でゲラが紛失するのではないかという恐怖もあり。今日ゲラチェックが終わったとしても、2階以上の場所で持っておいて、台風通過後に宅配便に出した方が良いような気がしてきました。