ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

デジタルファースト法案雑感

行政手続等における情報通信の技術に関する法律を改めた「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」の条文をようやく読んでみました。読んでみての雑感です。

 

法律名称が良い

  • 日本の法制上のお決まりとして、意味が明確な言葉しかつかえない、カタカナは極力使わないなどのお決まりがあるので、「デジタルファースト法」という法律名にはできない中、「情報通信技術を活用した行政の推進等に関する法律」という法律名は、日本語で最大限の意味をあらわしていると思います
  • 議員立法で作ったと思われるカタカナ法律やカタカナ定義語、曖昧定義語を引用することで、閣法なのにカタカナを頻発させているというのはある意味奇跡的である

基本原則(2条)

  • マイナンバー法の基本原則風ですね
  • しかしこの基本原則をいかに実行に移していくかこそが大事だと思います。基本原則だけに終わらせないことが大事。

定義(3条)

  • 経由機関って用例あったのかしら。なんとなく語感に違和感あり。

情報システム整備計画等(4・5条)

  • かえって官の作業量増大になって、無用な当局査定が増大する予感がなくもありません。計画立てさせるのはいいけど、実効的な計画を立てて、目標を達成できるようにサポートしていくことが重要で、いわゆるお役所の重複査定みたいなもの、しかも情報化整備計画を査定する側がシステムやITを理解していないから、意味不明な指摘ばかりなのに査定に対応する作業が増大するという無意味化を絶対に避けなければならないと思います。

デジタル申請(6条)

  • 対面本人確認、原本確認などがデジタル化が進まない理由であって、その理由を丁寧に解きほぐして、安全を最優先としつつも便利なデジタル申請が可能となるように政策を打っていかなければならないのではないでしょうか。それをするためのデジタルファースト法案で、原本確認等が必要な場合等でデジタル化が困難又は著しく不適当と認められる場合で主務省令で定める場合には、その部分だけ本法の適用外?とするのは、著しく不適当なのではないでしょうか。6条6項ですね。もちろん、各省協議等の関係等でこうなったのではないかというのはよくわかりますが、それを解決しなければデジタル申請などできないのではないでしょうか。原本確認等、デジタル化を困難にしている原因を解明して、それへのサポートを国がしてあげるよっていう法律にしないといけないのではないでしょうか。本末転倒な条項ではないでしょうか。これが、原則デジタル化義務で、例外として6条6項があるならまだわかりますが、6条1項できる規定であるにもかかわらず6条6項があるって本末転倒ではないでしょうか?システム整備計画でデジタル申請とか計画立てさせるっていうんでしょうけど、それじゃあ進まないですよね。過去だってそうやってたんですから…。
  • 7条5項も同様ですね。
  • 10条1号の一部も同様ですね。

電磁的記録による作成等(9条)

  • これ、よく法制局審査通ったなというか、法制局、ちゃんと考えているのでしょうか。官だけでなく民も入れたいのはわかりますが、それゆえ、旧法6条1項冒頭の「行政機関等は」を削除したのはわかりますが、「作成等のうち…」ってこの全文読んでも、日本語として不自然感満載ではありませんか。

添付書類削減(11条)

  • これは期待ですね!住民票の写し、登記事項証明書その他の添付書類は、マイナンバーカードその他で代替できるっていう条文ですね。政令に具体的な措置や文書が落ちているので政令を見ないとわかりませんが、これはデジタルファースト法案として、まさに求められている条文ではないでしょうか。実効化を期待します。

自治体(13条)

  • 自治体にはデジタルファーストの努力義務がかかってますね。

民間事業者と行政機関等との連携(14条)

  • 行政への手続とかと密接に関連している民間の手続は、官民の手続が一回で終わるようにデジタルでやってくださいねという努力義務を定めた条項。
  • こんなの、別に努力義務がなくても、採算が取れたり、消費者利便が上がったり、コストカットになれば、民間はとっくにやってますよね。やってない民間がこの条項を見てやろうとは思いませんよね。ただデジタルファーストを実現していこうという心意気を示すために、現行法制の範囲内で、営業の自由のある民間に対してできる限りのことをするとすれば、この努力義務と国の援助なのかもしれません。

デジタルファーストの状況公表(16条)

  • デジタルファーストの状況を、インターネットで公開するという条文。これは素晴らしいですね。いうだけで何にも進まない状態を避けるべく、国民の監視の目にさらす必要があります。

資料

水町作成「国のIT・データ活用戦略と法律トレンド」という資料 http://www.miyauchi-law.com/f/190320data_and_IT_gov_strategy.pdf

–法案 http://www.cas.go.jp/jp/houan/190315/siryou3.pdf

–新旧 http://www.cas.go.jp/jp/houan/190315/siryou4.pdf

–概要説明 https://www.cas.go.jp/jp/houan/190315/siryou1.pdf