ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

『自治体の実例でわかる マイナンバー条例対応の実務』

自治体の実例でわかる マイナンバー条例対応の実務

自治体の実例でわかる マイナンバー条例対応の実務

自治体の実例でわかる マイナンバー条例対応の実務〜地域情報プラットフォームから特定個人情報保護評価まで〜』が3月に出版予定です。

コンセプトは、自治体の現場に過負荷をかけることなく、適切な条例整備・運用、特定個人情報保護評価の実施・改善を図る!ということです。地プラを利用して庁内連携条例の見直しを実際に4市で実施してくださいましたので、その事例と、水町作成様式を利用して特定個人情報保護評価書を実際に1市で作成してくださいましたので、その事例が掲載されています。

共著は、APPLIC吉本氏、宮崎県小林市、茨木県つくば市福島県白河市高知県南国市の方々です。
APPLICの皆様には大変お世話になり、感謝申し上げます。


【構成】

第1編 これからのマイナンバー実務に必要なことは何か

第1章 番号制度を適法に遂行し効果的に活用する
第2章 保護をめぐるマイナンバー条例の運用
第3章 先進事例でわかる利活用をめぐるマイナンバー条例の整備のポイント
第4章 わかりやすい特定個人情報保護評価書をつくる方法 
第5章 条例の精査・改正対応のために行うべきこと
第6章 今後のICTシステム・実務運用のポイント


第2編 実務対応

第1章 地域情報プラットフォームの活用で現状を可視化する
第2章 自治体における地プラの活用実例
ケース1 宮崎県小林市
ケース2 福島県白川市
ケース3 高知県南国市
ケース4 茨城県つくば市


資料編

地プラ連携確認シートのダウンロードについて
◆原課照会依頼書例
◆連携確認シートの実例
◆参考条例・規則


【本書の狙い】

本書の狙いを記載した文章を以下に貼っておきます。書籍冒頭に記載する「はじめに」用に書いた文章ではありますが、原稿段階からゲラ段階で大幅に改訂したため、ブログに貼るのは、原稿段階のもので、書籍に掲載されているものとはやや異なります。


地方公共団体ではこれまで、マイナンバー制度対応の準備に多大な労力を投下してきた。もっとも、マイナンバー制度は稼働後の今後こそが本番である。そのような状況下で浮かび上がってきている地方公共団体が抱える番号制度をめぐる課題について、地方公共団体において過度な負担とならないような、現実的な対策を提示することが、本書の狙いである。
マイナンバー制度を運用していくために、各地方公共団体で条例を整備することが必要である。しかし、各地方公共団体の条例整備状況には課題が多い。特に、地方公共団体の内部でマイナンバー情報(特定個人情報)を共有することは、全地方公共団体において想定されるものの、そのために必要な条例がいまだ精査されていない地方公共団体も非常に多い。複数の地方公共団体の感触を確かめたところ、マイナンバー条例については、多くの職員が課題を感じつつも、何をどのように精査・見直せばよいかわからないと感じているように思われる。
そこで、平成27年より、小職といくつかの地方公共団体にて共同で、マイナンバー条例の精査・見直し作業を行った。小職と地方公共団体の実際の作業結果を書籍とすることで、他の地方公共団体の参考となれば大変幸甚である。
そしてマイナンバー制度・マイナンバー条例のためには、ICTシステムが欠かせない。小職と地方公共団体の作業においては、地方公共団体ICTシステムに対する豊富な経験・実績を有する一般財団法人全国地域情報化推進協会(以下「APPLIC」という。)に多大なるご協力をいただいた。特にAPPLICが所管する地域情報プラットフォームは、マイナンバー制度・マイナンバー条例の精査・見直しを省力化・効率化・正確化する仕組みである。本書では、小職がマイナンバー制度・マイナンバー条例の解説を行い、マイナンバーに関するICTシステムについてはAPPLIC吉本氏に解説していただき、そして実際にマイナンバー条例の精査を実施された地方公共団体に実務について解説いただく形となっている。
また特定個人情報保護評価をめぐっても、複雑・難解な評価書が多数公表され、特定個人情報保護評価を一体何のために実施するのかわからない状況も散見される。茨城県つくば市では、よりわかりやすい特定個人情報保護評価の実施を行っており、本書ではその点も合わせて解説していきたい。
マイナンバー制度は、付番自体が平成27年10月よりスタートしたものの、まだまだ今後発展していく制度である。具体的にいうならば、平成29年には全地方公共団体・行政機関等間での情報連携がスタートし、平成30年には預貯金付番も開始される。さらには平成30年にはマイナンバー制度全体の見直しを行うことが法律で規定されており、マイナンバーの対象範囲の拡大も検討される予定である。このようにマイナンバー制度は、一度運用に供された後も、進展・発展が見込まれ、今後も地方公共団体においてはマイナンバー制度を運用していくことが求められる。そのためには、マイナンバー制度・マイナンバー条例の理解が必須であり、本書が少しでもその参考になれば幸いである。
本書執筆に当たっては、APPLIC有冨寛一郎理事長、松村浩事務局長、岡本勝美担当部長からさまざまな貴重なご指導を賜り、大変お世話になった。また共著者であるAPPLIC吉本明平担当部長には、その豊富な自治体ICTに関するご経験を基に、大変精緻な連携確認シートを作成いただいたり、さまざまなご指導をいただいた。
宮崎県小林市、福島県白河市高知県南国市、茨城県つくば市には、通常業務でご多忙の中、マイナンバー条例の精査・見直し作業を迅速に行っていただき、心より感謝申し上げる。また自治体の現場を知らない筆者に対して、現場の疑問・ご意見をご教示くださり、本書の内容であったり、条例の精査作業が、より現場に近いものになるよう、的確なご助言を賜った。心よりお礼申し上げる。


地方公共団体における番号制度対応の中でも特に喫緊の課題は、条例制定をめぐる問題である。条例制定が正確に行われることなく事務処理が行われれば、当該事務処理が違法であったり、プライバシー権を侵害するものと判断されるおそれもある。地方公共団体の事務は、法律・条例に基づくことが大前提であり、正しい条例はまずもってクリアしなければならない課題である。
筆者(水町)はこれまで微力ながら、各地方公共団体の条例制定支援を行ってきており、条例案についても別書(「施行令完全対応 自治体職員のための番号法解説[実務編]」(第一法規、2014年)で公表してきた。しかし地方公共団体からは、条例案そのものよりも、むしろ別表部分、すなわち、自団体における庁内連携の網羅的把握が課題であるという意見を多数頂戴した。筆者は地方公共団体実務を実際に遂行したことがないため、この点に関する助言を行うことがこれまでは困難であったが、APPLICの地プラとの出会いを経て、地プラを活用することで、多くの地方公共団体において課題となっている問題を解消できるのではないかと考えるようになった。そして、4つの地方公共団体(宮崎県小林市、福島県白河市高知県南国市、茨城県つくば市)において、APPLICの協力を得て、実際に地プラを活用した条例制定を行うことができた。
そこで本書では、APPLICと4団体において実践した、地プラを活用することで番号制度対応条例を効率的かつ正確に制定する手法について詳しく解説していきたい。また、番号制度をめぐる課題は条例制定のみではなく、地プラ等を活用することで、そのほかの課題解決にもつながるものと考えられる。そのため、条例制定以外の課題についても、紙幅の許す限り、本書で解説していきたい。


番号制度が国民・住民、そして地方公共団体にとって真に役立つ制度になることを心より願って
弁護士 水町雅子