ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

漏えいで罰則がないのはおかしい?

マイナンバーを漏えいしても、罰則が必ずしも適用になるわけではない」というと、「えー!」「そんなのおかしい」「法律がおかしいだろ?」と言われることがあります。

結構言われるのですが、そういう感覚ってあるんでしょうか?

刑法の勉強をした者的には、前の記事にもかきましたが、あらゆる行為を罰則化するというのはそもそも刑法体系上考えられていないものであって、悪質な行為に対して直罰が来るというのが自然に思うのですが、そこを考えると、やはり、「他人のマイナンバーを売った」とかそういう人が罰せられないのはおかしいものの、「マイナンバーが記録されたUSBメモリを落とした」人が罰せられるというのは過剰な刑罰じゃないかなと思うのです。

法体系というのは、罰則だけで担保されるものではなく、行政法規内の規制があり、その規制を破ったものに対する行政制裁があり、さらには民事訴訟リスクもある、と。さまざまなもので構成されているので、すべて罰則化するというのは、なかなか法律家としては考えにくいところです。

マイナンバーが記録されたUSBメモリを落とした」で、懲役刑を受けるのはやりすぎで、
「標的型攻撃メールを開いてしまってマイナンバーを漏えいさせた」場合も、懲役刑を受けるのはやりすぎと思うのですが…

懲役でなく罰金にしても、罰金刑でも前科ですからね。
標的型攻撃メールを開いて罰金の前科となると、恐ろしくて、メールを開けたくないですね。すべてFAXか郵送での仕事に戻りたいってなっちゃいそうです。

あと、過失だと原則罰せられないというお話をすると、「じゃあ、過失だって言い張ればいいのか」「そんなのおかしい」「法律がおかしいだろ?」と言われることもあるのですが、これはもうマイナンバーだけの話ではなくて、殺人と過失致死とか、典型的なトピックであります。「わざと殺したわけじゃない。うっかりナイフが刺さってしまって亡くなっただけだ」といえば過失致死になるわけではない。自白せず否認していれば、殺意が認定されないわけではない。殺意の認定の方法がいくつかあるように、故意と過失というのは、本人がそう言い張れば通るというものではない、と。

なかなか、罰則のお話とか、故意/過失の話とか、罰則はないけど違法というお話しとか、そういうのって、短く話すのが難しいなあと思います。
TVの情報番組とか週刊誌も、例えば、こういうテーマを取り上げたらどうですかね。罰則がないのがおかしいというのであれば、じゃあどういう事例なら罰せられるべきなのか、とか。