ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

(その1)地方公共団体の個人情報保護条例統一化

行政機関個人情報保護法独立行政法人個人情報保護法個人情報保護法の統一化の検討が進行中ですが、

地方の個人情報保護条例については、個人情報保護委員会の方の懇談会を踏まえての検討次第かなと聞いていましたが、、、

 

私としては以下が重要なんじゃないかと思います。

  • 何のためにそれをやるのかというゴールを示して、公益性をきちんと提示すること
    ←「自治体のパーソナルデータ利活用に役立つ」とか言われると、「こっちは別にパーソナルデータ利活用なんてやりたくないのに、なんで自治体側にメリットがあるから的な話になってんの?」と思う人が出てくるのはまあ元から予測して当然の話である。
  • 自治体の良い取り組みを継続できるようにすること
    ←国や民間よりも良い取り組みをやっている自治体の実例は存在していて、それができなくなるというのはおかしいことなので。
  • 自治体にメリットが出るようにすること
    ←「自治体のパーソナルデータ利活用に役立つ」とかではなく、実際に現場や現場じゃなくてもいいが、本当に「あ、これによって良かったな」って思うようなことがないと、「やらされ感」が出てしまう
  • 自治体にできる限り負荷をかけないことを約束すること
    ←全国2000自治体で同様の作業が発生するというのは、全国レベルで見たら、あまりに作業不効率であるし、人件費・外注費がもったいない。ただ、「民間実務に負荷をかけないようにすること」とか「自治体の地域特性を尊重すること」とかって付帯決議についても特に国はやってくれないのが通例ですから、そこはきちんとした「約束」が必要では、とも思います。とはいえ、個人情報保護委員会も人員がそんなにいないですからね。言い出しっぺなり威張っている人たちが人員や予算をなんとかすべきでは。

 

 

 

地方公共団体の個人情報保護制度に関する懇談会は終了したようです。結構びっくり。

https://www.ppc.go.jp/files/pdf/200708_gaiyou.pdf

https://www.ppc.go.jp/personalinfo/kondankai/20200703/

 

7月3日に開催した第4回会合においては、前回6月24 日の委員会において審議・決定した委員会としての基本的視点である「地方公共団体の個人情報保護制度に関する懇談会における実務的論点の整理に向けて」を構成員に提示し意見交換を実施した。

 

構成員からは、地方公共団体のパーソナルデータに係る利活用のニーズについて実感していない、個人情報保護条例について実務上支障は感じていない等の御意見や、人員不足の課題がある、制度として分かりやすくしてほしい等の御意見があった。懇談会としての検討範囲を超えるとの立場からの発言も相次いだ

そりゃ、大きい視点で見たら、統一したほうが地方公共団体側にとっても良いし、医療・研究の発展にとっても良いし、国民にとっても良い可能性がかなりありますが、

とはいえ、その後条例がどうなるのか全体像が不明であり、

また目先で考えれば、コロナ対策に忙しい自治体に負荷がかかることは事実(統一化に伴う一定の作業が発生する。例えば条例廃止?、横出し上乗せ条例の検討作成、下位規範の改正・廃止等、庁内手続の改訂、実務運用変更点の洗い出し、実務運用変更実施、従業者教育等)であり、懇談会でやれば、そりゃ別に知事会・市長会・町村会でもない通常の立場での参加なので、「お前がそんなことに賛成するからじゃないか!」とか言われる可能性もあり、そういう発言が出ることは予測できるかなと。まあ、でも知事会・市長会・町村会も参加していて、後ろ向き意見が出ているということは、ネゴができていなかったんですかね…。コロナで対面打合せがしにくかったというのもあるんですかね。

 

まあ私も、マイナンバーで初めて自治体とがっつり仕事をして、さんざんこういうことを経験しましたのでね。それまでは自治体のことをよく知らなかったので、いろいろと「公務鬱」になりそうなぐらい大変でしたが、国としての立場で自治体と接したり、自治体の外部委員としての立場で自治体と接したり、自治体の支援やお悩み相談の立場で自治体と接したり、自治体のシステム知識を得たりしているうちに、自治体側の悩みとニーズがそれなりに分かるようになった気がしています。

対、独立行政法人等や対、他の行政機関と同じような感じで、対、自治体の仕事は進められませんよね。

 

まあ、そもそも論をいっちゃうと、個人情報だけじゃなくて、コロナにしても、マイナンバーにしても、国と自治体の役割分担がもう時代と合っていないというか、重畳構造があまりにかさみすぎて、機能的に動かないというか、そのあたりを抜本的に見直すべきだと感じています。

マルクスとかウェーバーとかあとは誰でしょうかねえ、それぐらいの能力のある人だったら、「これからの時代の公共の在り方」とかをバシッと提言できるんでしょうが、私にはちょっとこの辺りは抜本的に見直すべきというのはわかるが、どうしたらいいかが分からない。

5年10年ぐらいかけて検討していこうと思っているところです。

 

事務局からは、今後、地方公共団体の個人情報保護制度については、意見交換の段階から具体的な検討の段階へと発展させていくことが必要との観点から、実務的な論点を中心に意見交換を行う場としての懇談会については一旦休止することを提案したところ、構成員から、懇談会としての取りまとめなどを行わないのであれば、休止ではなく終了とすべきとの意見があり、意見交換の結果、第4回をもって終了することとなった

「休止ではなく終了」

SMAPが活動休止ではなく解散したみたいな感じですかね。

閉じることが明らかなのに、中途半端な状態にしたくないということなのでしょうかね。これ、結構すごい話が書いてありますよね。

 

あと、気になったのが、

なお、地方公共団体の構成員から、地方公共団体側が認識している課題を汲み上げる議論の重要性が指摘されたため、事務局から、地方公共団体単位では見えない課題が地域又は全国レベルで認められるならば、地方公共団体としてこれを受け止めて議論すべきであり、そのような双方向の議論が必要ではないかと指摘し、その点については異論がなかった。今後の検討については、地方公共団体やそれ以外の様々な方々の意見を踏まえた、より幅広い議論・検討が行われていくべきであり、委員会としても懇談会を通して得られた情報や知見について共有するなど積極的に貢献していく必要があるのでないかと考えている」旨の報告を行った。

 

地方公共団体の個人情報保護制度を考えるに当たって、地方公共団体側が認識している課題をくみ上げる必要があるのは当然中の当然であり、当たり前のこと。それができないのに、なぜ地方公共団体の個人情報保護制度を考えることができるのか、意味が分からない(論理矛盾では?)。

 

今後の法制を検討するうえで、重要なのは、抽象的な「なんとなくいいと思う」という話ではない。

実情の課題を解決することである。

 

自治体にメリットを出す、ゴールを設定するっていう上記の話にもつながるけど、今の自治体の課題を解決してより良い個人情報保護を行える実務整備ができるよう、自治体を国が支援するっていう話ならわかるっていうことはあるだろう。

 

絶対に、現状の課題を洗い出し、的確に分析するということはやらなければならない。必須事項である。

 

ただ、実際の懇談会の議事録を見ると、

https://www.ppc.go.jp/files/pdf/200703_gijiroku4.pdf

〇町の方

ありがとうございます。では、要望としてなのですが、今後、このような課題とかを進めていくといったときに、やはり現場の意見を聞いていただければと思います。例えば個人情報保護担当のところで調査して、調査を受けて回答できるものもあれば、では、現場のニーズとしてはどうなのか、現場としてどう困っているのかというところをやはり吸い上げて、そこから改善をしていきたいなというように思っています。ですので、形だけではなく、本当に実務として課題の改善をされていくような、そして、今、進まないものが進んでいくような、そんな取組を一緒にしていければいいと思います。以上です。


○審議官

個人情報保護委員会でございます。ありがとうございます。おっしゃることは非常によく分かります。他方、今回の御議論でも改めて様々な自治体から御表明されましたとおり、必ずしも日常の取扱いの中で課題だと認識できないようなものも場合によっては地域あるいは全国レベルで見た場合には課題として指摘されることもございまして、逆に言いますと、そういったことも同様にどう受け止めるかというようなことは私どもも、あるいは各自治体の方々も検討する必要があるのではないかというように思いますけれども、その点についていかがですか。双方向であるべきだと思います。

 

某町の方が言っていることが正論中の正論。大賛成!!!

それが、最初にやるべきことなのは間違いない。

 

もっとも、担当審議官が言っている「日常の取扱いの中で課題だと認識できないようなもの」についても、改善したほうがよいことは間違いない。でもそういう課題は、

  • 本当に現場では気づきにくいが課題であるもの
  • 現場でも気づいているが認めたくないもの
  • 意識が向いていないせいで気づかないもの

があるので、切り分けが必要です。声が大きい方の意見が実態を反映しているわけではないので。

町の方がおっしゃっているようなきちんとした実態調査・吸い上げ・課題分析を行うことで、後2者を説得することもできるわけで。後2者の方が、声が大きい、政治的パワーがある場合があるというのが厄介なところではありますが。

 

私どもが説明する相手の方々の多くは本件の検討を進めても問題がないとおっしゃっている方が多いからでございます。皆様方が実需はないとおっしゃるのと同様に、これを進めていっても問題がないとおっしゃる方があまりに多いものですから、私どもはある種、挟まれて苦労している、困っているというのも正直なところでございまして、その辺りの認識のレベルをまずそろえるところからやらなければいけないのですが、あまりに議論が煮詰まっていかないものですからいろいろな工夫をさせていただいているというのが正直なところでございます。

 

「進めていっても問題がない」というか「どんどん進めていくべき」と言う人たちを懇談会メンバーにして、意見発表をしてもらわないと伝わらないのでは? その場合でも、「自治体 対 他」ってなることは往々にしてあるわけですが。

 

 

今までは、あえて地方公共団体の個人情報保護条例統一化問題について触れていませんでしたが、これからはブログでも触れていくつもりです(上記資料を読んだらなんかスイッチが入ってしまった)。なので、タイトルにも「その1」とつけました。特別定額給付金については(その12)ぐらいまで書きまして、さらに講演資料も作成中ですので、地方公共団体の個人情報保護条例についても状況によっては(その3)ぐらいで終わる可能性もありますが、場合によっては(その100)ぐらいまで続く可能性もあります。がんばって書いていきたいと思っています。

 

まあでも最後に蛇足でどうでもいい話ですが、国家公務員時代と弁護士に戻った今とで、自治体と接するとかなりの違いがあります。

国家公務員時代にマイナンバーの話をすると自治体から罵倒中傷されることもありましたが、弁護士として同じ話をしても、特に罵倒中傷されることはないという。

はなしの内容は同じような内容なので、立場が国家公務員か弁護士かどうかなのか、それとも私も国家公務員で役所の中であまりに死闘を繰り広げたせいで、修羅場能力が飛躍的に向上したため、やけにドスがきいたというか、迫力が出たというか、そういうことをもって、あまり人から罵倒されることがなくなったのでしょうか。謎です。

 

まあそういうこともありまして、というか論理的につながりませんが、私は、「あるべき地方公共団体の個人情報保護の姿」を自分として目指して、情報発信していくつもりです!