ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

弁護士業務と個人情報保護法23条1項2号・17条2項2号について

弁護士が業務を行う際、プライバシー性の高い情報を聞いたり資料を取得したりすることがあります。
例えば、依頼者から相談を受ける際に、「息子に障害がある」「夫がガンである」等を聴取することがあります。
刑事弁護では、被疑者/被告人から、共犯者や被害者、関係者に関し、病気の有無、障害の有無、犯罪歴の有無などの要配慮個人情報を聴取することもあります。

このような場合、個人情報保護法から見て問題はないのでしょうか。
弁護士は依頼者の同意は取得できますが、共犯者、被害者、関係者、息子、夫の同意は取得できない場合も多いです。
しかし、相手方等の同意がなければ情報を聞き取れないとすると、依頼者と面談してても、まったく話が聴取できないという事態も想定されます。事案の概要すら聞けないのではないかという場合も想定できます。さらにいえば、利害対立している共犯者等が同意する場合も多くはありません。

この点、個人情報保護委員会では、「人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であるとき」(個人情報保護法23条1項2号)に当たるので、弁護士は要配慮個人情報を本人の同意なく、取得できると考えているようです(Q&A Q10-3、その他個人情報保護委員会からの聞き取り等による)。

結論としては、その通りであると思いますが、しかし、何度もブログで書いてきていますが(ここここ)、私はこの根拠条項に反対です。場当たり的解釈のように思え、弁護士業務を通じて統一的な解釈ができないからです。

先日、そういう事例に出会いましたので、ブログを書いています。

死刑求刑が予想される事件の刑事弁護で、被疑者/被告人/依頼者(以下、単に「依頼者」)から、共犯者や被害者、関係者に関し、病気の有無、障害の有無、犯罪歴の有無などの要配慮個人情報を聴取する例で、個人情報保護法23条1項2号構成の疑問点を考えます。

この場合、依頼者が死刑求刑されていて、依頼者が死刑を争っている場合(否認事件又は自白事件だが死刑を争う場合)は、「依頼者の生命の保護のために必要があり、共犯者の同意を得ることが困難な場合」に当たります。
これに対して、依頼者が死刑を受け入れている場合は、「依頼者の生命、身体又は財産の保護のために必要」があるとは言えないのではないでしょうか。自白していて、死刑を受け入れていて、求刑通りの刑に服するといっている場合、身体拘束も違法とはいえないでしょうし(否認なら身体拘束自体が違法で身体の保護の必要という主張が観念できるか)、財産権侵害も観念できないのではないでしょうか(冤罪だと国賠請求もできますし、不当な身体拘束に対する金銭的・精神的損害が観念できますが)。
そのような場合でも、刑事弁護としては、依頼者から事実関係等を聴取して、必要な弁護を行わなければいけないというのが法曹倫理だと思いますし、刑訴法等も予定しているところであると思われます。しかし、この場合、「依頼者の生命、身体又は財産の保護のために必要」があるとは言えないので、個人情報保護法23条1項2号構成では要配慮個人情報を取得できなくなります。

この点、弁護士業務について弁護士法3条(根拠条項としては刑訴法等でもよい)等を基にして「法令に基づく場合」は、要配慮個人情報を取得できると構成すると、依頼者が死刑を争っているか否かにかかわらずに、統一的に個人情報保護法23条1項1号で解釈することができます。

依頼者が死刑を争うか否かという状況によって、同じ刑事弁護で関係情報を聴取するという事案で、個人情報保護法の適用条項が異なるというのは、法解釈としては美しくありません。弁護士業務として、要配慮個人情報を取得することが、法令に基づき予定されている場合は、依頼者が死刑を争っているか否かにかかわらず、同じ条項で解釈すべきであると考えます。

なお、以上は刑事の例でしたが、民事でも、財産損害が観念できない事案というのもあり得ると思います。

※要配慮個人情報の取得は、正確には個人情報保護法17条2項で、1号が「法令に基づく場合」、2号が「人の生命・身体・財産…」です。