ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

内閣法制局のニュースを見て

内閣法制局が想定問答の文書を作成していながら国会に開示しなかった疑いが浮上したとの新聞報道を読んで。

内部事情等は全く存じ上げませんが、この新聞記事を読んで、思わず「さもありなん!」と少し笑ってしまいました。

法制局は次長・長官が絶対ですので、例えば、長官が「なんて出来の悪いものなんだ!お前はなんて頭が悪いんだ!」と、作成した参事官に言ったら、その資料は絶対にボツになる、と。そしてボツになった資料がそのまま共有フォルダに入っているというのは、ありえる状況だな、と。

法制局ってすごい組織だなとつくづく思います。私のような立案担当者は参事官にしかお会いできず、法制局内部の説明は、すべて参事官が行うと聞いています。

  • 立案担当者→参事官へご説明
  • 参事官→立案担当者に修正指示
  • 参事官→部長へご説明
  • 部長→参事官→立案担当者に修正指示
  • 参事官→次長・長官へ投げ込み、必要に応じて?ご説明
  • 次長・長官→参事官→立案担当者に修正指示

立案担当者は、法制局内部での検討過程はわからず、修正指示だけを受け、修正理由不明のまま修正する、という謎な組織。

そして立案担当者は部長以上にはお会いできません。いや、お会いしたくないというか、部長・次長・長官に自分で説明するなんていう恐ろしい仕事を担当したくはありませんが、組織として不思議だな、と感じました。立案担当者じゃなくて、参事官が部長・次長・長官に説明するという。まあ、部長・次長・長官にしてみたら、頭が悪く法律をわかっていない立案担当者のちょろくさい説明を受けるより、参事官から説明を受けたいのだとは思うのですが、私、幕末好きで、幕末小説とか読むと、天皇に直接お話しかけてはいけなかったり、天皇も直接お話しかけたりしてはいけないという場面が出てきて、ご奏上?の係りの人が出てきますが、それを思わず思い出してしまいました。

しかし法制局参事官はあまりのハードワークですね。ちょろくさい立案担当者の相手をしつつ、法制局幹部へのご説明も引き受けるという。さらに、法制局長官の国会答弁時には随行で参事官がいらっしゃるそうです。省庁に戻れば、随行についてきてもらう側の立場でしょうに。

私をご指導してくださった法制局参事官は、おそろしい頭の良さで、このレベルの頭の良さの方って、生きていてほとんど見たことがありませんでした。東大教授は、あまりの頭脳明晰度合いに、授業を聞いていると、「なんて頭がよすぎるんだ!」と驚くほどですが、石川健治先生なんて、あまりの頭の良さに、もはやギリシア彫刻のような芸術的レベルを感じてしまうほどです。
私をご指導してくださった法制局参事官は、東大教授ぐらいの頭脳明晰度合いかと。

ただ、人に話を聞くと、私は本当に運が良かったようで、頭がものすごくよくて、性格が本当に立派な方にご指導していただきましたが、法制局参事官も全員がそういうわけじゃないそうですね。そうすると部長が代わりにがつがつチェックすることになるのでしょうかね。

国で働いて、「この仕事は絶対にハードワーク過ぎる」と思ったのは、まあ立案担当者も恐ろしく大変ですが、やはり法制局参事官は鬼のようにハードワークだな、と。あと、各省庁の総務課長とか、国会担当の総務課の方も大変だな、と。政治周りの仕事と法制局周りの仕事は、大変ですね。私は予算要求はやったことがないのでわかりませんが、予算要求周りも大変なんでしょうかね。

法制局対応をしたことがある人間としては、法制局に改善していただけるとありがたい点を書きたいと思います。

  • 法制上のお決まりをルールブックとして作ってほしい
    • 不文律のお決まりがたくさんありますが、それは法制局参事官・部長・次長・長官のようなレベルの方のみ諳んじているものであって、立案担当者向けに、今の本には全く書かれていないお決まりを教えてほしい
  • 修正理由を教えてほしい
    • 部長説明、次長説明、長官説明で、修正指示が来ますが、理由を教えていただけません。しかし、各方面に説明するのは立案担当者の仕事であり、責任をもって説明できるようにするためにも、修正理由を教えていただきたいです。省庁内部であれば「法制局指示です」という理由で通りますが、省庁外部に対しては、その説明では通らないと思うからです。修正理由なんて明らかだろうとお思いかもしれませんが、立案担当者のレベルでは残念ながらわからないのです。
  • 電子化してほしい
    • 法制上のお決まりチェックの電子ツールの改善を望みます。財務省もガンガンに予算を付けて下さい。エラーが多すぎて使い物になりません。みんな困っています。
    • 毎回書面でお持ちするのは、少し無理があります。必要に応じ、電子書面での提出も許可していただけないでしょうか。法制局にはスタッフが少なすぎて、印刷等も対応が難しいのかもしれませんが、一日数回も、大量の書面をお持ちするのは、結構きつめです。財務省も予算を付けて、内閣人事局も定員をつけて、法制局の事務作業係りの充実をお願いしたいところです。
    • 毎回、変更箇所に付箋をはるのは、少し無理があります。なぜなら条文の書面が100ページあっても、変更していない箇所は2,3ページだからです。すべてのページにピロピロと付箋がついているので、逆に変更がないページに付箋をはらせてもらえないでしょうか。
  • 事務の方がいばりすぎです
    • 担当の方で、「お前、間違ってるよ。間違っている場所あるけど、教えてやんねえからな」というような意味不明な電話をかけてこられます。しかも説明を求められたので回答して、こちらが間違っていないことを説明したら、逆切れされて、電話をガチャ切りされました。お忙しいところ恐縮ですが、社会人としてのモラルを持つように指導するのは、上長としてお願いしたいと思います。これは法制局に限らず、公務員の中には、とても社会人とは思えないような、チンピラさんのような言動をとる方が多々見受けられます。お忙しいとは思いますが、社会人として適切な言動をとるよう、ご指導のほどお願いします。ちなみに私は仕事でやくざの方ともお会いしたことがありますが、公務員のチンピラさん風の方のような方はほぼいらっしゃラないように思います。みなさん、基本的に、仕事上では、普通の応対をされるかと思います。
  • 細かいルールよりも、実務・裁判を見据えた対応をお願いしたい
    • 法制局は高い職業意識で、すばらしいお仕事をされていらっしゃると思います。しかし、「そのお作法は何に影響するのだろうか。どんな良いことがあるのだろうか。」と謎に思う部分があります。細かいお作法で、不文律や趣味的事項よりも、法律としてのわかりやすさ、誤解のなさ、裁判に耐えうる規律を重視すべきではないでしょうか。私のようなちょろくさい人間が言うべきことではないかもしれませんが、一般人、法曹が読んで、わかりやすい法律、誤解のない法律を作成すべきだと思います。そのためには、比較的平易に書く、誤解を生みそうなところは、用例に縛られずに、きちんと書ききることが重要なのではないかと思います。
  • 用例を重視するのに、用語の統一が図られていないように思います。類似法令であっても、別の用語を用いていたりと、あそこまで用例を重視する趣旨は何なのでしょうか。読み手にとってわかりやすい法律、同じことは同じ用語で説明する法律にするのであれば、関連分野の法律の用語の統一を図るべきではないでしょうか。
  • 定義語は、2箇所とか3か所でしか使わないものは、定義条文に入れられませんが、読み手の弁護士からすると、定義語は、定義条文にまとめてくださった方が、間違いが少ないです。今あるお作法・お決まりが、何のためにあるのか、読み手に誤解のないように、規制対象を真に明らかにするようにといった趣旨であれば、定義の方法、括弧書きの方法などは、改善していただけるとありがたいです。
  • 訟務と連動するべきではないでしょうか。裁判上、争いになる点を踏まえて、立案段階から、そういった点をつぶしておくべきだと思うのです。そうすると、法務省訟務と内閣法制局が一体化した方が、行政組織のあり方として良いのではないかと思います。