ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

コロナ対策にマイナンバーを使うと違法?

「コロナ対策にマイナンバーを使えない、なぜならマイナンバーを使うと違法になるから」というようなことを言う方がいます。これは、間違っています。もっと細かい法律論は別途ブログ記事を起こす予定ですが、今日は、まず私の胸のうちにものすごく溜まりまくっている、「あるべきマイナンバー活用の法的方法」みたいなものを雑感的に書きたいと思います。

 

1.マイナンバーを使うためにはマイナンバー法上の根拠が必要

マイナンバーは、使える範囲、紐づけられる範囲が法律で限定されています。なんにでも使えると、マイナンバーの価値が上がって、マイナンバーさえわかれば年収・結婚歴・病歴・逮捕歴・破産歴・交友関係・検索履歴等なんでもわかるような社会になったら、嫌だからです。

 

マイナンバーを使うためには、マイナンバー法上の根拠が必要です。メインの利用場面は、マイナンバー法別表第一に列挙されています。国税事務とか地方税事務とか生活保護とかです。

 

 

2.マイナンバー法別表第一に載せられないの??

 しかし、マイナンバー法別表第一には、法律に基づく事務しか書けないという話があるのです。自治体が条例で定める独自事務も条例に基づく事務しか書けないという話ですね。

 

そして、コロナ対策(特に、10万円一律給付)は、法律に基づく事務じゃないので、番号法別表第一に載せられないという方もいます。私は特別定額給付金の根拠法令をチェックしていないので、特別定額給付金が法律にもとづかない事務なのかどうかは定かではありませんが、法律に基づかない事務だったとしても、そんな、マイナンバーを使えない理由だけを探して言ってないで、もしマイナンバーを使えない法的理由があるなら、それを解決する方法を考えるべきであると思います。

 

ちょっと嫌味を言うと、法律に基づかない事務じゃなくても、官邸から圧力をかければ、別表第一に載せられるはずです。だって、官邸から圧力がかかっているっていう新聞報道ばかりなのに、国民のために役立つ処理についてはなぜ圧力をかけないのかなと思います。公僕という意識が必要だと思います。

 

官邸からこの程度のことで圧力がもしかけられないとしても、そして行政が官邸からの圧力なんて屈しない組織だとしても、そもそも法律に基づく事務じゃなくても、法制上問題ないように別表第一に載せられる方法を考えるのが、行政府・立法府の仕事だと思うのです。

 

3.解決方法

(1)特別定額給付金ほかを法律に書けばいい 

特措法をさっさと改正して、法律に基づく給付にしたら、マイナンバー法別表第一に載せられます。

もしそれがだめなら、特措法に基づく閣議決定かなんかに基づく給付にして、それで別表第一の載せればいいのでは?

 

(2)政令・委員会規則落ち 

しかし上記(1)だと、「そんなことできるわけねーだろーが!!!」とかいきなり怒り出す官の変な人が登場しなくもありません(私の経験上)。

 

そこで、とりあえず私が考えたのは以下の方法です。

付け焼刃的改正としては、別表第一列挙のほかに、別表第一に準じるものとして政令で定める事務を個人番号利用事務にして、で、その政令で特別定額給付金その他を規定すればいいのではということです。

政令なら法律より簡単に成立させられて、業務負担も減るでしょう。

さすがに省令はどうかと思うけど、委員会規則という手はなくはないかも? 委員会規則なら政令よりもさらに簡素に成立はできます。 

政令なら政令レベルの根拠の事務もかけるし、委員会規則なら省令レベルの根拠の事務がかけるのでは? さすがに特別定額給付金を省令に規定することもできないとかありえないでしょう。

 

ただ、政令や委員会規則落ちすると、国による違法指定が横行するという問題も考えられなくはないので、違法監視という点では、委員会のほかに国会の監視力を強めればいいのでは? 質問主意書とかで国会監視すれば? それか年1の国会報告の際に審議するとか。

 

しかし、政令・委員会規則落ちっていうのは、法律より官側の業務量が比較的少なく成立させられるからって、本当は必要なものはさっさと法律改正して通すべきですよね。急がない法律を国会審議している時間があるなら、多くの国民を救うべきものを早急に国会審議すべきであって。

 

 

(3)19条16号・9条5項で行く! 

 それがだめなら、19条16号・9条5項でいけばいいのでは?

19条16号は19条1~15号相当じゃないといけないけど、社会保障なんだし、形式的理由で別表第一に載せられないなら、閣議決定かなんかに基づく給付にして19条16号・9条5項で行けよ、と思ってしまいますが。

 

19条16号だって、「そんなことできるわけねーだろーが!!!」とか言い出す変な人が登場することも考えられますが、コロナ対策を19条16号にするのって、社会保障だし、本当に必要がありますよね? 監視を強化すればいい話であって、利用することに疑問符ってそこまではつかないと思うのです。

そして、これまでだって、「はあ?」みたいなグレー(ブラックに近い?)解釈しているところがあるのに、なぜか作為についてはやけに消極姿勢なのでしょうか。

 

仕事がゼロになった人とかどうするんでしょうか、本当に。解雇された人とか。仕事がゼロじゃなくても、売り上げが5分の1とか10分の1とか以下なのに、経費だけは通常通りかかったら、赤字で、従業員への給料もどうやって払うのでしょうか? 無利子・無担保借り入れでしのぐの? 自分の給料も無利子・無担保借り入れでしのぐの? 

 

 そもそも、マイナポータルの根拠法をちゃんとどうにかしてほしい。附則とかおかしすぎて人に言うのも恥ずかしい。

これを放置しつつ、19条16号は無理、別表第一は無理っていうのは、単に逆らえない時以外は法改正をしたくないってことだと思ってしまいますが。嫌味すぎでしょうか。

 

つーか、立法府・行政府なら、法律改正ができるわけです。立法事実があれば、社会保障じゃなくても、災害対策じゃなくても、範囲を広げる法律改正すればいいわけで。つーか、コロナ対策は社会保障だし、災害対策だし。地震とか台風じゃないだけで、疫病自体は昔からあるクラシカルな事態で、みんなが困っていて、みんなで助け合わなきゃいけない事態なんだから。

 

私が5分10分考えただけでも、法的解決方法は上記のように何パターンも思いつくんだから、ちゃんとやってほしいと思います。

 

(4)コロナだけじゃなくて災害にも今のままではマイナンバーは活用できない

 災害時も本当のことをいえば、全然マイナンバーを活用する検討も法整備もされていません…。コロナでマイナンバーが活用できないっていう話が目立ったけど、これ風災にしても水災にしても大地震にしても、マイナンバーは今のままなら活用できません。金融機関がキャッシュカードなしに預金者等にお金払いだせるっていうことと(これも本当に実務上可能かは私にはわかりません)、あとは災害関連の事務が個人番号利用事務にはなっていますが、具体的実務の中でどうやってマイナンバーを災害時の支援に活用するかどうかは、国レベルでは十分な検討はされていないと思います。

 

マイナンバーを秘密じゃなくして活用できるようにしよう!」とかそういうスローガンばかり言ってないで、ちゃんと、地道に人の役に立つマイナンバーというのを、着実に検討していくべきだと思う。検討すればできるのだから。

緊急事態が起こったときに何が必要か、何がボトルネックになるかを地道に検討していって、早く解決するための方策を地道に検討していくっていう、そういう地道な仕事が必要なのではないかと思います。