ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

次世代医療基盤法(医療ビッグデータ法)のパブコメ結果

次世代医療基盤法(医療ビッグデータ法)のパブコメ結果が公表されていますね。
私も日弁連とは別に個別で意見を出しましたが、すごく丁寧にご回答いただいています。ありがとうございます。
具体的には、以下の意見を出して、回答をいただいています。

ガイドラインへの意見

(該当箇所)
2-2-2(7)③

(水町意見)
「(i)匿名加工医療情報の利用目的が、基本方針に照らして適切な医療分野の研究開発に該当するものであるか」とある。法では、匿名加工医療情報の提供に関しては、特段の制限を置いていないように見受けられる。法1条では、「健康・医療に関する先端的研究開発及び新産業創出を促進し、もって健康長寿社会の形成に資することを目的とする」とある。そうすると、研究開発そのものに該当せずとも、健康関連の新産業創出につながるような目的であれば、匿名加工医療情報の提供を受けてもよいのではないか。例えば、化粧品やダイエット方法の研究開発は、「医療分野の研究開発」とは厳密には言えない場合でも、匿名加工医療情報の提供を受けて研究したり商品開発してもよいのではないか(非科学的なものは排除した方がよいが、それは(ii)で排除できるのではないか)。(i)〜(iv)は法律上はそのような限定はないと見受けられるが、何を根拠とするのか。医療情報を大臣認定を受けて大量に取り扱う事業者として高い判断能力が求められること、匿名加工された医療情報であってもそれが悪用されては本法やひいては医療制度への不信につながるため厳格な提供先の検討が求められることが、その根拠なのか。もしそうであるなら、(i)は限定しすぎではないか。

内閣官房回答)
御指摘を踏まえ、法の規定に沿って該当部分の記述を修正します。


(該当箇所)
2-2-2(9)

(水町意見)
「実人数」とは何を指すのか。延べ人数ではないということか。

内閣官房回答)
御理解のとおり、「実人数」とは延べ人数ではないとの意味です。


(該当箇所)
2-2-2(11)

(水町意見)
「不当な差別的取扱い」の具体例があると理解が進むと思われる。

内閣官房回答)
ガイドラインにおいて一定の具体的な基準をお示していると考えておりますが、御指摘の点については基本方針全体の趣旨を踏まえつつ、適切に運用してまいります


(該当箇所)
5-1

(水町意見)
医療情報等の保有や匿名加工医療情報の提供は委託することができないとある。現実には、医療情報等をデータセンタ等に保管し、かかるセンタ内のサーバで匿名加工処理を行い、媒体などに移して、匿名加工医療情報を外部提供する場合もあると考えられる。
ここにいう医療情報等の「保有」とは、個人情報保護法行政機関個人情報保護法、情報公開法の「保有」と同じ概念で、当該情報について事実上支配している(利用、提供、廃棄等の取扱いについて判断する権限を有している)ことをいうのか。つまり、情報の所在は他の業者の運営するデータセンタでもいいということか(仮にそうでないとすると、自社内にデータセンタ設備が必要となる)。
また、匿名加工医療情報の提供は委託することができないとあるが、これは、委託先に指示を出して、「A社に提供せよ」ということができないということを意味しているのか。認定匿名加工医療情報作成事業者の従業者が、実際に提供行為をしなければいけないという趣旨か。その場合であっても、認定匿名加工医療情報作成事業者の従業者がDVDなどに焼く作業をしたうえで、セキュリティ便・宅配便等で他社に提供することはできると思われるので、その旨明記してはどうか。

内閣官房回答)
御指摘を踏まえ、趣旨を明確化します。


(該当箇所)
2-1 規則6条第1号へ

(水町意見)
PIAを記載していて、大変評価できる。「プライバシー事前評価」ではなく「プライバシー影響評価」の方が用語としては適切であろう。また「システムのプライバシー事前評価」とする必要はない。PIAは必ずしもシステムに対して実施するものではないので、以下のように改めるべきである。
(現)システムのプライバシー事前評価(PIA)
(新)プライバシー影響評価(PIA)の実施

内閣官房回答)
御指摘を踏まえ、該当部分の記述を修正します。


(該当箇所)
2-2 規則第6条第2号ハ

(水町意見)
「法第17条第1項の趣旨を踏まえ、認定事業医療情報等を認定事業の目的(医療分野の研究開発に資すること)の達成に必要な範囲を超えて取り扱ってはいけないことの認識を確実に共有することが求められる。」とある。法17条1項にいう認定事業のため以外の目的外取扱いの禁止は、「匿名加工医療情報作成事業」の目的に必要な範囲を超えて取り扱ってはいけないということではないのか。「(医療分野の研究開発に資すること)」とあると、認定事業者は、研究開発のためなら、自分の研究用にも利用してよいと読めるが、それでよいのか。

内閣官房回答)
御指摘を踏まえ、該当部分の記述を修正します。


(該当箇所)
4-1-5

(水町意見)
4-1-5(規則第18条第5号)について、もう少し例示や解説があるとありがたい。

内閣官房回答)
今後の施行の状況を踏まえて検討・対応してまいります。


★基本方針への意見

(水町意見)
認定匿名加工医療情報作成事業者は、匿名加工医療情報のみならず、生の個人情報を大量に取り扱うこととなる。基本方針、ガイドライン等では、審査基準等に重きを置いた記述となっており、それは理解できるが、認定匿名加工医療情報作成事業者では、個人情報の適切な取扱いを行わなければならない。その点をもっと強調すべきではないか。個人情報の安全管理については記述が多いが、求められるのはそれだけではないはずである。例えば、匿名加工医療情報作成事業者は、個人情報保護法上の個人情報取扱事業者である場合も多いと思われ、個人情報保護法上の義務も果たす必要があるのではないか。個人情報保護法上の義務は、本法で特則が定められている部分も多いものの、たとえば、取得した医療情報等(生の個人情報)は、利用目的を特定する必要があるのではないか。正確性の確保の努力義務も生じるのではないか。開示請求等は認定匿名加工医療情報作成事業者にとっての保有個人データに当たるとも解され、対応が必要なのか。

内閣官房回答)
認定匿名加工医療情報作成事業者は、個人情報保護法に規定する個人情報取扱事業者でありますので、同法における個人情報取扱事業者としての義務を負っています。


(水町意見)
規則5条で、「相当の経験及び識見を有する者」が必要である旨が規定されていて、これは賛同できるが、ここに例えば、個人情報の保護に相当の経験及び識見を有する者も加えた方が適切であると考える。もっとも、匿名加工医療情報の提供の是非の判断に際し、委員会諮問を必須としており、当該委員会に倫理・法律学の専門家を要求しているため、ここで、提供先の個人情報保護に対する判断はある程度できるかと思うが、提供先ではなく、認定事業者自体の個人情報保護に責任を持てる者を要求すべきではないか。

内閣官房回答)
認定匿名加工医療情報作成事業者の認定の基準として、日本の医療分野の研究開発に資する匿名加工医療情報を作成するための大規模な医療情報の加工に関する相当の経験及び識見を有する者を確保していること(規則第5条第2号イ)や、認定事業に関し管理する医療情報等及び匿名加工医療情報の安全管理に関する相当の経験及び識見を有する責任者を配置していること(規則第6条第1号ロ)を求めており、個人の権利利益の保護に配慮しつつ、匿名加工された医療情報を安心して適正に利活用することができる仕組みとすることとしています。




ちなみに、特に回答がなかったものの、私の出した他のコメントは次の通りです。

(該当箇所)
ガイドライン3に対する意見

(水町意見)
例示や解説が詳しくて、大変参考になる。とても良いと思う。


(該当箇所)
基本方針P12の3(1)

(水町意見)
見出しに「医」が重複


(該当箇所)
全般

(水町意見)
ローマ数字や丸囲み数字が、機種依存文字となり、eGovからは入力できない。そのため、意見に対する該当箇所を正確に引用することができない。



最後のは、イーガブの問題ですよね。どうにかしてほしいです、行政管理局様?、ご検討願います。


パブコメといえば、昔、私はパブコメ意見を読んで修正案を作ったり回答を作ったりする側でもありました。
最後の追い込みの時期で、施行時期が決まっている中、早期の確定・公表が求められているので、そういう中でパブコメ対応するというのは、時間的にかなり制約があり、結構追い詰められたようなスケジュール感になることも多々あるかと思います。
担当としては結構つらい。でも、パブコメへの回答をしないと、何のためにパブコメ手続をやっているかもわからないので、できる限り丁寧な対応をしようと思いますが、これ担当者と担当幹部等の性格によっては、「ご意見うけたまわりました」ですべて回答を済ませるといった場合もあります。今回は国民社会に大きな影響を与える重要法ということもあってか、大変丁寧なご対応をいただきまして、私がお礼をいう立場ではないかもしれませんが、感謝申し上げます。

前に、国の会議で、宇賀克也先生がパブコメの意義についてお話ししてらっしゃいました。有識者会議の意見を聴いていればパブコメの意見はいらないというような意見を述べる方もいるが、実際にパブコメで一般から非常に的確な意見が出てきている例もある。また行政透明化のためにも大変重要だということをおっしゃってました。宇賀先生は授業でも会議でも、すごく情熱をこめてコメントされることがあって、聞いているとすごく伝わってきます。授業では、国家賠償法の講義がすごく情熱的だなと思いました。

私としては、パブコメがあると、意見を言いやすいし、あとは疑問・質問に対しパブコメで回答が出ている事例も結構多いので(金融庁など)、弁護士としては法律を検討する際にパブコメ回答をチェックしたりすることもあります。

パブコメは基本的には、その法律の対象となる仕事をしている会社さんや業界団体さんが意見を出す場合が多いような気もしますが、稀に私のような仕事なのか趣味なのか不明な立場からも意見が出てくる感じですかね。法制技術に詳しい方がパブコメ意見で、法制上の誤りを指摘することもあったりして、パブコメって結構、振れ幅が広いというか、うまく表現できませんが、いろいろな活用のされ方があるような気もします。ただ、国の担当者的にはスケジュールのひっ迫感がもっと解消されるとうれしいという感じでしょうかね。

私もこういう活動を仕事でやっているのか趣味でやっているのかがかなり不明というか。趣味で調べて執筆して、で、仕事のご相談が来るという感じですかね。好きなジャンルのお仕事をさせていただいているのは大変ありがたく、仕事と趣味が混然一体となっていて、ありがたいことです。