ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

毎日新聞にコメントしました

mainichi.jp

 毎日新聞2020年8月10日 08時00分

 

毎日新聞の記者の方にも申し上げましたが、

「同意」を取得することなく医療情報を収集することは、個人情報保護法や倫理指針上可能です。

学術研究であれば個人情報保護法は適用除外になり倫理指針に則る形になりますが、倫理指針は原則インフォームドコンセントですが、オプトアウトも認められています。

また学術研究であってもなくても、個人情報保護法上の匿名加工情報に匿名加工して提供することも可能ですし、個人情報保護法上の共同利用も可能です。

 

さらに、次世代医療基盤法に基づけば、病院側は、匿名加工することなく、大臣認定を取得した事業者側で匿名加工してくれます。この場合、オプトアウトでの提供となります。

 

この辺りはややこしすぎて記事に書けないといわれましたが。

しかしややこしいから、「同意取得なんでしょ?それって無理じゃない?だから日本は医療情報の研究が全然進まないんだよね」という思考停止に陥るのは、良くないことであると思います。

同意取得が必要な場面とそうでない場面、どうやって患者の権利保障と医療の発展を両立させるか、医療現場に負荷をかけずに、しかし患者の権利保障をしっかり確実に行える医療の発展のための研究・データ活用を、きちんと考え、現状の何が問題なのか、なぜ一部の方はいまだに「同意がないとだめなんだろう」と思ってしまうのかというところを、医療現場、研究現場、規制検討者、そして患者側の代表者などマルチステークホルダーがじっくりとディスカッションしながら、考えていくべきなのではないでしょうか。

 

医療情報の活用を促進するため、18年5月に次世代医療基盤法(医療ビッグデータ法)が施行され、情報を病院外に提供する際、それまでは病院の責任で匿名加工する必要があったが、国の認定を受ければ外部の事業者でもこの作業を行えるようになった。患者が拒否した場合には情報提供できないが、匿名加工を外部の責任で行わせることで病院の負担を軽減し、利活用を後押しすることが期待されていた。
ところが、認定事業者は日本医師会系と大学病院系のわずか2グループにとどまる。 

 ここのところは、私も記者さんに説明しましたが、2グループも認定が取れるという、今の現状は素晴らしいことだと思います。

「わずか2グループにとどまる」とありますが、なぜ2グループではだめなのでしょうか。医師会系と大学病院系という、情報性質が違う可能性が考えられる2グループがいるということは、本当に価値のあることだと思います。

 

大量の医療データを集めて匿名加工する事業者さんは、それは厳しい基準が求められるべきだと思います。そのような厳しい基準を満たし、大臣認定を取得できる事業者さんが2グループもいるということが、本当にすばらしいことで、今後の展開に期待したいところです。

 

なお、これはあくまで次世代医療基盤法上の匿名加工ができる人は2グループだけというだけであって、個人情報保護法上の匿名加工は特に大臣認定を取らずにできますので、誰でも法律に則れば自由に行えるわけで、極論すれば、数万社、数十万社、数百万社単位で、匿名加工できる事業者が存在するわけです。そのような状況の中、なぜ次世代医療基盤法の大臣認定事業者が2グループだと問題があるのでしょうか。

 

逆に、個人情報保護法上の匿名加工は特に大臣認定を取らずにでき、それらが個人情報保護法の法定基準に則っているか不明な状態があるわけで、それをどう考えるかの方が重要だと私は思います。

 

患者の権利保障と医学の発展のために、今後も私として引き続き検討を続けたいと思いますし、次世代医療基盤法は、個人情報保護法と比べても本当に医療情報保護を充実させていて、かつ医学の発展と患者の権利を両立させているというスキームとして良いスキームだと考えています。

問題としては、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」の方のように感じていますし、あとは医療現場への法律スキームの周知徹底も課題に感じています。

 

 

余談。

今回は、記事が掲載されコメントが掲載されたというご報告を、新聞記者の方からいただき助かりました。時々、記事が掲載されても、ご連絡をいただけない記者の方がいらっしゃって、そうすると、イマドキの新聞は大体有料記事になっているので、自分の話がどういうコメントになって掲載されているかがさっぱりわからないことがあって、困ってしまいます。図書館に縮刷版を読みにいかないと自分のコメントがわからないという。さらには縮刷版がない新聞もあるわけで。何日の朝刊にのるかもわからなければ、当日新聞事態を購入することもできませんしね。縮刷版見るにしても、何日にのっているかわからないし何面かもわからなければ、探すのにかなりの手間です。自分のコメントを確かめるために、新聞の有料登録をするというのは、あまりにもばかばかしいですし。

一般的な大手新聞の場合は、コメントの内容を事前に確認させていただくし、さらに掲載連絡もいただくのですが、大手や準大手新聞でもこういったことをやってくださらない記者の方がいらっしゃいます。

また取材の方法や記事のまとめ方、事実誤認などについても、本当に記者によって全然違っていて、新聞記者から取材を受ける時に、気持ちよく取材を受けられる場合と、「一体何なんだ?」と思うような場合と、結構二極化しているようにも思わなくもありません。

役所関係と、あと新聞関係の取材は、自分的にはボランティアというか公益のためというか社会が良くなるために少しでもお手伝いできればという気持ちでやっていますが、結構いろいろありますよね。