ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

マイナ保険証・マイナンバーカードの件で読売新聞社説が謎

読売新聞24/9/26社説「マイナ保険証 国民の不安は払拭できたのか」を読んでの感想。

www.yomiuri.co.jp

 

そもそもマイナカードの交付が始まった2016年当時、政府は、個人情報の 漏洩 ろうえい を避けるため外出時にはカードを携帯しないよう呼びかけていた。だが今は、情報漏洩の心配はないとして常時、持ち歩くよう求めている。

こういうことを言う人はよく見かけるのだが、ソースはあるのだろうか。読売新聞の社説が書いているのだから、「政府がカードを携帯しないよう呼びかけた」というのには、ちゃんとソースがあるのだろうと思う。

ただ、私は2011年から2014年まで国にいてマイナンバー法の立法担当官をやっていたが、マイナンバーカードを携帯するなと呼びかけるべきと思ったことは一度もないし、私が在籍していた当時の国は、そんなこと言っている人はいなかったと思う。2016年の国には、そんな頓珍漢なことをいう人がいたのだろうか。謎である。

現に、私は、マイナンバーカードをもらったときから、毎日お財布にいれて持ち歩いている。

なぜ携帯してはいけないのか。どういうリスクを踏まえて、携帯してはいけないとなるのか。

携帯する必要性がなければ、もちろん携帯する必要はない。だって使わない物を持ち歩く必要はないし、身分証を落としたら悪用されるリスクはある。それはマイナンバーカードに限らず、運転免許証でも保険証でも学生証でも同様。顔写真付き公的身分証は、悪用価値が高いので、携帯する必要がないのであれば携帯しない方が良い。でも、運転免許証は運転時には必要だし、身分証明書として便利だから、多くの人が持ち歩いている。リスクと携帯メリットとの見合いではないのか。

マイナンバーカードの場合は免許証と違い、裏にマイナンバーが書いてあるが、この点のリスクについてはすでに何度もブログや様々な媒体で書いているので割愛する。

なぜ携帯してはいけないのか。個人情報の漏えいって、そりゃカードに文字で書いてある内容はカードを落としたら漏えいするけど、読売新聞が言っているのは、マイナンバーをキーにして、様々な個人情報が抜き取られる的な話ではないのか? そうであれば、社説を書くに当たり、もう少し取材が必要であろう*1

 

そしてマイナ保険証の件。何度もいろんなところで書いたり言ったりしているが、私としては、マイナ保険証のトラブルがきちんと解消されない限り、マイナ保険証への移行はすべきでないと考えている。なぜなら、保険資格確認のために保険証を提示するわけだが、マイナ保険証では、その保険資格確認がうまくいかない場合があるわけで、役割を果たせない状況と考えるからである。

また、トラブルが完全に解決できたとしても、マイナンバーカードを保険証にすることの意義にはやや懐疑的である。ただ、その理由は漏えいを危険視するからではない。マイナンバーカードやデジタル化は、紙を置き換えるだけではうまくいかない。紙をデジタルに置き換えただけでは、たいして効果が出ない。デジタルだからこそできることを追求していくべきだし、今の社会課題を解決するためにデジタルを使うべきと考えるからである。その意味で、マイナンバーカードの効果は、①なりすまし防止、②デジタル上での強い意思表示(契約や同意等)や、③タッチキー(タッチパネルでIDを入力したりするのをカードタッチで省力化できるという意味でここでは書いている)等であると考えるところ、マイナ保険証はただ単に紙の保険証をデジタルに置き換えるものであり、コストとの見合いであまり有用ではないと考える(マイナ保険証は医療DXに役立つという話を言う人はいるが、マイナ保険証じゃなくてよく紙の保険証でも実現できたこと。マイナ保険証よりも本来は紐づけ識別子の整備や法整備・システム整備の方が医療DXには重要と考える)。

 

念のため、私の思う私の立ち位置を説明しておく。

私は個人情報保護が大好きで、その経緯でマイナンバーに携わるようになった。毎日個人情報保護の事を考えていて、それを仕事にしているような変わった人間である。個人情報を軽視していたり、国の権力を強化するために個人情報をできるだけ国に集めさせようとしているといった思考パターンはない。なぜなら、私は個人として個人情報保護がとても好きだからだ。

マイナンバーに携わるようになってからも、担当はマイナンバーに対する保護である。本来、私の役割は、マイナンバー法の保護措置について解説して、今は保護措置が弱いからもっと強くすべきなどと言う役割だと私としては思っている。だって個人情報保護の立ち位置なんで。

でもなぜか、そういう話の前に、マイナンバーやマイナンバーカードや制度に対する解説が必要になってしまい、上記のような話をしているに過ぎない。上記のような話をすると、マイナンバー反対派と思われたり、個人情報のリスクを全無視している人と思われることがあるのだが、私はマイナンバーが個人情報を保護しながら社会の役に立てることを目指しており、軸足は社会の役に立つことよりも個人情報保護なのである。

マイナンバー賛成派・推進派と言われたり反対派と言われたり、もはやよくわからないが、私は個人情報保護が好きだということだけは、言っておきたい。

 

過去に書いた記事など

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cyberlawissues.hatenablog.com

*1:なお、本件社説ではなく、前に別の社説を書く人から取材を受けたことがあるが、社説を書く方は、一般的な新聞記者とはルートが違うのか、いろいろと取材してからの執筆ではなさそうな印象を受けたことはある。ただの私の印象で、実際はよくわからないので何とも言えないが