ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

濃厚接触者アプリ

www3.nhk.or.jp

 

wired.jp

 

AppleGoogleの件は、位置情報じゃなくて、Bluetooth方式とのこと。

 

個人情報保護の世界では「同意」を取る方式が良い方式と一般に言われる。

ただ、上のニュースのような使い方だと、必ずしも「同意」形式が良いとも限らないかなと、ちょっと思いました。

 

今回の場合、Wiredの記事だと「濃厚接触の可能性があるとアプリが判断し、そのユーザーに対して感染拡大を防ぐためのアドヴァイスを表示」とありますが、「濃厚接触の可能性があります」とアプリに言われたとしても、不安がとても強くなるのに、解決方法があまりない危惧が。検査も受けられないで自宅待機しているだけだとすると、アプリで濃厚接触の可能性を指摘してもらっても、じゃあどうすればいいのか!と思って、かえって不安になって、つらい気もします。「アプリが濃厚接触の可能性というので、私は出社しません」って会社に言っても、それを受け入れてもらえるかも、今の実態としては会社によるわけですし。アプリがアドバイスを表示した後のアクションも考えないと、なかなかつらい気が。私の場合は、そういう風に思います。

あとは、Wiredの記事に「ユーザーが新型コロナウイルスに感染していると診断されたら、アプリの画面をタップしてその事実を申告する」とありますが、これも真実かどうかが不明な場合もあり得ると思います。誤タップもありますし、中には意図的に、本当は感染していないのに感染しているとする方もいる可能性も否定しきれないかと。

 

完全に「同意」を取って使いたい人だけ使うとすると、個人情報保護としては良いと一般論としては言われますが、今回の場合は、濃厚接触者の情報を記録しておいて、医療機関が感染していると判断したら、保健所の方が濃厚接触者の検討の際に使うみたいにする方が、「感染しているかどうか」が間違う可能性はかなり低く抑えられ、かつ濃厚接触者に当たれば保健所が検査をしてくれるっていうのであれば、濃厚接触者ですよと言われた方も、検査してもらって、次の行動につながるので、こっちの方式の方が良いような気も。NHKニュースの方では、シンガポールはそういうような感じというような書きぶりになっていますね。

もしその方式を取るとした場合は、法的には以下の論点/構成がありうるかな、と。

  • 濃厚接触記録アプリのダウンロードは義務化OR任意?
    義務化するなら法律改正? 任意なら普及率はどの程度向上できるのか? もっとも義務化したとしても、普及率の問題は別途あるし、現実問題スマホがないと無理だろうし
  • 保健所が濃厚接触記録アプリの履歴を利用することの法的根拠
    同意構成か、個人情報保護法23条1項1~4号のどれかの構成か(アプリの利用規約で同意を取得する?そうすると同意構成に。アプリの利用規約で同意を取得しないと、同意取得困難要件を満たせるのかどうか、まあ満たせなくないわけではないが、論点にはなるか)
  • アプリの開発者・広告収入などの問題
    民間がアプリを開発し、国・自治体が濃厚接触履歴を見られるとした場合で、その民間がアプリの広告収入をもし得てしまうと、国民の理解を得られないのでは。あとは取得データを民間や国・自治体が別目的に利用したりしない旨の規約・説明が必要。

 

あと、感染経路を保健所が調べられないみたいなニュースがありましたけど、これ、特措法に報告徴収義務がないんでしょうか?? 立入検査も72条1・2項だけ??