ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

ベネッセ途中経過まとめ

ベネッセ事件判決が出たとのことで、現状の把握のためのメモ。
金田先生にも電話してしまった。お忙しいところありがとうございました。

事実関係

  • 子の氏名,性別,生年月日,郵便番号,住所及び電話番号並びに子の保護者としての氏名といった個人情報が、遅くとも平成26年6月下旬頃までに外部に漏えいした
  • 本件漏えいは,被上告人のシステムの開発,運用を行っていた会社の業務委託先の従業員であった者が,被上告人のデータベースから被上告人の顧客等に係る大量の個人情報を不正に持ち出したことによって生じたものであり,上記の者は,持ち出したこれらの個人情報の全部又は一部を複数の名簿業者に売却した。

弁護団等の経緯→Niben Frontier2018年4月号金田万作「個人情報漏えい事件 最高裁判決」に詳しい

  • 合計約2989万件の顧客情報流出
  • 弁護団事件と個人事件と別の弁護士事件(完全報酬型)がある。個人事件は控訴審(大阪高裁)まで個人事件だったが、上告審から弁護団が受任。弁護団事件の原告は約1400人。後者の弁護士事件の方は約10000人。
  • 被害者の会HPはここ

過失等

  • 企業側からの公表資料、経済産業省の報告資料の情報公開請求、情報流出者の刑事事件記録等をもとに事実関係を弁護団として確認したそう
  • 弁護団事件では、弁護士費用を含めて成人5万円、未成年者10万円の損害額を主張
  • 過失は認定された

損害等

  • 阪高平成28年6月29日「自己の氏名、郵便番号、住所、電話番号及びその家族である者の氏名、性別、生年月日が名簿業者に売却されて漏えいすると、通常人の一般的な感覚に照らして、不快感のみならず、不安を抱くことがあるものと認められる。しかし、そのような不快感や不安を抱いただけでは、これを被侵害利益として、直ちに損害賠償を求めることはできないと解するのは相当である。本件においては、本件漏えいによって、控訴人が迷惑行為を受けているとか、財産的な被害を被ったなど、上記の不快感や不安を超える損害を被ったことについて主張、立証はない。したがって、控訴人が被控訴人に対して損害賠償を求めることはできないというべきである。」
    • 個人事件
  • 最小判平成29年10月23日「本件個人情報は,上告人のプライバシーに係る情報として法的保護の対象となるというべきであるところ(最高裁平成14年(受)第1656号同15年9月12日第二小法廷判決・民集57巻8号973頁参照),上記事実関係によれば,本件漏えいによって,上告人は,そのプライバシーを侵害されたといえる。しかるに,原審は,上記のプライバシーの侵害による上告人の精神的損害の有無及びその程度等について十分に審理することなく,不快感等を超える損害の発生についての主張,立証がされていないということのみから直ちに上告人の請求を棄却すべきものとしたものである。そうすると,原審の判断には,不法行為における損害に関する法令の解釈適用を誤った結果,上記の点について審理を尽くさなかった違法があるといわざるを得ない」
    • 個人事件を上告審から弁護団が受任した事件
  • 東京地判平成30年6月20日 ベネッセや関連会社が十分な対策や監督を怠ったとして注意義務違反を認定。一方で、氏名や住所などの情報が「思想信条や性的指向などの情報に比べ、他者にみだりに開示されたくない私的領域の情報という性格は低い」と判断した。原告側に実害が生じていないとしたうえで、ベネッセがおわびの文書と500円相当の金券を配布したことなども考慮し、原告側が求めた1人当たり3万〜10万円の損害賠償は認めなかった。←日経平成30年6月20日記事より
    • 最高裁の原審たる大阪高裁では、損害の有無すらほとんど審理していなかったので、この東京地裁最高裁の判断には従っているという評価もできるようだ。

ベネッセ事件以外の裁判例

  • 江沢民事件(最高裁差戻審、東京高判平成16年3月23日)→一人5000円
    • 早稲田大学は、学生に対する教育活動の一環として、かねてより諸外国の要人が来日した際に、大学に招へいし、講演会を開催してきたところ、平成10年11月28日に大隈講堂において中国の江沢民国家主席(以下「江主席」という。)による講演会(以下「本件講演会」という。)を開催することを計画し、大学の学生に対し参加を募り、参加希望の学生に対し、被控訴人大学の用意した参加者名簿(以下「本件名簿」という。)に氏名、学籍番号、住所及び電話番号を記載させた。控訴人らは、当時被控訴人大学の学生であったが、本件講演会への参加を申し込み、本件名簿にその氏名等を記載した。被控訴人大学は、本件講演会の開催前に、本件講演会の警備に当たる警視庁の警備活動に協力するため、控訴人らの同意を得ることなく、本件名簿を警視庁に提出した。そして、控訴人らは、本件講演会に参加した際に、建造物侵入及び威力業務妨害の嫌疑により警備に当たっていた警視庁の警察官に現行犯逮捕され、その後本件講演会を妨害したことを理由に、被控訴人大学からそれぞれ譴責処分に付された。
  • 宇治市住民基本台帳事件(大阪高判平成13年12月25日、最高決平成14年7月11日で上告不受理)→一人10000円
    • 控訴人がその管理に係る住民基本台帳のデータを使用して乳幼児検診システムを開発することを企図し、その開発業務を民間業者に委託したところ、再々委託先のアルバイトの従業員が上記データを不正にコピーしてこれを名簿販売業者に販売し、同業者が更に上記データを他に販売するなどしたことに関して、控訴人の住民である被控訴人らが、上記データの流出により精神的苦痛を被ったと主張して、控訴人に対し、国家賠償法1条又は民法715条(使用者責任)に基づき、損害賠償金(慰謝料及び弁護士費用)の支払を求めた事案
    • 住民記録が18万5800件,外国人登録関係が3297件,法人関係が2万8520件の,合計21万7617件の情報であり,住民に関しては,個人連番の住民番号,住所,氏名,性別,生年月日,転入日,転出先,世帯主名,世帯主との続柄等の個人情報の記録。「宇治市住民票」21万7617件,「大家族(6人以上)」1870件,「1人暮らし(独身者)」1万4478件の各名簿を分類・作成した。そして,平成11年2月24日,兵庫県内にある結婚相談業者E社に対し,「宇治市住民票」21万7608件のデータを,平成10年12月21日,京都府内にある婚礼衣装業者F社に対し,女性成人式適齢期の該当者1324件のデータをそれぞれ販売したほか,平成11年5月20日,名簿販売業者であるデータネット(元D社の従業員であった者の個人企業)を代理店として,Cという者に対し,宇治市宇a地区251名分(被控訴人らは含まれていない。)のデータを販売した。
    • 控訴人らが具体的に何らかの被害を被ったことは,主張立証されていない。 しかしながら,前記のとおり,被控訴人らのプライバシーに属する本件データにつきインターネット上で購入を勧誘する広告が掲載されたということ自体でも,それによって不特定の者にいつ購入されていかなる目的でそれが利用されるか分からないという不安感を被控訴人らに生じさせたことは疑いないところであり,プライバシーの権利が法的に強く保護されなければならないものであることにもかんがみると,これによって被控訴人らが慰謝料をもって慰謝すべき精神的苦痛を受けたというべきである。 イ そして,本件において,被控訴人らのプライバシーの権利が侵害された程度・結果は,それほど大きいものとは認められないこと,控訴人が本件データの回収等に努め,また市民に対する説明を行い,今後の防止策を講じたことを含め,本件に現れた一切の事情を考慮すると,被控訴人らの慰謝料としては,1人当たり1万円と認めるのが相当である。弁護士費用は1人5000円。
  • Yahoo!BB事件(大阪地裁平成18年5月19日、大阪高判平成19年6月21日)→一審一人当たり6000円(慰謝料5000円,弁護士費用1000円)
    • 控訴審では、郵便為替支払通知書を受領したことにより、損害賠償の一部弁済がなされたといえるとして、原判決を変更し、第1審原告ら各自につき、5500円を認容
  • TBC事件(東京地判平成19年2月8日、控訴審東京高判平成19年 8月28日)→1人3万円(2次流出あるいは2次被害の主張立証がなく,本件流出事故に関してYから既に3000円の支払を受けた者については1万7000円)
    • 氏名,年齢,住所,電話番号等の個人情報(以下「本件情報」という。)を,インターネット上において第三者による閲覧が可能な状態に置いたところ,実際に第三者がこれを閲覧して個人情報を流出させた