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弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

【個人情報Q&A】弁護士会や日弁連は研究機関に当たるのでしょうか

弁護士会日弁連の活動として、判決書などの個人情報(要配慮個人情報の場合も)を取得して、弁護活動や法令等について研究することがあります。個人情報保護法の適用除外機関である研究機関に該当するのでしょうか。

当たると考えられます。

個人情報保護法76条では、憲法上の他の人権等への配慮から、一定の適用除外を設けています。

個人情報取扱事業者等のうち次の各号に掲げる者については、その個人情報等を取り扱う目的の全部又は一部がそれぞれ当該各号に規定する目的であるときは、第四章の規定は、適用しない。
一 放送機関、新聞社、通信社その他の報道機関(報道を業として行う個人を含む。) 報道の用に供する目的
二 著述を業として行う者 著述の用に供する目的
三 大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者 学術研究の用に供する目的
(略)

この研究機関は大学に限定されるものではありません。公的機関に限定されるものではなく、民間団体による研究機関であっても、これに当たります。また、研究目的とそれ以外が併存している組織であっても、主目的が学術研究であれば、これに当たります(ガイドライン通則編84ページ)。

弁護士の使命・職務や弁護士会日弁連については、弁護士法に定めがあります。
弁護士の使命は「基本的人権を擁護し、社会正義を実現すること」(弁護士法1条1項)であり、そのために弁護士は「常に、深い教養の保持と高い品性の陶やヽに努め、法令及び法律事務に精通」しなければなりません(弁護士法2条)。
弁護士会(単位会)及び日弁連は、「弁護士及び弁護士法人の使命及び職務にかんがみ、その品位を保持し、弁護士及び弁護士法人の事務の改善進歩を図るため、弁護士、弁護士法人及び弁護士会の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的」とした組織です(弁護士法31条、45条1項)。つまり、弁護士が使命に基づく職務を行うためには、基本的人権擁護・社会正義実現のための弁護活動や法令への精通・法改正の提言等を行うことになり、そのためにはやみくもに自分の主張だけを述べるのではなくて、研究・技能向上等を図っていく必要があります。これらをサポートするのが弁護士会日弁連であるといえ、これらの組織は、個人情報保護法76条1項3号にいう研究機関に当たり、それに所属する弁護士も、個人情報保護法76条1項3号にいう研究機関に属する者に当たるといえるでしょう。

なお、研究機関の適用除外となった場合でも、、安全管理措置、苦情処理等、個人情報等の適正な取扱いを確保するために必要な措置を自ら講じ、かつ、当該措置の内容を公表するよう努めることが求められます(個人情報保護法76条3項)。
また、研究以外の目的で、例えば日弁連が人事目的で個人情報を取り扱う際は、適用除外とはならず、個人情報保護法第4章の義務に服することになります。

弁護士法
(目的及び法人格)
第三十一条 弁護士会は、弁護士及び弁護士法人の使命及び職務にかんがみ、その品位を保持し、弁護士及び弁護士法人の事務の改善進歩を図るため、弁護士及び弁護士法人の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とする。
(設立、目的及び法人格)
第四十五条 全国の弁護士会は、日本弁護士連合会を設立しなければならない。
2 日本弁護士連合会は、弁護士及び弁護士法人の使命及び職務にかんがみ、その品位を保持し、弁護士及び弁護士法人の事務の改善進歩を図るため、弁護士、弁護士法人及び弁護士会の指導、連絡及び監督に関する事務を行うことを目的とする。
(弁護士の使命)
第一条 弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。
2 弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。
(弁護士の職責の根本基準)
第二条 弁護士は、常に、深い教養の保持と高い品性の陶やヽに努め、法令及び法律事務に精通しなければならない。
(弁護士の職務)
第三条 弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によつて、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とする。
2 弁護士は、当然、弁理士及び税理士の事務を行うことができる。