日経の記事で、「フリーランスに最低報酬 政府検討、多様な働き方促す」というのを読みました。
「フリーランスに法的保護を」というのは、理念としてはとても正しいと思います。
しかし、その「法的保護」の内容をどうするかが、最重要です。
「法的保護」として、記事では、以下が記載されていました。
仕事を発注する企業側との契約内容を明確にし、報酬に関しては業務ごとに最低額を設ける方向だ。
業務ごとの最低報酬を設けるといっても、業務があまりに多岐に渡っていて、現実的でありません。
たとえば、プログラマだったらどうするのか、テスターだったらどうするのか。プログラムの内容などによるので、一律に決めることは難しいでしょう。さらに、職種も様々です。これらすべての最低報酬を決めることは、難しいのではないでしょうか。
最低賃金を参考に、「最低賃金×予想作業時間」を最低報酬として定めることも考えられます。しかしそうすると、総額ありきで、「予想作業時間」を通常よりも半分にしろ、とか、10分の1にしろ、とかの要求も増えてしまいそうです。
フリーランスにとって、どのような問題が起こっていて(問題の内容、深刻さ、発生頻度)、それに対してどのような解決策が考えられるのかを、丁寧に議論する必要があるように思いました。
よくある問題としては、こんな感じでしょうか
- 契約書を交わしていなくて、口頭契約なので、仕事内容が明確化せず膨らむ、支払日が明確化しない、支払金額すら明確化していないことがある
- 顧客を獲得する営業力が大きな企業に比べてマンパワー・広告宣伝費等の観点から弱めであるため、顧客開拓に困難を生じる可能性がある。その意味で、既存顧客が大事にされがちで、顧客とフリーランスとの力関係でいうと、フリーランスの方が弱い立場にあることもある(ただし、そのフリーランスの人の置かれた状況による)
- 買いたたかれることがある
- 継続的取引ではない場合、クレーマー的な顧客に当たった際に、大企業であれば複数人で対応するなどして対応者のメンタルケアができるが、フリーランスだと人手が少なく、対応者の心理的負荷が高い
弁護士も自営の場合はフリーランスだといえると思います*1。
私は、会社員→大学院生→国家公務員(司法研修所修習生)→勤務弁護士→国家公務員(内閣官房、委員会)→自営という経歴をたどってきましたが、とりあえずいえることは、自営業は私にはとってもあっています。会社員の時から自営業が自分には向いているように思い、自営業になろうと思って弁護士になりましたが、当初は勤務弁護士を選択。結局、民間企業、法律事務所、行政機関に勤めた経験があります。
フリーランスの良いところは、なんといっても自由!
私は「自分の思うように仕事がしたい!」という思いがとても強くて、その思いが自営だと満たされるので幸せを感じています。
組織人だと、自分がすごく一生懸命やりたいなと思う仕事でも、「そんな時間かけるな」と言われたりすることがあります。組織としては、そういう管理も必要なのかもしれません。しかし私は、「ものすごい情熱をかけて、ものすごい思いをかけて、一生懸命取り組みたい」という思いが強かったりします。自営ですと、〆切に間に合って、かつクライアントの要望に合致していれば、いくら時間をかけようが、コストをかけようが、私の自由です。土日働こうが何しようが、人の自由なわけです。
あとは組織だと、内部の不文律やボスの意向などがあり、自由に論文執筆や講演や書籍出版などができなかったりします。何も組織を批判する内容を書くわけでも当然ありませんし、法律書のような固い内容のものでも、組織としてNGが出ることは多々あります。
あとは、どのような仕事をするか、すら、自営だと全部自分で決められます。やりたくない仕事は断ることができます。これは本当に最大級のメリット。たぶんフリーランスの人の多くは、やりたくない仕事や筋悪の仕事を断っているはずです。そして、経験を積んでいくうちに、断る仕事の見極め方を磨いているのではないかと思います。「こういうことを言ってくる客は、報酬を支払わない可能性がある」とか「こういう客は、仕事内容をどんどん膨らませるので注意すべき」とか。それはもう、経験がモノをいう部分もあり、法律やガイドラインなどで一律に最低報酬や契約内容等を決めればいいというものではないようにも感じます。
フリーランスだと、時間の融通もこちらの自由。こうやって、平日の日中にブログも書けます。〆切が迫っているといっぱい働かなくてはいけませんが、仕事が少ない時なら、平日も比較的自由です。打合せの帰りに少し買い物したりお茶飲んだりすることもできます。前に公務員だった時は、長時間の講演でお茶がなかったり立ちっぱなしだったりした後、どんなに喉が渇いていても足が疲れていても、職場に戻ってから、職場の椅子に座りお茶を飲んでいましたが、今は別に講演の後に、喫茶店に入れますから楽ちんです。
交通手段もこちらの自由。どういう移動経路をたどろうが、どういう交通手段を選ぼうが自由。
あとは、私は性格上、非効率な待機が大嫌いなのですが、組織人だと待機しないといけない場合があります。やるべき仕事は特にないけど、深夜居残って待機しないといけないとかですね。組織って、こういう「待機残業」「付き合い残業」がかなり多いように思うのですが、どうなのでしょうか。私はこういうのが本当に苦手だったので、やるべき仕事がないのに夜間待機とかがなくなって、本当に幸せに思っています。
本当に自由ですばらしい。
独立する前は、「組織だからこそできる仕事が結構あって、個人だとやりたいような仕事の依頼は来ないのではないか」とずっと思っていましたが、意外とそんなこともなく。これは本当に幸運だと思いますが、意外と独立してからの方が、自分のやりたい仕事を頂くことが多いように思います。方向性が明確になるからでしょうか。なぜかわかりませんが。
フリーランスの悪いところは、頼れる人があまりいないところと経営が不安定な点かな、と思います。
プリンタの調子が悪い、PCの調子が悪い、メールや名刺が探せない、引っ越しの物件探し、といったことを「これって、どうすればいいですか?」と聞ける相手があまりいない。同僚がいるとね、どんなことでも、大体同僚の人に相談できますけど、フリーランスだと、周りに人が少なめ。
独立したてなんて、PCや机、文房具、事務所物件、ネット回線、電話番号すら自分で全部用意しないといけないわけで。これを用意するのは結構な労力のように思います。組織人だと組織が用意してくれますからね。まあ私の場合は、宮内さんと、あとはいっしょにやっている会社の人が全部やってくれていたので、本当にありがたかったです。ちなみにいまだに事務所に私用のはさみ買ってなくて、いつも宮内さんの机の上から勝手にはさみ借りてます(笑)ホッチキスもそう。通常業務をやりながら、こういうことを一から全部自分でやるって、結構大変に思います。
あとは経営が不安定。私の場合は、なぜか独立してから毎年大体収入が一緒ですが。なぜなのだろうか。ある程度の貯金をもって自営を始めないと、精神衛生に悪いことも考えられますね。
話を最低報酬の話に戻すと、弁護士業界特有かもしれませんが、フリーランスも業界によっては、商慣習として、報酬をあまり明らかにしないというところがあるように思います。
個人向けのお仕事をしている弁護士は弁護士報酬を明らかにしているかと思いますが、企業向けの弁護士は、Webサイトからとかだと、報酬体系が不明のところも多い(うちもそうか)。さらにいうと、お客さんの方も、金額を示さずに、ご依頼されることがあるのです。私は初めてのお客様には、まず報酬体系をご説明してから依頼を受けることにしているのですが、初めてのお客様でもお客様によっては、最初に具体的な相談内容や資料を送ってきて、で、打ち合わせの場(初見)で回答してくださいって方もいらっしゃるのですが、「報酬はいくらでも問いません」みたいなお客様も中にはいらっしゃいます。これはおそらく、いまだに一定の割合の弁護士が、企業のお客様に、報酬体系を明らかにせず、仕事が終わった後に請求書を送り付ける運用をやっているためではないかと思われなくもありません。当たり前ですが、報酬は明らかにしないといけないように思いますね。
あと、執筆・講演も報酬を明らかにしないことが多いです。謝金を払うかを明らかにしない講演依頼は多いです。しかし、謝金・交通費が支払われないとなると、それはボランティアですから、もしボランティアならば、社会的意義があるもの以外はこちらも受けたくありません。講演主催者・出版社は、場合によっては、すごく悪質な業者もいます。講演聴講者からは会費3万とかとって、それも100人以上のお客さんが入っている会場で、講演をする人には謝金ゼロという講演主催者もいます。執筆も、業界的には大体相場があって、法律雑誌なら大体いくら、法律図書の出版なら印税率〇%とかって、大体ありますが、相場の半分以下の出版社もあります。半分以下ならまだいいですが、未払いする出版社もいます。印税を1年以上払ってもらえなかったので、こちらから言ったら、「細かいですね!」みたいに言われ、その出版社、また別の印税も1年以上払ってくれませんが、端数なので、もう請求もせずに諦めようかと思ったり、「いや、そんな悪質な出版社は許せないので、暇なときに少額訴訟をしてやるぞ」と思ったり、気持ちがいろいろ変わります(笑)
あとあれですね、弁護士事務所って、弁護士を雇うときに、給料を明らかにしないところが多いです。内定して、入社しても、まだ給料を教えてくれません。最初の給料が出るタイミングで初めて給料額がわかるというところも多いです。まあ、任期付き公務員もそうですが。
外資系の事務所で、内定が出たタイミングで年俸を提示してくれたところがありましたが、基本的には給料額を明らかにしない法律事務所が多いように思います。新人弁護士が就職する際に、この慣習はよくないと思います。
とまあ、つれづれと書きましたが、いろいろと業界ごとに慣習があって、フリーランスといっても、なかなかひとくくりにして何か法律を、というのは難しいのではないかと思いました。
最後に、日経の元ネタがわかりませんでした。新聞も文字数に制限がないWeb版なら、関連会議や文書へのリンク等を貼っておいてほしいなあと思います。労働政策審議会辺りかと思いましたが、見当たらず。経産省の「雇用関係によらない働き方」に関する研究会というのは、発見できましたが、これは日経記事の元ネタではないはず。
*1:自営のほかに勤務弁護士(イソ弁、アソシエイト)、給与所得者(会社、役所勤めなど)などがいる