ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

捜査関係事項照会に基づく個人情報の提供

 

個人情報保護法上、個人データを外部提供できる場合は限定されています。例えば、事業者が顧客データを持っています、この顧客データを外部提供することができる場合は、個人情報保護法上限られた場合になっています。

では、警察から顧客データの提供を求められた場合はどうでしょうか。

 

1.問題の所在(照会される民間事業者にとって非常に悩ましい状況)

(1)回答してよいか悩む

令状で個人データ提供を事業者が求められた場合は、令状がありますので、事業者としても警察や裁判所に協力することは義務ですので、対応に悩む必要はあまりありません。また、口頭で警察官から求められた場合は、警察組織としての正式な依頼かどうかが不明ですし、本当の警察官かどうかすら不明ですから、事業者としても悩む必要はなく、断ることが考えられます。事業者にとって悩ましいのは、捜査関係事項照会書に基づく個人データの提供依頼でしょう。

 

警察としても令状請求するのは負荷が高いようで、捜査関係事項照会で、情報提供を依頼することがあります。捜査関係事項照会は任意捜査ですがこれを受けた事業者側には回答義務が生じるとされています。とはいえ、事業者には顧客データを守る義務もあります。事業者にとって非常に悩ましい状況になります。

 

警察も犯罪捜査するのに情報が必要なわけで、その警察に協力しなければもしかすると重大犯罪が起こってしまう危険性がありますし、犯罪捜査が進まなくなる可能性もあります。自力救済が否定されている近代市民社会にとって、警察捜査に協力することは、市民社会維持にとっても非常に重要です。警察捜査が難航すると、犯人の逃げ得となる可能性もあります*1。とはいえ、令状主義が原則であり、民間事業者には大事な顧客情報を守る義務もあり、民間事業者にとっては非常に悩ましい状況に置かれます。警察による捜査関係事項照会にせよ弁護士会照会にせよ、照会される側が慎重に検討して、回答すべきか否かを考えるというよりは、警察なり弁護士会なりできちんと審査を適正化して、その要請さえあれば照会される側はほぼ無条件に出してよい、というようなスキームでないと、なかなか事業者側にとっては難しい状況のようにも思いますが、そうはいっても、早急にスキームが変わるということもないので、民間事業者としては、顧客を守り、市民社会の義務も果たし、必要な検討を行っていく必要があります。

なお、本ブログは警察による捜査関係事項照会ですが、それ以外でも、顧客情報を当局に提供してよいか、提供する側の負荷問題については、国税地方税当局・生活保護当局等からの財産調査などに応じる民間事業者側の話もあり、このあたり全体を、DXして負荷は下げるも、透明性を高めて、第三者監査を入れていき、みたいな話を本来はやるべきではないかと思います。

 

(2)CCC

なお、CCCが令状なしで警察に会員情報を提供していたとして、2019年ごろ報道が多数なされました。これを受けCCCでは「捜査機関からの情報提供の要請に対する基本方針」を公表、透明性レポートも公表しており、かなり詳しい情報公開を行っています。

www.ccc.co.jp

 

2.個人情報保護法上は問題ない

(1)考え方

「警察に令状なしに顧客データを提供」というと、個人情報保護法上大問題があるように感じる方もいらっしゃるのですが、個人情報保護法は元々は緩い法律であって、2017年改正ぐらいからとても厳しくなってきたにすぎないため、個人情報保護法単体で考えると、この論点は特に問題にならないのです。

 

捜査関係事項照会に応じて個人データを提供することは、本人同意なく、個人情報保護法上可能です。

 

(2)個人情報保護委員会資料

個人情報保護委員会はお役所ですから、同じお役所である警察に親切なのか(?)、以下のように、警察提供は令状に基づかなくても全く問題ないというような書きぶりですね。

個人情報保護法ガイドライン通則編

https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/#a3-1-5

法令に基づく場合は、法第18条第1項又は第2項の適用を受けず、あらかじめ本人の同意を得ることなく、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱うことができる
  • 事例1)警察の捜査関係事項照会に対応する場合刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第197条第2項)
  • 事例2)裁判官の発する令状に基づく捜査に対応する場合(刑事訴訟法218条)
  • 三者提供制限の例外に関する解説には記載がないものの、同一文言にかかる解説のため、目的外提供制限の例外に関する解説を抜粋
個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」 に関するQ&A 

https://www.ppc.go.jp/files/pdf/2403_APPI_QA.pdf

(第三者提供の制限の原則)Q7-17 刑事訴訟法第 197 条第2項に基づき、警察から顧客に関する情報について照会があった場合、顧客本人の同意を得ずに回答してもよいですか。同法第507条に基づき、検察官から裁判の執行に関する照会があった場合はどうですか。A7-17 警察や検察等の捜査機関からの照会(刑事訴訟法第197条第2項)や、検察官及び裁判官等からの裁判の執行に関する照会(同法第507条)に対する回答は、「法令に基づく場合」(法第27条第1項第1号)に該当するため、これらの照会に応じて個人情報を提供する際に本人の同意を得る必要はありません。要配慮個人情報を提供する際も同様です。 なお、これらの照会は、いずれも、捜査や裁判の執行に必要な場合に行われるもので、相手方に回答すべき義務を課すものと解されており、また、上記照会により求められた顧客情報を本人の同意なく回答することが民法上の不法行為を構成することは、通常考えにくいため、これらの照会には、一般に回答をすべきであると考えられます。ただし、本人との間の争いを防止するために、照会に応じ警察等に対し顧客情報を提供する場合には、当該情報提供を求めた捜査官等の役職、氏名を確認するとともに、その求めに応じ提供したことを後日説明できるようにしておくことが必要と考えられます。 

3.他法上の守秘義務プライバシー権保護の観点から問題に

問題になるのは個人情報保護法ではなく、他の法律上守秘義務を負っている場合です。また他の法律上守秘義務を負っていなくても、プライバシー権保護の観点からも問題になります。一般市民感情として「令状なしで顧客情報を提供してよいの???」と思うというのは、結局のところプライバシー権保護なのだと思います。個人情報保護法は、しつこいですが、元々は緩い法律ですので。「大事な私の個人情報を事業者に預けているのだから大切に扱ってほしい」という気持ちに対応するのはプライバシー権保護であって、現行の個人情報保護法では、公権力に対する情報提供はある意味幅広に行えるようになっているので、本論点についても警察提供可能という風になってしまうのだと思います。

 

(1)電気通信事業法上の通信の秘密の保護

他法で非常に強い保護がかかっているものの代表例が「通信の秘密」でしょう。とはいえ、闇バイトとかアポ電強盗とかSNSを通じた詐欺とかだと、通信事業者の協力がなければ、犯人がどこのだれかすらわからないことがあり、捜査側からすると非常に欲しい情報でしょう。

民間事業者(キャリア)からすると、大事な通信の秘密を預かっているのに、警察に容易に提供するわけにもいかず、緊張感が生じるところかと思います。

 

で、やっぱり総務省ガイドラインだと、非常に厳しい記載になっていて、通信の秘密以外であれば捜査関係事項照会でも提供可能ですが、通信の秘密については令状なしで提供すべきでないという結論になっています。かつ令状がある場合でも、提供する情報は必要最小限にするようにという記載すらあります。厳格な対応になっています。

 

電気通信事業における個人情報等の保護に関するガイドラインhttps://www.ppc.go.jp/files/pdf/240312_telecom_GL.pdf

(通信履歴)

第三十八条 電気通信事業者は、通信履歴(利用者が電気通信を利用した日時、当該電気通信の相手方その他の利用者の電気通信に係る情報であって当該電気通信の内容以外のものをいう。以下同じ。)については、課金、料金請求、苦情対応、不正利用の防止その他の業務の遂行上必要な場合に限り、記録することができる。

電気通信事業者は、利用者の同意がある場合、裁判官の発付した令状に従う場合、正当防衛又は緊急避難に該当する場合その他の違法性阻却事由がある場合を除いては、通信履歴を他人に提供してはならない。 

(発信者情報)

第四十条 電気通信事業者は、発信者情報通知サービス(発信電話番号、発信者の位置を示す情報等発信者に関する情報(以下「発信者情報」という。)を受信者に通知する電話サービスをいう。以下同じ。)を提供する場合には、通信ごとに、発信者情報の通知を阻止する機能を設けなくてはならない。

電気通信事業者は、発信者情報通知サービスを提供する場合には、利用者の権利の確保のため必要な措置を講じなくてはならない。

電気通信事業者は、発信者情報通知サービスその他のサービスの提供に必要な場合を除いては、発信者情報を他人に提供してはならない。ただし、利用者の同意がある場合、裁判官の発付した令状に従う場合、電話を利用して脅迫の罪を現に犯している者がある場合において被害者及び捜査機関からの要請により逆探知を行うとき、人の生命、身体等に差し迫った危険がある旨の緊急通報がある場合において当該通報先からの要請により逆探知を行うときその他の違法性阻却事由がある場合は、この限りでない。 

(位置情報)

第四十一条 電気通信事業者は、あらかじめ利用者の同意を得ている場合、電気通信役務の提供に係る正当業務行為その他の違法性阻却事由がある場合に限り、位置情報(移動体端末を所持する者の位置を示す情報であって、発信者情報でないものをいう。以下同じ。)を取得することができる。

電気通信事業者は、あらかじめ利用者の同意を得ている場合、裁判官の発付した令状に従う場合その他の違法性阻却事由がある場合に限り、位置情報について、他人への提供その他の利用をすることができる

電気通信事業者が、位置情報を加入者若しくはその指示する者に通知するサービスを提供し、又は第三者に提供させる場合には、利用者の権利が不当に侵害されることを防止するため必要な措置を講ずることが適切である。

電気通信事業者は、捜査機関からの要請により位置情報の取得を求められた場合においては、裁判官の発付した令状に従うときに限り、当該位置情報を取得することができる。

電気通信事業者は、前項のほか、救助を要する者を捜索し、救助を行う警察、海上保安庁又は消防その他これに準ずる機関からの要請により救助を要する者の位置情報の取得を求められた場合においては、その者の生命又は身体に対する重大な危険が切迫しており、かつ、その者を早期に発見するために当該位置情報を取得することが不可欠であると認められる場合に限り、当該位置情報を取得することができる。 

電気通信事業における個人情報等の保護に関する ガイドラインの解説 

https://www.ppc.go.jp/files/pdf/240312_telecom_GLs_description.pdf

P53
法令に基づく場合は、第5条第1項又は第2項の適用を受けず、あらかじめ本人の同意を得ることなく、特定された利用目的の達成に必要な範囲を超えて個人情報を取り扱うことができる。

事例1)警察の捜査関係事項照会に対応する場合(刑事訴訟法(昭和23年法律第131号)第197条第2項)

事例2)裁判官の発する令状に基づく捜査に対応する場合(刑事訴訟法218条) 

 

P101

「法令に基づく場合」について、裁判官の発付する令状により強制処分として捜索・押収等がなされる場合には、令状で特定された範囲内の情報を提供するものである限り、提供を拒むことはできない他方、法律上の照会権限を有する者からの照会刑事訴訟法第197条第2項、少年法第6 条の4、弁護士法第23条の2第2項、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成14年法律第26号。以下「特定電子メール法」という。)第29条等)等がなされた場合においては、原則として照会に応じるべきであるが、電気通信事業者には通信の秘密を保護すべき義務もあることから、通信の秘密に属する事項(通信内容にとどまらず、通信当事者の住所・氏名、発受信場所、通信年月日等通信の構成要素及び通信回数等通信の存在の事実の有無を含む。)について提供することは原則として適当ではない。なお、個々の通信とは無関係の加入者の住所・氏名等は、通信の秘密の保護の対象外であるから、基本的に法律上の照会権限を有する者からの照会に応じることは可能である。もっとも、個々の通信と無関係かどうかは、照会の仕方によって変わってくる場合があり、照会の過程でその対象が個々の通信に密接に関係することがうかがえるときには、通信の秘密として扱うのが適当である(※4)。 いずれの場合においても、本人等の権利利益を不当に侵害することのないよう提供等に応じるのは、令状や照会書等で特定された部分に限定する等提供の趣旨に即して必要最小限の範囲とすべきであり、一般的網羅的な提供は適当ではない。 

(※4)特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律(平成13年法律第137号)第4条に定める発信者情報開示請求により、権利侵害情報が書き込まれた場・サービスを提供していた事業者(コンテンツプロバイダ( CP ))が保有する電話番号が請求者(特定電気通信による情報の流通により自己の権利を侵害されたとする者)に開示された後、当該請求者の代理人弁護士が、権利侵害情報の発信者を特定する目的で、当該電話番号により電話サービスを提供する電気通信事業者(以下「電話会社」という。)に対して、弁護士法第23条の2第2項に基づく照会(以下「弁護士会照会」という。)により、当該電話番号に対応する加入者の住所・氏名の提出を求める場合がある。 この場合には、当該電話会社にとって、権利侵害情報の投稿通信は自ら提供する電話サービスの個々の通信ではなく、また、当該弁護士会照会は 当該電話会社が提供する電話サービスの個々の通信の発信者を明らかにするためのものではないため、これに応じることは通信の秘密を侵害するものではないと解される。 

 

P203
通信履歴は、通信の秘密として保護されることから、電気通信事業者は、通信当事者の同意がある場合のほか裁判官の発付した令状に従う場合等の違法性阻却事由がある場合を除き、外部提供してはならない。法律上の照会権限のある者からの照会に応じて通信履歴を提供することは、必ずしも違法性が阻却されないので、原則として適当ではない(3-7-1(第三者提供の制限の原則)参照)。 

 

P210

位置情報は、個々の通信に関係する場合は通信の構成要素であるから通信の秘密として保護されると解される。また、位置情報が個々の通信に関係せず通信の秘密に該当しない場合であっても、ある人がどこに所在するかということはプライバシーの中でも特に保護の必要性が高く、通信とも密接に関係する事項であることから、捜査機関からの要請により位置情報の取得を求められた場合については、裁判官の発付した令状に従うときに限り、位置情報を取得することができる。 

 

(2)郵便法上の守秘義務

守秘義務を定めている法律は多々あります。例えば郵便法です。

郵便法8条

第八条(秘密の確保) 会社の取扱中に係る信書の秘密は、これを侵してはならない。
 郵便の業務に従事する者は、在職中郵便物に関して知り得た他人の秘密を守らなければならない。その職を退いた後においても、同様とする。

参考になる判例があります。
郵便事業会社は転居届を保持しているので、弁護士が強制執行準備に際して、郵便事業会社に転居届の提出の有無及び転居届記載の新住所(居所)等について弁護士会照会したところ、拒否され、これが弁護士会に対する不法行為を構成すると主張して提訴された裁判で、差戻最高裁判決(最判平成30年12月21日)では確認の利益を欠くとされてしまいましたが、差戻控訴審(名古屋高判平成29年06月30日)では、二三条照会に対する報告義務が郵便法八条二項の守秘義務に優越するとされました。

 

なお、上記裁判例を受けてか、「郵便事業分野における個人情報保護に関するガイドラインの解説」にも以下の記載があります。

郵便事業分野における個人情報保護に関するガイドラインの解説

https://www.ppc.go.jp/files/pdf/240312_postal_survice_GLs_description.pdf

P104-106
法律上の照会権限を有する者からの照会(刑事訴訟法第197条第2項、少年法第6条の4、弁護士法第23条の2、空家等対策の推進に関する特別措置法第10条第3項等)がなされた場合など、第15条第1項各号の規定に該当する場合であっても、信書の秘密等に該当する事項については、原則として提供することはできないと考えられる。 ただし、信書の秘密等に該当する事項のうち、郵便法第8条第2項に規定する、郵便物に関して知り得た他人の秘密(※1)については、比較衡量の結果、それらの情報を用いることによる利益が秘密を守られる利益を上回ると認められたときには、第三者提供が可能となると考えられる(※2)。
 
【郵便物に関して知り得た他人の秘密であって、比較衡量の結果、それらの情報を用いることによる利益が秘密を守られる利益を上回ると認められ、第三者提供が可能となると考えられる事例】(※3) 
事例1)地方公共団体が、空家等対策の推進に関する特別措置法第10条第3項の規定に基づき、空家等の所有者又は管理者(以下「所有者等」という。)の転居届に係る情報を、以下の2点を明らかにした上で照会してきた場合であって、事業者が、当該所有者等の同意を得ることなく、転居届に係る情報を提供する場合。
① 当該空家等がそのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険又は著しく衛生上有害となるおそれのある状態にあり、その除去等が周辺住人や通行人の生命、身体の保護のために必要であることから、これらの措置を所有者等に実施させるためにその連絡先を把握する必要があること
② 当該自治体が他に取り得る合理的な手段や方法では、空家等の所有者等に関し、必要な情報が入手できないこと
 
事例2)大規模災害や事故等の緊急時に、被災者情報・負傷者情報等を地方公共団体等に提供する場合。
 
事例3)徴収職員又は徴税吏員が、国税徴収法第146条の2又は地方税法第20条の11の規定に基づき、国税又は地方税に関する調査について必要があるときに行う協力要請として、住民票を異動せず転出し所在の把握が困難となっている滞納者の転居届に係る情報を照会してきた場合であって、事業者が、当該滞納者の同意を得ることなく、転居届に係る情報を提供する場合。
 
事例4)弁護士会が、弁護士法第23条の2の規定に基づき、訴え提起等の法的手続を採ろうとする者(弁護士会が照会申出を審査してDV・ストーカー・児童虐待の事案との関連が窺われない法的手続であり適当と判断した旨を表示して発出した照会に係る者に限る。)が申立ての相手方の住所の特定を図ろうとするため又は判決等の強制執行をするに際して相手方の住所を特定するため、住民票を異動せず転出し所在の把握が困難となっている当該相手方の転居届に係る情報を照会してきた場合であって、事業者が、当該相手方となる者の同意を得ることなく、転居届に係る情報を、当該弁護士会に提供する場合。 
 
なお、これらの場合において提供できる個人データは、その目的の達成に必要な最小限の範囲のものでなくてはならない。 
 

上記裁判例関係の法務省資料↓

https://www.soumu.go.jp/main_content/000905201.pdf

 

(3)高齢者虐待防止法上の守秘義務

地方自治研究機構のWebサイトで、令状を要求するように記載したものがあります。

http://www.rilg.or.jp/htdocs/main/houmu_qa/2021/67_winter01.html

 

○高齢者虐待防止法
第23条 市町村が第21条第1項から第3項までの規定による通報又は同条第4項の規定による届出を受けた場合においては、当該通報又は届出を受けた市町村の職員は、その職務上知り得た事項であって当該通報又は届出をした者を特定させるものを漏らしてはならない。都道府県が前条第1項の規定による報告を受けた場合における当該報告を受けた都道府県の職員についても、同様とする。

(4)図書館の自由

図書館は公権力から自由であるべきであり、思想信条の自由にも密接に関係してきます。日本図書館協会のサイトに非常に詳しくまとまっています。

https://www.jla.or.jp/committees/jiyu/tabid/658/Default.aspx

(5)自治体の事例

旧法下ではありますが、自治体からの提供について個人情報保護審議会に諮問している例も見られます。

https://www.city.fujisawa.kanagawa.jp/soudanc2-1/kojinjyouhou/documents/1138toshin.pdf

4.対応

(1)照会をうけた民間事業者としての対応

警察等が情報を求めてくる際に、警察内部であまり良く検討もせずに、幅広に情報を取得しようとしている場合もありますが、その情報がなければ、権利実現もできなかったり、捜査もできなかったりする場合もあります。

他方で、他の法律で大事な情報等については守秘義務があるわけです。その場合、警察等への協力義務と、他法上の守秘義務が対立するわけですが、守秘義務より報告義務が優越する場合も多いと考えられます。上記の郵便法絡みの高裁裁判例でもそのような判断がされているわけですよね。

ただ、それ自体はもっともですが、対応する民間事業者からすると、「一体どうしたらいいの?」となってしまいかねませんね。情報提供してもビジネスが促進されるわけでもないし、顧客離れすら起きかねないので、リスクを取りたくない民間事業者からすると、「一切出しません」に傾きやすく、かといって、情報がなければ、最悪の事態として重大犯罪が実際に起こる危険性もあり、また情報提供がないと権利実現も捜査もできないとなると、その情報提供は必要なわけで。

結論としては、個別具体的な提供要請ごとに必要性・緊急性・適切性を判断して、情報を守る利益(自社利益ではなく公益等上の利益)と情報提供する利益を比較考量して、情報提供する利益が上回るか考えていきましょうになるわけですけど、民間事業者からするとほかに本業の仕事がいっぱいある中で、情報提供しても良いのか否かを個別に検討するというのは、民間事業者からするとつらいような気もします。

(2)社会全体としての対応

本来は、情報提供してよいか否かについての個別検討の比較考量に必要な項目を洗い出して、捜査関係事項照会書や弁護士会照会書にその欄を設けて、その欄がAであれば原則提供可、Bであれば要検討みたいに、スキームを確立していくべきように思います。

 

5.民間事業者における対応例

(1)CCC

https://www.ccc.co.jp/customer_management/transparencyreport/

諮問委員会を設置し、当該委員会からの答申を踏まえてCCC独自の「捜査機関からの情報提供の要請に対する基本方針」を公表しています。

具体的には、生命・身体・財産におよぶ「急迫性」「公益性」があり、かつ「緊急性」がある状態として例外的運用を行い、捜査機関に情報を提供しうるとして、それぞれより詳細な基準を公表し、具体的な提供状況について透明性レポートを公表しています。

かつ、組織体制も整備しています。

第1線:形式審査を行う部門
第2線:内容審査、および基準に当てはまらないケースが持ち込まれ判断が難しい場合に社外専門家に確認を行う部門(社外専門家として当社と顧問関係等がない山室惠弁護士(弁護士法人 瓜生・糸賀法律事務所特別顧問・元裁判官)が担当)
第3線:体制や基準が適切に運用され、例外的運用が原則とならないようモニタリングを行う外部有識者(第2線の社外専門家とは異なる裁判官経験が豊富な弁護士を含む)を含む委員会(名称:情報開示モニタリング委員会)

 

(2)LINE

https://linecorp.com/ja/security/article/28

https://www.lycorp.co.jp/ja/privacy-security/privacy/transparency/

 

(3)Google

https://policies.google.com/terms/information-requests?sjid=15293194367378162193-AP

 

 

*1:警察ではない弁護士会照会についても、結局これが難航すると、権利侵害への対応すらできなくなる可能性が。