第三者委員会による自分へのヒアリングを録音したデータ(とその反訳)を当該第三者委員会に対し個人情報保護法上開示請求ができるか、個人情報保護法の解釈上の論点を考えます。
※読んでも、個人情報保護法の話ばかりで、全く面白くなく、さらに結論もケースバイケースという、途方もなくつまらない文です。
※特段、現在、個人情報保護法上の開示請求がなされているものでもないと思っておりますが、私は個人情報保護法の解釈が好きで、個人情報保護法上の請求として成り立つのかどうかを個人的に考えたかったので、このブログを書いています。
1.原則的考え方
個人情報は本人のものであるにもかかわらず、様々な組織が様々な人の個人情報を保有している。本人が自身の個人情報にアクセスしたり関与したりできるよう、「本人参加の権利」が国際的にも重要とされ、日本の個人情報保護法上も開示・訂正・利用停止請求権が認められている。個人情報保護法33条2項により、個人情報取扱事業者が開示請求を受けた場合は、原則として開示する義務を負う。
このブログでは、削除・利用停止請求は割愛し、開示請求についてを話題とする。
なお、以下「本人」と記載するのは、原則として個人情報保護法上の本人、つまり個人情報の対象者をいう。複数人の個人情報である場合には、請求者本人を本人と記載し、請求者以外の人は第三者と便宜上呼ぶ。
こういうケースはよくあり、例えば電話内容を開示請求する場合に、電話内容には、請求者本人の話、電話相手の話、第三者の話が出てきたりする。そうすると、対象となる個人は請求者本人、電話相手、第三者ではあって、請求者本人が開示請求する保有個人データに、請求者本人以外の、すなわち電話相手の個人情報や第三者の個人情報が含まれることがある。
個人情報保護法33条(開示)
第三十三条 本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データの電磁的記録の提供による方法その他の個人情報保護委員会規則で定める方法による開示を請求することができる。
2 個人情報取扱事業者は、前項の規定による請求を受けたときは、本人に対し、同項の規定により当該本人が請求した方法(当該方法による開示に多額の費用を要する場合その他の当該方法による開示が困難である場合にあっては、書面の交付による方法)により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない。ただし、開示することにより次の各号のいずれかに該当する場合は、その全部又は一部を開示しないことができる。
一 本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
二 当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
三 他の法令に違反することとなる場合
3 個人情報取扱事業者は、第一項の規定による請求に係る保有個人データの全部若しくは一部について開示しない旨の決定をしたとき、当該保有個人データが存在しないとき、又は同項の規定により本人が請求した方法による開示が困難であるときは、本人に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。
4 他の法令の規定により、本人に対し第二項本文に規定する方法に相当する方法により当該本人が識別される保有個人データの全部又は一部を開示することとされている場合には、当該全部又は一部の保有個人データについては、第一項及び第二項の規定は、適用しない。
5 第一項から第三項までの規定は、当該本人が識別される個人データに係る第二十九条第一項及び第三十条第三項の記録(その存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるものとして政令で定めるものを除く。第三十七条第二項において「第三者提供記録」という。)について準用する。
2.論点
第三者委員会による自分へのヒアリングを録音したデータ(とその反訳)を第三者委員会に個人情報保護法上開示請求ができるか。個人情報保護法上の論点は以下に絞られると考える。
〇法人格がない
第三者委員会は法人格がなく、任意団体と思われる。
本件調査報告書(公表版)P16/291では、「当委員会」は「本事案に関連した2024年12月以降の一連の報道を受けて、2025年1月23日開催の当社の臨時取締役会において設置が決議された第三者委員会」をいうと記載されている。
個人情報保護法上の「個人情報取扱事業者」は、法人格の有無を問わないので、この点は特に問題とならない。
ガイドライン通則編2-5
法人格のない、権利能力のない社団(任意団体)又は個人であっても、個人情報データベース等を事業の用に供している場合は個人情報取扱事業者に該当する。
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/legal/guidelines_tsusoku/#a2-5
〇個人情報データベース等を事業の用に供している者
個人情報保護法上の「個人情報取扱事業者」は、ア)個人情報データベース等をイ)事業の用に供している者をいう。
ア)個人情報データベース等とは何かについては、個人情報保護法解釈上は特に論点とならないような簡単な話であるため割愛する。第三者委員会における個人情報取扱実態が不明ではあるものの、個人情報データベース等に該当しない場合はとても例外的であると考えられる。
次の要件は、イ)「事業の用に供している」か否かである。
「事業の用に供している」の「事業」とは、一定の目的をもって反復継続して遂行される同種の行為であって、かつ社会通念上事業と認められるものをいうとされている。第三者委員会は短い期間の設置ではあるものの、一定の目的を有しており、反復継続して遂行されると考えられるものと思われる(反対意見もあるだろうが、私の感覚としては反復継続していると考えられるように思う。実際に訴訟等になる場合には、他法上の「事業」概念などを基に、この辺りの詳細主張を詰めていく必要がある。個人情報保護法上の「事業」概念は、個人情報保護法としてそこまで詳細が詰められているわけではなく、他法でも問題となる一般的な「事業」概念に依拠しており、個人情報保護法特有の概念や解釈が積み上げられてきているわけではないため)。
以上のように、第三者委員会はア)個人情報データベース等をイ)事業の用に供していると考えられることから、第三者委員会は個人情報保護法上の個人情報取扱事業者に該当すると考える。また、依頼元企業自体も個人情報取扱事業者に該当すると考えられる。
個人情報保護法16条2項
2 この章及び第六章から第八章までにおいて「個人情報取扱事業者」とは、個人情報データベース等を事業の用に供している者をいう。ただし、次に掲げる者を除く。
一 国の機関
二 地方公共団体
三 独立行政法人等
四 地方独立行政法人
(2)保有個人データに該当するか
ここが本Qにおけるメイン論点であると思われたが、日弁連GLと当該第三者委員会回答により、かなり明確になったと思う。
録音データと反訳が、第三者委員会の保有個人データに該当するか、である。
〇開示等の権限
保有個人データ該当性において、開示等の権限があるかどうかが重要な論点となる。
どういう場合に保有個人データ該当性が否定されるかというと、例えば、オンラインショップ(委託元)が配送先情報を自身では保持しておらず、委託先に個人情報取得・管理を全部丸投げしているような場合に、委託元と委託先どちらに開示等の権限があるかを考える。この場合、いくら丸投げしていようが、委託先は委託元から独立して勝手に開示等を判断する権限はないので、委託先の保有個人データとはならず、委託先に開示請求しても認められない。これに対し、委託元に開示請求すれば、委託元には開示等の権限があるので、いくら委託先に丸投げしていようが、開示請求に対応する義務が原則出てくる。
本件の場合、第三者委員会に録音データ等を開示する権限があるのか否か。
日弁連の「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」P4によれば、
第三者委員会が調査の過程で収集した資料等については、原則として、第三者委員会が処分権を専有する。
とあり、第三者委員会が処分権を原則専有するとある。ニュースによれば、5/22当該第三者委員会による回答でも、「第三者委員会が処分権を専有」とあるようである。
したがって、本件においては、第三者委員会の保有個人データに該当すると考える。開示等の権限=処分権とは言い切れないものの、処分する権限があるのであれば、開示等の判断権限も、依頼元企業から独立して有していると考えられるためである。
なお、第三者委員会が守秘義務を負っていることについては、保有個人データの論点ではなく、開示義務の例外論点で考えるべき事項と思うため、本論点の検討においては割愛する。
〇政令で定めるものに該当するか
また、保有個人データは、施行令で例外が規定されている。施行令5条各号に該当すれば、保有個人データには該当しないことになる。施行令5条各号とは次の場合である。
ア)当該個人データの存否が明らかになることにより、本人又は第三者の生命、身体又は財産に危害が及ぶおそれがあるもの
イ)当該個人データの存否が明らかになることにより、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがあるもの
ウ)当該個人データの存否が明らかになることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあるもの
エ)当該個人データの存否が明らかになることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障が及ぶおそれがあるもの
4つとも、「存否が明らかになることにより」とある。本件では、本人の見える場所にICレコーダーが置かれている可能性があるし、見えなくても一声録音について声掛けがあることが通例と考えられる。もし声掛けがなかったとしても、録音なしに、耳による聞き取りだけで対応する可能性は本件第三者委員会の性質上考えづらい。存在している可能性が極めて高く、また録音データが存在しているかいないかが明らかになったとしても、生命、身体又は財産に危害が及んだり、違法又は不当な行為を助長誘発したり、国の安全が害されるおそれ、信頼関係が損なわれるおそれ、交渉上不利益を被るおそれや犯罪の予防、鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障が及ぶおそれは考えにくい。なお、録音データの内容が身体に危害が及ぶ内容かとか、犯罪捜査に支障が及ぶか、ではなく、録音データの存否が明らかになることでこれらの恐れなどがあるか、である。
以上から、保有個人データの例外を定める施行令5条には該当しないものと考える。
個人情報保護法16条4項
4 この章において「保有個人データ」とは、個人情報取扱事業者が、開示、内容の訂正、追加又は削除、利用の停止、消去及び第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有する個人データであって、その存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるものとして政令で定めるもの以外のものをいう。
施行令5条
(保有個人データから除外されるもの)
第五条 法第十六条第四項の政令で定めるものは、次に掲げるものとする。
一 当該個人データの存否が明らかになることにより、本人又は第三者の生命、身体又は財産に危害が及ぶおそれがあるもの
二 当該個人データの存否が明らかになることにより、違法又は不当な行為を助長し、又は誘発するおそれがあるもの
三 当該個人データの存否が明らかになることにより、国の安全が害されるおそれ、他国若しくは国際機関との信頼関係が損なわれるおそれ又は他国若しくは国際機関との交渉上不利益を被るおそれがあるもの
四 当該個人データの存否が明らかになることにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査その他の公共の安全と秩序の維持に支障が及ぶおそれがあるもの
(3)開示義務の例外に該当するか
ここが本Qにおけるメイン論点である。
開示請求を受けた場合、原則開示義務があり、例外に該当する場合には開示しないで良い。本件、開示義務の例外に該当するかどうか。
開示義務の例外は、以下の3つである。
ア)本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
イ)当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
ウ)他の法令に違反することとなる場合
(開示)
第三十三条 本人は、個人情報取扱事業者に対し、当該本人が識別される保有個人データの電磁的記録の提供による方法その他の個人情報保護委員会規則で定める方法による開示を請求することができる。
2 個人情報取扱事業者は、前項の規定による請求を受けたときは、本人に対し、同項の規定により当該本人が請求した方法(当該方法による開示に多額の費用を要する場合その他の当該方法による開示が困難である場合にあっては、書面の交付による方法)により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない。ただし、開示することにより次の各号のいずれかに該当する場合は、その全部又は一部を開示しないことができる。
一 本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
二 当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
三 他の法令に違反することとなる場合
本論点については、録音データの内容によるし、何とも解釈が難しい。はっきりした見解も持てないが、例外に当たらない場合もそれなりにあるのではないかとは思う。ただ例外に当たる場合もあると思う。ケースバイケースで、なんともいえず、うーんという感じ。
〇本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
録音された話の内容がわからないため、なんとも言えない部分がどうしてもある。内容によっては第三者の権利利益を害するおそれはある。
ただ、開示することによって第三者の権利利益を害するおそれがあるかが要件となっており、開示によって権利利益が侵害されるおそれとは、例えば本人が知らない第三者の財産状況等が開示によって明らかになる場合などが考えられる。
本件の場合は、本人が話した内容と、第三者委員会が本人に話した内容しか録音されていないはずである。それ以外が録音されている場合も0%ではないと思うが、いったんこのブログではそれらしか録音されていないという前提で記載する。
本人が話した内容は、開示しても、そもそも本人が話しているので、本人は知っていることであり、それによって第三者の権利利益を害するおそれがあるといえるのか。本人が録音データを仮に一般公表したりしたら、第三者の権利利益を害するおそれが出てくる場合はあるだろうが、それは第三者委員会が開示の際に一般公表やその他第三者の権利利益を害する取扱いを禁止すれば良く、本人が話した内容を本人に開示することができない理由とはならないようにも思われる。第三者委員会がそのような取扱い禁止をしてまで開示する必要はないとの考え方もあるかもしれないが、そもそも個人情報は本人のものであって、開示請求権が認められている以上、開示義務が原則であって、例外は慎重に検討すべきというのが個人情報保護法の法理念であると思う。そうすると、もし録音データが一般公表されたらというような仮定の話は、本人と第三者委員会の取決め・契約で回避できるように思う。
それよりも、本人が話した内容よりも、第三者委員会が本人に話した内容の方が、問題となる場合がある。これも、すでに本人は聞いて知っている話なので、本人に開示しても、それが第三者の権利利益侵害を引き起こすおそれは少ないようにも思うが、ただ一度その場で聞いたという状況と、何度も再生できるデータで受領するという状況では、話が違うことがある。あくまで例えだが、仮に第三者の住所や細かい数字など、その場で一度聞いただけではずっと覚えておけないような内容でも、データで受領すれば完全に把握することができる。ただまあ、その場で聞いただけの状況でも、メモが取れれば、話は違う場合もあるが、メモよりもデータの方が正確性が高いようには思われる。
ただ、これも、そういう内容があるのかどうか、ではある。
〇当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
当該第三者委員会は守秘義務を負っているので、そのようなデータを開示すると、守秘義務違反に該当する可能性があり、当該第三者委員会の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼす恐れがあると言えるだろう。
ただ、これも、本人が話した内容を本人に開示する場合にまで及ぶのかが問題となる。守秘義務と言っても、本人が話した内容を本人に開示する場合は、何を守秘する実質的理由があるのかという話になりかねない。
本人に第三者委員会が話した内容は守秘義務が及ぶ場合も当然あるが、ただこれも、既に第三者委員会が本人に話してしまっているわけで、本当に実質的な意味の守秘義務が及ぶような内容をヒアリングの場で第三者委員会が本人に話すとは思えないし、何とも言えない。
結局、録音データの内容次第、ヒアリングで話された内容次第ということになる。ヒアリングの目的を踏まえると、ヒアリングでは本人が話すのがメインと思われ、本人に対し第三者委員会が話した内容は少ないように一般論としては思う。また本人が話した内容と第三者委員会が本人に話した内容以外に録音されている可能性があるかというと、ない可能性の方が一般論としては高い。本人に聞けば、本人にヒアリングの場で第三者委員会はどのような話をしたかがわかり、本人が話した内容と第三者委員会が本人に話した内容以外に録音されているものがあるかもわかるのではないか。そこから、開示義務の例外に該当するか否かがわかる可能性も高いのではないか。
(4)おわりに
以上の通り、
- 当該第三者委員会は、個人情報取扱事業者に該当すると考える
- 当該録音データは、保有個人データに該当すると考える
- 開示義務の例外事由に該当するかは、場合による
最後の例外事由がなんとも言い切れず、自分で文を書いていてもなんともなという感じである。
なお、公的機関への開示請求実務は長年かなりの数の対応がなされており、個人情報保護審査会答申や裁判例もあるため、解釈の積み重ねがされている。他方で、民間への開示請求実務は、そもそもあまり請求自体も数がなされず、その判断・解釈が一か所で積みあがっているというものでもないので、現実には先例が乏しいという実情がある。