ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

マイナンバーカードで買い占め防止?

トイレットペーパー等の買い占め、高額転売等を防止するための方法は、モラルに訴える、在庫が多いことを消費者にアピールする、1人1個までに制限する、転売を法的に禁止する(違法とするにとどまるのか、罰則対象にするかどうかの論点もある)等、様々な方法が模索・検討・実施されていることと思います。

 

マイナンバーの観点から考えると、マイナンバーやカードの活用もあり得なくはないと思ったので、ブログに書いています。参議院予算委員会でも以下の通り、マイナンバーカード活用に関する発言があったようです。

mainichi.jp

 

 

トイレットペーパー/マスクは1人1個とか、1家族1個とかにしても、結局、複数店舗を1人の方に回られてしまうと、総量としては、1人N個購入できるということになります。それを防止する必要が考えられますし、

あとは、家庭の事情によって、例えば病気の方などは、人より多めに必要かもしれません。

 

そういうことへ対応するための方法として、以下のような方法が考えられるかと思います。

 

考えられる方法

1)国や自治体が買い上げて国民へ配布

例えば、法律に基づいて国や自治体が直接買い上げて、自治体や郵便局、選挙で投票する場所などでトイレットペーパーを配布する

2)購入時にマイナンバーカードを提示

例えば、マイナンバーカードで、どの店舗でも、その人のこれまでのトイレットペーパーの購入個数がわかるようにして、あとは世帯の具体的状況は店舗ではわからないようにするが、世帯ごとの購入可能数をマイナンバーカードで確認できるようにする

3)転売されそうな商品の出品者へマイナンバーの義務付け

社会的に著しく害悪をもたらしうる必需品の高額転売防止のため、指定商品のオークション、フリマアプリ、ショッピングモール出品には、必ずマイナンバーの提示を求めるようにする

 

1)国や自治体が買い上げて国民へ配布

1の国や自治体が買い上げて国民へ配布する案の場合、配布窓口が大混雑しそうなので、どの世帯は何日の何時などと制限した上で、自治体等の対応者を劇的に増員できないといけないかなと思いました。

また、その配布日時をお知らせする方法がなかなか難しい(Twitter自治体Webサイトが一番速そうですが、見ない方もいるし、通知しても間違った日にいらっしゃる方もいるだろうし)かと。配布日時は、やはりアナログに郵便でお知らせするということになるのかもしれません。あとはテレビとかYahoo!とかでも周知してもらうとかもあるかもしれません。

またトイレットペーパー等は、配布窓国での配布じゃなくて、自宅への宅配も考えられますが、全国的に実施するとなると、再配達対応が、配送事業者側で可能なのかどうか。マスクだと不在時のポスト投函も可能そうですが(盗難防止は気を付ける必要がある)、トイレットペーパーだとポスト投函ができず、不在時の再配達を考えると、現実的に可能かどうか事前に検討する必要があるかと思います。

 

なお、1の場合でも、マイナンバーを使うと、効果を発揮できる可能性があります。というのも、マイナンバーの番号自体の活用をすれば、情報管理が正確化すると思うからです。その世帯は何日の何時で、その世帯に病気の方がいるなどの情報管理には、同姓同名者を間違えるなどを防ぐためには、マイナンバーを使った方が良いかと思います。病気かどうかについては、例えば難病情報などはすでに自治体で把握しているかもしれませんし、あと要介護度も自治体がすでに把握しているし、赤ちゃんがいる世帯とか、障がい者の方がいらっしゃる世帯なども自治体で既に把握しているので、そういう自治体がすでに持っている情報をきちんと抽出した上で、かつご本人やご家族からの情報+医師の診断書情報なども登録できるようにする方法もあるのかなと。そういった場合に、複数の情報を突き合わせるキーが必要で、それがマイナンバーだと、情報管理が正確化するかと思います*1

なお、きちんと宛名番号が整理されている自治体ではマイナンバーではなく宛名番号を使う方法でもいいかもしれませんが、そう意味では、マイナンバーではなく統合宛名番号を使うということもいいかもしれません。

 

2)購入時にマイナンバーカードを提示

次に2の購入時にマイナンバーカードを提示する案の場合、1の国や自治体が買い上げて国民へ配布する案と違って、配布窓口や再配達の大混雑問題は解消できそうです。

ただ、ドラッグストアやオンラインショッピングなどで購入制限をかける場合は、店舗やオンラインショッピングの都度、必ず、マイナンバーカードの読み取り機が必要になってきます。ピッとやる機械ですね。これ、大型ドラッグストア店舗や大型スーパーや大型コンビニなら用意できると思うのですが、小さ目の店舗だと難しいかもしれません。またオンラインショッピングの場合、おうちにカードの読み取り機がないといけなくなってしまいます*2

さらには、マイナンバーカードを持っていない人は購入できないとするのでは重大な人権侵害なので、希望者は即日中にカードを取得できるような体制がないといけないと思います。

あとは、マイナンバーカードの電子証明書のシリアル番号とトイレットペーパーなどの指定商品の購入個数を紐づけるシステム開発が必要ではあります。これにそこそこの時間を要するようにも思います。さらには、トイレットペーパーやマスクだけじゃなくて、汎用的にこういう事態に対応できるシステムに作らないといけないのですが、現状の国のICTノウハウを考えると、多額の国費を投入してシステム開発を発注したのに、内部調整・各省協議等の結果、多数回の仕様変更等が多発したりして、システム開発がきちんと適切に実施しきれるかという懸念もなくはありません。

 

ということで、2のマイナンバーカード案は、今の現実を踏まえると、時間的にほぼ難しいとは思いますが、5日の参院予算委員会で話が出たとのことなので、ブログに書いてみました。

 

あと、もし2の案をとるとした場合、マイナンバーカードの不正貸し借りや盗難が発生しそうなので、その厳罰化が必要かと。ご近所さん同士で、困った方にトイレットペーパーを譲るというのならいいかもしれませんが、貧困ビジネスではありませんが、窮状に付け込んで、マイナンバーカードを不正に他人から奪って、トイレットペーパーを大量購入して、高額転売する人が出てこないとは限らないので、そういう事態に適正に対処できるよう、厳罰化が必要かと思います。

ただまあ、マイナンバーカードの表面に顔写真がついているのですね。また、ICチップ内にも顔写真があるので、顔で照合すれば、不正貸し借りや盗難があっても、今店頭にマイナンバーカードを持ってきている人と本来の持ち主が同一人物かどうか判定することは可能かと思います*3。ただ、顔で判定といっても、ドラッグストアの店員さんなど、現在大変なご負担の中で、もし不正貸し借りで写真と違う人が店頭にやってきたとしても、店員さんが「あなた、カードと顔が違うので、販売できません」と、お客さんに言うというような仕組みをもし作ってしまうと、それは店員さんには、あり得ないほどの精神的にハードな仕事になってしまい、これは店員さんの人権侵害になるのではないかと思います。

現実問題としては、やっぱりマイナンバーカードで、店舗やオンラインショッピングの都度、購入個数をわかるようにするっていうのは無理かなと。

 

そうなると、ドラッグストアで、マイナンバーカードでピっとやって、購入制限をするというよりは、1と2の折衷案的な感じで、郵便局とか選挙の投票所みたいなところで、マイナンバーカードでピっとやって、受け取るみたいな方法も考えられるかなとは思います。

ただ、それでやるのと、自治体から、購入券を住民票住所地に紙で選挙の投票の時みたいに郵送して、それを持ってきてもらうのと、どう違うのか。紙だと不正複製できるっていう危険があるのでしょうかね。でも、マイナンバーカードだと、かなりの資金投資が必要で、時間もかかるのに、紙と比べて、メリットが大きいのかどうか。デメリットが少ないのかどうか。そのあたりを適正に検討した上で、マイナンバーカードの方がメリットが大きくてデメリットが少ないなら、購入券ではなく、カードでやるという方法はあると思います。

 

3)転売されそうな商品の出品者へマイナンバーの義務付け

今でも、オークション、フリマ、オンラインショッピングモールへの出店の際って、本人確認はしているとは思うのですが、最初に例えば運転免許証とか出した、本人限定郵便を送ったとしても、そこから住所等が変わっている可能性があります。

その点、これらの人に、マイナンバーの提示を義務付けて、オークション事業者、フリマアプリ事業者、オンラインショッピングモール運営事業者に、国の命令で、必要な範囲内に限り、こういう不正転売をしている人のマイナンバーを国に提出される仕組みを作れば、その人の正しい氏名・生年月日・住所等がわかるので、検挙等の是正につながるのではないかと思います*4

まあ、これも、現状がどうなっているかをきちんと調査して、マイナンバーを義務付けた方が検挙の迅速化につながるかどうかの検証が必要ではあります。

 

これは、マスクやトイレットペーパーの著しい高額転売だけじゃなくて、ネット上での覚せい剤等違法薬物の売買、危険物の売買等でも、同じことがいえるかと思います。

ただまあ、オークション、フリマ、オンラインショッピングモールへの出品という方法ではなくて、5ちゃんとかSNSで、個人間で売買されてしまえば、結局、こういう仕組みの網をかいくぐれますが…。まあ話としては、例えばSNSでも、マイナンバーの提示を義務付けるっていう話もなくはないですが、そうすると、表現活動の自由の侵害になりかねないので、SNSや5ちゃんでマイナンバーの提示を義務付けるって、まあ国によっては、ネット使うときはマイナンバーっていうのはあるそうですが、日本だと法制的に極めて難しいかな、人権侵害になるかなと思います。

 

 そう考えていくと、戦争中の配給は、どういう風にやっていたのか。また、現在の台湾その他の国での、マスクの配布はどうやっているのか。そういうことを、きちんと調査したほうが良いと思います。戦時中に書かれた小説を読んでいると、配給の話とか出てきますけど、配給方法とかまでは、今まではあまり考えたことがなかったので、どうなっていたのだろうか、と思いました。

*1:必ず重複がなく必ず住民票対象者全員に付番されているという意味で、キーとしては強い

*2:自治体でタブレットとカードの読み取り機を貸し出して、そこから購入するという方法はなくはありませんが、そこが混雑しそうだし、そういう方法でやる人がいるのかなという疑念も

*3:オンラインショッピングの場合も、顔をカメラで撮って、それと照合可能。でもそういう照合をしたとしても、アナログ手法(本人に購入させたうえで、窮状に付け込んで安値又は無料で奪い取って高額転売する)の人も出かねないかな、とも。

*4:その前提として、社会的必需品の高額転売を違法とする法律が必要