ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

公取デジタル・プラットフォーマー規制案の概要

デジタル・プラットフォーマーと個人情報等を提供する消費者との取引に
おける優越的地位の濫用に関する独占禁止法上の考え方(案)
」の概要とそれへの私の意見を記した個人的メモです。

 

 

独禁法eGov

 https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=322AC0000000054_20180606_428AC0000000108&openerCode=1

 

デジタル・プラットフォーマーとは

  • オンライン・ショッピング・モール,アプリケーション・マーケット,検索サービス,コンテンツ(映像,動画,音楽,電子書籍等)配信サービス,ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)などのデジタル・プラットフォームを提供する事業者
  • (水町注)いわゆる大手プラットフォーマーは当てはまるのがよくわかるが、個社でやっているショッピングサイトなどはこれに当たるのか不明瞭なので、明らかにすべき。

個人情報等とは

  • 個人情報及び個人情報以外の情報
  • (水町注)個人情報以外の情報とは、範囲が広すぎ・曖昧ではないか。

優越的地位の濫用

独禁法2条9項5号で「不公正な取引方法」の一種と定義

○9 この法律において「不公正な取引方法」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
(略)
五 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、次のいずれかに該当する行為をすること。
イ 継続して取引する相手方(新たに継続して取引しようとする相手方を含む。ロにおいて同じ。)に対して、当該取引に係る商品又は役務以外の商品又は役務を購入させること。
ロ 継続して取引する相手方に対して、自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること。
ハ 取引の相手方からの取引に係る商品の受領を拒み取引の相手方から取引に係る商品を受領した後当該商品を当該取引の相手方に引き取らせ、取引の相手方に対して取引の対価の支払を遅らせ、若しくはその額を減じその他取引の相手方に不利益となるように取引の条件を設定し、若しくは変更し、又は取引を実施すること。

  • 消費者が,デジタル・プラットフォーマーが提供するサービスを利用する際に,その対価として自己の個人情報等を提供していると認められる場合は当然,消費者はデジタル・プラットフォーマーの「取引の相手方(取引する相手方)」に該当
  • 優越的地位とは、消費者がデジタル・プラットフォーマーから不利益な取扱いを受けても,消費者が当該デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスを利用するためにはこれを受け入れざるを得ないような場合。
    その判断に当たっては、消費者にとっての当該デジタル・プラットフォーマーと「取引することの必要性」を考慮する。
    ①消費者にとって,代替可能なサービスが存在しない場合
    ②代替可能なサービスが存在していたとしても当該デジタル・プラットフォーマーの提供するサービスの利用を止めることが事実上困難な場合,又は,③当該デジタル・プラットフォーマーが,その意思で,ある程度自由に,価格,品質,数量,その他各般の取引条件を左右することができる地位にある場合には,
    通常,当該デジタル・プラットフォーマーは消費者に対し取引上の地位が優越していると認められる。
  • 「正常な商慣習に照らして不当に」は個別判断。現行商習慣が不適切なら、これに当たる場合あり。

優越的地位の濫用に当たる行為類型

⑴ 個人情報等の不当な取得
ア 利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得すること。

【想定例①】 デジタル・プラットフォーマーA社が,個人情報を取得するに当たり,その利用目的を自社のウェブサイト等で知らせることなく,消費者に個人情報を提供させた(注1)(注2)。

  • (注1)自社のウェブサイトの分かりやすいところに利用目的を掲載した場合や,消費者に対し,電子メールなどにより利用目的を通知した場合は,通常,問題とならない。
  • ←水町注:利用目的の明示・公表が不適切な場合という趣旨かと思われる。妥当な解釈である。
  • (注2)利用目的の説明が曖昧である,難解な専門用語によるものである,利用目的の説明文の記載場所が容易に認識できない,分散している,他のサービスの利用に関する説明と明確に区別されていないことなどにより,消費者が利用目的を理解することが困難な状況において,消費者に個人情報を提供させている場合には,利用目的を消費者に知らせずに個人情報を取得したと判断される場合がある。
    一般的な消費者が容易にアクセスできるところに分かりやすい方式で,明確かつ平易な言葉を用いて,簡潔に,一般的な消費者が容易に理解できるように利用目的に関する説明を行っている場合は,通常,問題とならない。
  • ←水町注:程度問題であろう。利用目的の説明文の記載場所がおかしいというのは、現行個人情報保護法ガイドライン違反であるが、それ以外の曖昧、専門用語、分散、他との区分は、多くの企業がこれ(優越的地位の濫用)に当てはまるといえば当てはまる状況にあるのが実態。はっきりいって、曖昧といっても程度問題。すべて具体的に書ききれればいいが、そうでないものもある。悪質性がある曖昧と、そうならざるをえない曖昧と、文章力がなくて曖昧とか、いろんなパターンがあって、この考え方ではわからないし、実態に沿っていない。専門用語だって、程度問題。個人情報に特有の専門用語もいっぱいあるし、業界用語だってあるし、悪質性があってわざと難しく書いている場合はほとんど見かけないように思う。一生懸命説明しようと思うとかえって専門用語になるという事業者は普通に存在する。これで優越的地位の濫用に当たるというのは不適当。悪質な場合に限った方が良い。
イ 利用目的の達成に必要な範囲を超えて,消費者の意に反して個人情報を取得すること。

【想定例②】 デジタル・プラットフォーマーB社が,個人情報を取得するに当たり,その利用目的を「商品の販売」と特定し消費者に示していたところ,商品の販売に必要な範囲を超えて,消費者の性別・職業に関する情報を,消費者の同意を得ることなく提供させた(注3)(注4)。

 

  • (注3)「商品の販売」を利用目的とする場合に,消費者の氏名,メールアドレス,決済情報等といった利用目的の達成に必要な個人情報の提供を求めることは,通常,問題とならない。また,消費者の性別や職業等といった利用目的の達成に必要な範囲を超える個人情報であっても,消費者本人の明示的な同意を得て提供を受ける場合は,通常,問題とならない。ただし,消費者が,サービスを利用せざるを得ないことから,利用目的の達成に必要な範囲を超える個人情報の提供にやむを得ず同意した場合には,当該同意は消費者の意に反するものと判断される場合がある。
  • ←水町注:妥当ではあるが、これも程度問題。現状のデジタル・プラットフォーマーは、程度問題をはるかに超えて、必要以上の個人情報を取得しているとは思われるが、まじめな企業だって、本当にぎりぎり詰めて、個人情報の利用目的の範囲内かどうかは、まじめに検討したところでグレーゾーンは残る。
  • (注4)「商品の販売」に加えて追加的なサービスを提供しているときに,当該追加的なサービスの提供を受ける消費者本人の明示的な同意を得て,当該追加的なサービスの提供に必要な個人情報の提供を受ける場合は,通常,問題とならない。
  • ←水町注:これが、デジタル・プラットフォーマーその他では、わかりにくい同意になっていることが多い。そっちを正しく規制してくれないか。
ウ 個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに,個人情報を取得すること。

【想定例③】 デジタル・プラットフォーマーC社が,個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに,サービスを利用させ,個人情報を提供させ
た。

  • 水町注:安全管理措置義務違反になると思われるが、それに加えてさらに独禁法違反でもあげたいという趣旨か。安全管理措置義務違反なら個人情報保護法違反は明確なので、それよりも現状の問題点なのに見過ごされているような問題の取り締まり・規制に注力してほしい。
エ 自己の提供するサービスを継続して利用する消費者に対し,消費者がサービスを利用するための対価として提供している個人情報等とは別に,個人情報等の経済上の利益を提供させること。

【想定例④】 デジタル・プラットフォーマーD社が,提供するサービスを継続して利用する消費者から対価として取得する個人情報等とは別に,追加的に個人
情報等を提供させた(注5)。

  • (注5)当該追加的な個人情報等の取得が,上記アないしウにおいて問題とされているような行為を伴わずに行われた場合であっても,問題となる。従来提供していたサービスとは別に,追加的なサービスを提供する場合であって,消費者が当該追加的なサービスの提供を受けるに当たり,その対価として追加的な個人情報等を提供させる場合は,通常,問題とならない。
  • 水町注:言いたいことはわかるものの、説明が不足しすぎ。もう少しわかりやすく具体例を挙げて説明すべき。これでは、広すぎると思う。
⑵ 個人情報等の不当な利用
ア 利用目的の達成に必要な範囲を超えて,消費者の意に反して個人情報を利用すること。


【想定例⑤】 デジタル・プラットフォーマーE社が,利用目的を「商品の販売」と特定し,当該利用目的を消費者に示して取得した個人情報を,消費者の同意を得ることなく「ターゲッティング広告」に利用した(注6)。

  • (注6)利用目的が「商品の販売」であるところ,新たに,ターゲッティング広告に個人情報を利用することについて,例えば,電子メールによって個々の消費者に連絡し,自社のウェブサイトにおいて,消費者から取得した個人情報を当該目的に利用することに同意する旨の確認欄へのチェックを得た上で利用する場合には,通常,問題とならない。ただし,消費者が,サービスを利用せざるを得ないことから,個人情報をターゲッティング広告に利用することにやむを得ず同意した場合には,当該同意は消費者の意に反するものと判断される場合がある。
  • 水町注:これ、おそらく広く行われているようにも思う。これが規制されれば広告業界的には痛手かもしれないが、問題行為であり、この規制は賛成!

【想定例⑥】 デジタル・プラットフォーマーF社が,サービスを利用する消費者から
取得した個人情報を,消費者の同意を得ることなく三者に提供した(注7)。

  • (注7)個人情報を第三者に提供することについて,例えば,電子メールによって個々の消費者に連絡し,自社のウェブサイトにおいて,消費者から取得した個人情報を第三者に提供することに同意する旨の確認欄へのチェックを得た上で提供する場合には,通常,問題とならないただし,消費者が,サービスを利用せざるを得ないことから,個人情報の第三者への提供にやむを得ず同意した場合には,当該同意は消費者の意に反するものと判断される場合がある。なお,提供された個人情報を,消費者の同意なく,社内の営業部門から総務部門に提供することは,通常,問題とならない。
  • 水町注:これ、第三者提供に限るということであれば(個人情報保護法上の第三者に限る)、非常に良い規制。ただ、個人情報保護法の第三者に限ると明示しないといけないのではないか。
イ 個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じずに,個人情報を利用すること。

【想定例⑦】 デジタル・プラットフォーマーG社が,個人情報の安全管理のために必
要かつ適切な措置を講じずに,サービスを利用させ,個人情報を利用した。

  • 水町注:安全管理措置義務違反になると思われるが、それに加えてさらに独禁法違反でもあげたいという趣旨か。安全管理措置義務違反なら個人情報保護法違反は明確なので、それよりも現状の問題点なのに見過ごされているような問題の取り締まり・規制に注力してほしい。

 

(水町その他意見)もしこれが正式ルールになった場合、個人情報保護法ガイドラインの中にも、独禁法の話を明記すべき。個人情報保護法ガイドラインしか見ていない事業者だっていっぱいいる。事業者目線に立った時に、個人情報保護委員会公取と、所管が違うから、相互にガイドラインで記載せず、それぞれが別々に記載するというのは、著しく不適当。複数のガイドラインを見なければいけない、どの規制が自分に適用になるかわからないというのはおかしい。