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弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

著作権法で保護される著作物に関するメモ

著作権法で保護される著作物に関する個人的な断片メモ。中山『著作権法』(有斐閣)を読んで。

不正確な可能性がありますので、以下記載を利用される際は、必ず条文・判例・基本書等をご確認の上お願いします。

 

著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)。

  • しかし特にすぐれた思想・感情でなくてもよく、人の考えや気持ちが現れていればよい。すぐれた芸術的表現でなくてもよい。
  • 事実は「思想又は感情」ではないので、著作物にならない
    →ある業界の会社名、納入先ごとの部品調達量・納入量、シェア割合等のデータは、客観的な事実ないし事象そのものであり、思想又は感情が表現されたものではない(名古屋地判平12.10.18)
    →数式は著作物ではない(大阪高判平6.2.25)
    →事実を表現したものは、著作物になりうる。例えば、歴史的事実に関する記述であってもそう(東京地判平10.11.27)
  • 雑報・時事の報道(著作権法10条2項)
    →例)死亡公告や人事異動
    →ニュースの見出しは著作物性は否定されたが、不法行為で保護される(東京地判平16.3.24)
  • 契約書等
    船荷証券(東京地判昭40.8.31)、契約書案(東京地判昭62.5.14)
    →レイアウト・フォーマットについては、知恵蔵のレイアウト・フォーマットは誰が著作しても同様の表現になるようなものに創作物性を認めることはできないとされた(東京地判平10.5.29)。これに対しビジネスソフトウェアのレイアウトについては、一定の制約の中でも誰が行ってもほとんど同じにならざるをえないとは言えない程度の個性をもって表現されていれば創作性を肯定できるとされた(東京地決平13.6.13)。
  • 憲法その他の法令(著作権法13条1号)
  • 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が発する告示、訓令、通達その他これらに類するもの(著作権法13条2号)
  • 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判に準ずる手続により行われるもの(著作権法13条3号)
  • 著作権法13条1~3号に掲げるものの翻訳物及び編集物で、国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が作成するもの(著作権法13条4号)

創作性のレベル

  • ありふれた文章や極めて短い文章は、創作性が認められない
    ←混合理論
    →法令に従って整理したにすぎない図表は、誰が作成しても同じような表現になるので、著作物性が否定された(東京地判平17.5.17)
    →測定テストの質問文はいずれも短文で一般的かつ日常的でありふれた表現が用いられており、特徴的な言い回しがあるとも認められないとして著作物性が否定された(東京地判平14.11.15)
    質問文は、いずれも最小5文字、最大34文字の短文で、疑問文ではなく肯定文又は否定文であり、これに対し「はい」「?」「いいえ」で回答する欄が作成されていた。原告は,個々の質問文は,高度に専門的な分析から作成されたもので,一般の文章とは比べものにならない精度を要求される文章であり,ちょっとした表記の違いが決定的な違いを生む場合がある,直感的に答えやすく,理性的な判断が働きにくい表現が使用される等の工夫がされていると主張する。しかし,原告が工夫したとする点は,質問ではなく肯定文又は否定文にしたことや性格の傾向ではなく経験を尋ねる内容にしたことや具体的な場面をイメージしやすい言葉を選択したこと等であって,一般的かつ日常的でありふれた表現の域を出るものではない。原告が主張する,ちょっとした表記の違いが決定的な違いを生む場合があるとの点は,その事実を具体的に認めるに足りる証拠はない。かえって,Bが著作者となる書籍の中で使用されている個々の質問文の文言は,Qシートの文言とは異なるから,この事実は,ちょっとした表記の違いがそれほど意味を持たないことを示しているということができる。
    そして,個々の質問文に著作物性が認められない以上,これらの独立した質問文を80問集めたものであるQシートの質問文全体についても,それが編集著作物として著作物性を認められるかどうかという点を別にすると,著作物性は認められない。質問の順序は,判定の対象となる5つの因子に関し,同じ因子についての質問が連続しないように配列されていると主張しており,この主張によると,質問文全体は,素材の選択又は配列によって創作性を有するとして,編集著作物に当たるとする余地がある。
    最終的な判断としては、被告の行為は著作物の複製権侵害ではないとされた。
  • 中山信弘著作権法』(初版、有斐閣)49ページより66頁まで
  • 創作性・個性とは何か。文学・美術と、コンピュータ・プログラムとで、創作性・個性はどう考えるべきか。
  • ある作品に著作権を付与しても、なお他の者に創作を行う余地が残されている場合に、創作性があると考えるべき