ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

論点を絞ろう、そして霞が関

最近、仕事をしている中で思ったこと。

 

1.ある会議での出来事

先週、ある会議で私は発言をしました。

すると、座長の先生が「〇に対する意見がわからなかったので、かみくだいて説明してください」とおっしゃいました。

座長の先生のおかげで、はっと気づきました。私は一つの発言の中に10個ぐらい論点を提示して、それへの自分なりの考え方を述べて、さらに枝葉末節までちょこちょこ織り交ぜて発言しているということにです。文章を書く時ですら長くなりがちですが、文章ならまだ推敲できますから、流れを整理できますが、口頭だと、もうばーっとしゃべりまくってしまいますね。これはよくありません。

この会議の議題はかなり複雑で、事案を理解するのが大変でした。で、ばーっと資料を読んで事案を理解して、自分なりに問題点を見つけて、自分なりの考え方を見つけて、で、それを頭の中だけでやっていて、そのまま発言するので、発言内容が整理されていないわけです。これ、ペーパーに落とすだけで、かなりわかりやすく整理できると思いますが、まあペーパーに落とさず、それを頭の中だけでやると、思考パターンがあまりきれいに提示できず、口頭でしゃべりまくると、さらに人に理解してもらえないということになっているわけです。

振り返ってみると、最近の私の会議での発言は、結構こういう傾向が強いように思うのです。「会議で一人でしゃべりまくるわけにはいかない」という意識があるため、一回の挙手で思ったことを全部話してしまおうとするので、一回の発言がこのように非常に論点多数で複雑になってしまうわけですね。気を付けなければいけないなと思いました。

まず、論点やテーマを切って、それぞれ話す。枝葉末節はあえて触れない。これを徹底すべきだと思いました。

座長の先生が端的にご指摘くださったおかげです。ありがとうございました。

 

2.ある方との電話で思った霞が関の技術と現状

昨日、久しぶりにある方とお電話しました。お仕事のお話でしたが、非常に楽しかったです。というのも、知識量が非常に豊富な方で、考察が非常に深い。私も別の仕事で少し関わっていることが、その方のお仕事にもかなり影響しているようで、お話ししながら、このテーマを取り巻く現状がふぁーっと拓けたというか理解できたというか、こういうことなのかという腹落ちがあった気がします。

で、思ったのです。

 

膨大な資料、複雑な現状を理解した上で、その現状に対する問題点をさっと素早く掴む。

ーこれこそが、霞が関の技というか、伝統芸能というか、霞が関の優秀な役人の方のスキルなんだなと。

 

大量の資料を速読して、現状をさっと理解し、問題点を素早くつかむ。これが、霞が関伝統芸能だと思うのです。

 

現実はすごく複雑です。マイナンバーでいえば、個人番号利用事務が多岐に渡った上、番号法も複雑でシステムも複雑です。現実の問題に対する論点・解釈を考える上で、まずは、問題となっている現実を正確に理解する必要があります。

マイナンバーでいえば、個人番号利用事務のそれぞれの事務がかなり複雑。税・年金・医療保険といった王道の利用事務でいっても、それをすべて理解している人はほぼいないし、番号法を理解している人が必ずしもこれらの事務を理解しているわけではないということ。そのためには、これらの事務を理解している人が、制度・事務を簡潔にまとめて説明すると良い。で、制度・事務がわかっていても、さらに壁があって、事務処理のためのシステムが複雑に構築されています。そのシステムの簡単な仕組みを理解しないといけない。ベンダーさんに聞くと、細かい説明が出てきて、大まかな流れがよくわからないといった事態にもなりがち。きちんとヒアリングして、システムの仕組みを自分としてちゃんと理解する必要がある。

そして、事務とシステムを理解した上で、番号法上の論点を理解しないといけない。しかし事務とシステムを理解すれば、おのずと法感覚があれば、「これは大丈夫なのかな?こんなに紐づけられていいのかな?」とかって感じるはずです。で、番号法を眺めるか、私か番号法担当者に聞いてもらえれば、番号法の構成がわかって、現実に対する番号法のあてはめができる。

そして、そこからさらに壁があることがある。法解釈としてはAが自然だけど、現実的に抵抗勢力がいてA解釈をとれない、などの事態です。しかし、意外と私、そういう場合への対処が上手。こういうのは、法の本質を見失わないようにすれば、意外と対応が簡単な場合がある。変に妥協すると法と違ってきてぐだぐだになりますが、妥協するところは妥協してもいいけど、本質は絶対に譲らない。そうするとぐだぐだにならず、さまざまな場合に対応できる芯の通った解釈ができると思っています。

話が長くなりましたが、マイナンバーの問題を検討するだけでも、上記のような検討過程を経る必要がある。制度・事務、システム、法律、現実の抵抗など、それらをすべて踏まえた上で適切な方向・解釈を示していく必要がある。

 

これはマイナンバーだけではないはずです。さまざまな領域の問題で、こういうことを総合的に考えていく必要がある。その総合調整がまさに霞が関の技術だと思います。

係長・補佐級だったら、基本的には自分で全部やりましょう。制度・事務、システム、法律、現実の抵抗、これを調べたりヒアリングして、検討していく。

その上の課長級以上であれば、係長・補佐が作った資料を読んで、制度・事務、システム、法律、現実の抵抗、これをさっと掴む。

 

これが、たぶん従来の霞が関の技術だったはず。それが、最近はおざなりになっているのではないか、とも思うのです。

むずかしいことはわからないし調べたくないからほおっておく、これではダメでしょう。こういう人も昔から一定数いたでしょうけど、そういった人が大手を振って霞が関を歩いているようでは、質の低下が著しくなってしまいますので、こういう人にはすみっこに退場してもらうべきでしょう。

で、さすがにこういうダメな人はそこまで多くはなくて、それよりも見られるのが、制度・事務の担当課なのに、制度・事務をちゃんと相手に伝えずに、相手方の専門領域のことを偉そうにしゃべりだす人。例えば、内閣官房(私)と厚労/総務/国税庁の役割分担としてはこうだと思うのです。

・制度・事務(年金/医療保険/地方行政/地方税/国税等):厚労/総務/国税庁

・システム:厚労/総務/国税庁だが、私は元SEだから資料見ればわかる

・法律:私

・現実の抵抗:厚労/総務/国税庁だが、私も協力

それが、こうなっちゃう人がいます。

・制度・事務(年金/医療保険/地方行政/地方税/国税等):説明しない

・システム:説明しない

・法律:間違った解釈を私に押し付けてこう解釈しろと言いだす

・現実の抵抗:説明しないのに、私がなぜか汲んで解釈を考えているのに、なぜか怒り出す

こうなっちゃうと、制度・事務やシステムを既存資料を基に、係長と私で調べて、で、こうだよねとか検討するっていうことになるわけです。これを、係長と私でやっていたからいいけど、係長も私もこれをやらないで、担当省庁もやらないで、まあいっかとそのまま進めてしまうと、ぐだぐだになるわけです。後から違法リスクが出てしまってどうしようもない。まあでも役所の係長は本当に優秀な人が多いのですばらしいですね。あと国税庁なんて優秀だから、制度・事務、システムも簡潔に教えてくれて、番号法の法解釈すら国税庁側でちゃんとできてしまう。こういう人がカウンターパートだとこちらとしては仕事量が減りますね^^

 

でもほんと、制度・事務って複雑ですよね。私も昔は既存住基と住基ネットと宛名の違いもわかりませんでしたし、医療保険も共済と社保と国保の違いもあまりわかりませんでした。市町村国保国保組合なんて、何回聞いてもよくわからなかったし。地方財政についてははっきりいっていまだにわかってません。

 

ちょっと話がそれて愚痴っぽくなってしまいましたが、言いたいこととしては、現状分析と法解釈って、結構複雑で、でもそれをちゃんとやれるすごい力が霞が関にはあるはずだということ。

昨日お話しした方は、複雑な現状を正確に理解されて、法律上の問題点、社会に与える影響(悪い影響も)をきちんと的確に指摘されていて、やっぱりこういう技術って霞が関の底力だなと思うのです。

 

私、最初に内閣官房にいったとき、大量の資料を速読して要点をきっちり理解する幹部を見て、すごくびっくりしました。あんな大量資料をぱーっと見ただけで、そんなに本質や要点がすぐ理解できるものかとびっくりしました。あまり民間では見られないスキルだと思います。手前味噌ですが、私もこのスキルは霞が関でそこそこ身についた気がします。

 あと思ったのは、そういう方になってくると、説明聞くより、資料速読した方が早く事態を理解できるということ。私が大変お世話になった内閣法制局参事官は、「〇条の説明資料を作りなさい」と私に求めるわけです。で私がその説明資料を作って法制局で資料を提示しながら説明していると、法制局参事官が「え??ちょっと静かにしてくれない?」的な態度になるわけですよ。優しい方だから、そういうことをはっきり明言はしませんが、絶対にそう思っているだろう的な態度で、私は説明をせずに2,3分ぐらい沈黙することにしました。そうするとその方が資料を読み終わって、質問をしてくるので、質問に答えていく、と。そうするとつつがなく進行します。

はっきりいうと「お前の要点をしぼらない説明聞くより、資料読んだ方が早いわ!」的なことでしょうか(笑)

 

すごいだらだらと長文書いてますが、この霞が関で経験したことって、意外と弁護士実務でも一緒だなと思ったことがあります。

ご相談者と弁護士の関係も似たようなところがあります。ご相談者の業務・業界のことはこちらはわからないわけです。そこを説明していただく必要があります。で、それを受けてこちらが法解釈をするので、なんか内閣官房で私がやっていた仕事と、今弁護士で私がやっている仕事って似てるなって思ったりもします。

私はクライアントが口頭で説明してくださっているのをさえぎったりはもちろんしませんよ。ちゃんと聞きますが、たまにね、契約書をぱっと見せられて、その場で回答しないといけないことがあって、口頭説明を聞きながら契約書は読めないので、「ちょっとまずは契約書を読ませていただきますね」といって、2.3分契約書を読む時間を取らせてもらったりもします。

 

なんかものすごく長文になって話が脱線してきてますが、結構霞が関の変容がすごいように感じられて、霞が関業務改革をしていかないと、霞が関のすごいスキルが発揮できなくなってしまうかもしれないなと思ったりもします。あとはやっぱり頭のいい人ってすごいなと。今の私みたいにいろんな仕事をさせていただく機会が多いと、いろいろな方とお話しできて、いろんな分野のお話を聞けるので、とてもいいなと思います。以上、とりとめのないブログでした。

さあ、では、これからEUCookie規制の資料を読みます。