ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

個人情報関連Q&Aが公表になってます

個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン」及び「個人データの漏えい等の事案が発生した場合等の対応について」に関するQ&Aが、個人情報保護委員会Webサイトで公表されています。コチラ


全部読めてませんが、ぱっと見たところ少し気になったのが以下のQA。

Q10−3 訴訟代理人の弁護士・裁判所に、訴訟の相手方に係る個人データを含む証拠等を提出する場合、記録をしなければなりませんか。
A10−3 訴訟追行のために、訴訟代理人の弁護士・裁判所に、訴訟の相手方に係る個人データを含む証拠等を提出する場合は、「財産の保護のために必要がある」といえ、かつ、一般的に当該相手方の同意を取得することが困難であることから、法第 23 条第1項第2号に該当し得るものであり、その場合には記録義務は適用されないものと考えられます。

どうしてこのような回答になったのかが謎です。
財産に関わらない訴訟もあるので、その場合はどうするのか。例えば財産分与・慰謝料請求の一切ない離婚訴訟。これ、DV事案とかでなければ、生命・身体の保護とも言えないし。あとは、出版差し止め請求とか、情報公開請求とか、個人情報開示請求とか、発信者情報開示請求とか。私、一般民事の経験があまりないので、具体例がこの程度しか思いつきませんが、なんかもっといっぱいある気がします。

代理人ー本人間は第三者提供じゃないし、本人(代理人)−裁判所間は、法令に基づく第三者提供と解釈した方がよいのでは??
そうすると、法25条1項但書が適用になって、記録義務は適用されないことになるのでは??

Q1−8 オンラインゲームで「ニックネーム」及び「ID」を公開していますが、個人情報に該当しますか。
A1−8 オンラインゲームにおける「ニックネーム」及び「ID」が公開されていても、通常は特定の個人を識別することはできないため、個人情報には該当しません。ただし、「ニックネーム」又は「ID」を自ら保有する他の情報と容易に照合することにより特定の個人を識別できる可能性があり、そのような場合には個人情報に該当し得ます。また、例外的にニックネームや ID から特定の個人が識別できる場合(有名なニックネーム等)には、個人情報に該当します。

有名なニックネーム等だけじゃなくて、名前が入ったニックネームの人もいると思うので、Q1−4とリンクさせた方がよいのではないかと少し思いました。

Q5−10 介護施設の入居者の家族から、当該入居者に関する情報の提供の依頼があった場合、提供してもよいですか。
A5−10 個人データを第三者に提供する際には、原則としてあらかじめ本人の同意を得る必要がありますが、人の生命、身体又は財産の保護のために必要がある場合であって、本人の同意を得ることが困難であると認められる場合は、本人の同意を得ずに提供することができます(法第 23 条第1項第2号)。したがって、当該入居者の生命、身体又は財産の保護のために必要があり、当該入居者の同意を得ることが困難である場合は、当該入居者の同意を得ずにその情報を家族に提供することができると解されます。

回答としては、間違っていないものの、質問者の意図を考えたら、もう少し丁寧に答えた方がよいのでは?
入居者の日常生活とか食事の状況とか病気の状況とかそういうのを家族が知りたいと思うのは普通の気持ちで、それに事業者としてこたえてもいいかという話だと思われる。
介護日報みたいなものは個人データになっている可能性が高いので、この場合、第三者提供制限がかかる。もっとも個人データであっても、生命・身体・財産の保護があれば同意なく提供できるので、重大な病気の状況や、食事がほとんどとれていないといった情報は、同意なく提供可。
さらに、介護日報になっていなくて、介護士等が目視したり会話して得た日常生活や食事の状況などは、これは個人データではないので、この場合、第三者提供制限がかからない。
ただし、入居者本人のプライバシー権を踏まえ、入居時や入居後のいずれかのタイミングで、入居者と家族に対し、「入居者の日常生活とか食事の状況とか病気の状況とかを家族から知りたいというお申し出があった場合は、適宜、こちらからご家族にお教えしますが、良いですか?」ということを聞いておくべき。で、家族なしで入居者単独の状況にして、「家族にお話されたくないことはありますか?」と聞いて、記録を取っておいて、それは家族に伝えないようにした方が良い(但し、緊急時は除く)。

ちなみに、保育園や学校で、小さい子の状況を教師が家族に伝える場合は、親という法定代理人の同意があるということになるので、可能。入居者の場合は、家族が法定代理人(後見人等)になっていれば、小さいこと同じだけれども、そうじゃないと、同じにはとらえられないので、要注意。
ただ、子供も高校生とか中学生になってくると、微妙な問題を孕む。親はまだ親権者であり続け、法定代理人ではあるが、子どものプライバシーが出てくるため。各条例などで、個人情報の開示請求に対して、法定代理人による請求に一部、手続を付加しているのは、そのため。

Q5−18 株主総会開催の際、管轄の警察署に会場の警備を依頼しています。それに伴い、要注意株主のリスト(氏名、住所、持株数等)の提出を警察署から求められた場合、個人情報保護法との関係では、本人の同意なく提供することができますか。
A5−18 提供することができます。法第 16 条第3項第1号、第2号又は第4号、法第 23条第1項第1号、第2号又は第4号に該当すると考えられます。

この回答は、もう少し留保をつけるべき。ポリティカリーコレクトを考えた方がよいし、これ、場合によっては不法行為を構成する可能性があるので(要注意とは何か、その嫌疑は十分なのかなどなどの問題。そして、最大の問題は、これたぶん、強制捜査の事例ではないし。江沢民事件を踏まえる必要あり。)。ただ回答の方向性自体は理解できるので、もう少し留保をつけた回答にすればよいのに。上席者、これについてチェックしていたのかなと少し疑問。