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弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

国立・国定公園内における大規模太陽光発電施設設置

前も、国立・国定公園内における大規模太陽光発電施設設置に関して、少し記事を書きましたが、改めてのメモです。

資料

前提

規制

  • 国立公園においては優れた自然風景を保護するため各種の行為が規制されています。行為を行う場合は、公園計画(保護規制計画)に基づいて指定された地域の種類によって、自然公園法に基づく申請又は届出の手続が必要となります。(環境省サイトより)
  • 特別地域
    • 環境大臣は国立公園について、都道府県知事は国定公園について、当該公園の風致を維持するため、公園計画に基づいて、その区域(海域を除く。)内に、特別地域を指定することができる。(自然公園法20条1項)
      • 一  工作物を新築し、改築し、又は増築すること。
      • 二  木竹を伐採すること。
      • 三  環境大臣が指定する区域内において木竹を損傷すること。
      • 四  鉱物を掘採し、又は土石を採取すること。
      • 五  河川、湖沼等の水位又は水量に増減を及ぼさせること。
      • 六  環境大臣が指定する湖沼又は湿原及びこれらの周辺一キロメートルの区域内において当該湖沼若しくは湿原又はこれらに流水が流入する水域若しくは水路に汚水又は廃水を排水設備を設けて排出すること。
      • 七  広告物その他これに類する物を掲出し、若しくは設置し、又は広告その他これに類するものを工作物等に表示すること。
      • 八  屋外において土石その他の環境大臣が指定する物を集積し、又は貯蔵すること。
      • 九  水面を埋め立て、又は干拓すること。
      • 十  土地を開墾しその他土地の形状を変更すること。
      • 十一  高山植物その他の植物で環境大臣が指定するものを採取し、又は損傷すること。
      • 十二  環境大臣が指定する区域内において当該区域が本来の生育地でない植物で、当該区域における風致の維持に影響を及ぼすおそれがあるものとして環境大臣が指定するものを植栽し、又は当該植物の種子をまくこと。
      • 十三  山岳に生息する動物その他の動物で環境大臣が指定するものを捕獲し、若しくは殺傷し、又は当該動物の卵を採取し、若しくは損傷すること。
      • 十四  環境大臣が指定する区域内において当該区域が本来の生息地でない動物で、当該区域における風致の維持に影響を及ぼすおそれがあるものとして環境大臣が指定するものを放つこと(当該指定する動物が家畜である場合における当該家畜である動物の放牧を含む。)。
      • 十五  屋根、壁面、塀、橋、鉄塔、送水管その他これらに類するものの色彩を変更すること。
      • 十六  湿原その他これに類する地域のうち環境大臣が指定する区域内へ当該区域ごとに指定する期間内に立ち入ること。
      • 十七  道路、広場、田、畑、牧場及び宅地以外の地域のうち環境大臣が指定する区域内において車馬若しくは動力船を使用し、又は航空機を着陸させること。
      • 十八  前各号に掲げるもののほか、特別地域における風致の維持に影響を及ぼすおそれがある行為で政令で定めるもの
    • このうち一号の工作物に、太陽光発電設備は該当
      • 太陽光発電施設の新築、改築又は増築であつて、土地に定着させるものに限るが、この許可基準は、自然公園法施行規則11条12項
        • 当該建築物の屋根及び壁面の色彩並びに形態がその周辺の風致又は景観と著しく不調和でないこと(自然公園法施行規則11条1項5号)
        • 当該建築物の撤去に関する計画が定められており、かつ、当該建築物を撤去した後に跡地の整理を適切に行うこととされているものであること。(同項六号)
        • 当該屋外運動施設に係る土地の形状を変更する規模が必要最小限であると認められること。(同条第十項第七号)
        • 野生動植物の生息又は生育上その他の風致又は景観の維持上重大な支障を及ぼすおそれがないものであること。(同条11項第二号)
        • 次に掲げる地域(以下「特別保護地区等」という。)内において行われるものでないこと。
          • 特別保護地区、第一種特別地域又は海域公園地区
          • 第二種特別地域又は第三種特別地域のうち、植生の復元が困難な地域等(次に掲げる地域であつて、その全部若しくは一部について文化財保護法 (昭和二十五年法律第二百十四号)第百九条第一項 の規定による史跡名勝天然記念物の指定若しくは同法第百十条第一項 の規定による史跡名勝天然記念物の仮指定(以下「史跡名勝天然記念物の指定等」という。)がされていること又は学術調査の結果等により、特別保護地区又は第一種特別地域に準ずる取扱いが現に行われ、又は行われることが必要であると認められるものをいう。以下同じ。)であるもの
            • 高山帯、亜高山帯、風衝地、湿原等植生の復元が困難な地域
            • 野生動植物の生息地又は生育地として重要な地域
            • 地形若しくは地質が特異である地域又は特異な自然の現象が生じている地域
            • 優れた天然林又は学術的価値を有する人工林の地域
        • 当該建築物が主要な展望地から展望する場合の著しい妨げにならないものであること。
        • 当該建築物が山稜線を分断する等眺望の対象に著しい支障を及ぼすものでないこと。(以上、自然公園法施行規則11条12項1号「第一項第二号から第四号までの規定の例によること」ただし、同一敷地内の太陽光発電施設の地上部分の水平投影面積の和が二千平方メートル以下であつて、学術研究その他公益上必要であり、かつ、申請に係る場所以外の場所においてはその目的を達成することができないと認められる太陽光発電施設の新築、改築又は増築にあつては、この限りでない。)
        • 当該建築物の水平投影外周線で囲まれる土地の勾配が三十パーセントを超えないものであること。
        • 当該建築物の地上部分の水平投影外周線が、公園事業に係る道路又はこれと同程度に当該公園の利用に資する道路(以下「公園事業道路等」という。)の路肩から二十メートル以上、それ以外の道路の路肩から五メートル以上離れていること。
        • 当該建築物の地上部分の水平投影外周線が敷地境界線から五メートル以上離れていること。
        • 支障木の伐採が僅少であること。(以上、自然公園法施行規則11条12項2号「第四項第七号、第九号及び第十号並びに第十項第九号の規定の例によること」。ただし、同一敷地内の太陽光発電施設の地上部分の水平投影面積の和が二千平方メートル以下であつて、次に掲げる基準のいずれかに適合する太陽光発電施設の新築、改築又は増築にあつては、この限りでない。)
          • 学術研究その他公益上必要であり、かつ、申請に係る場所以外の場所においてはその目的を達成することができないと認められること。
          • 地域住民の日常生活の維持のために必要と認められること。
          • 農林漁業に付随して行われるものであること。
        • 自然草地等内において行われるものでないこと。ただし、前号ただし書に規定する行為に該当するものについては、この限りでない。(施行規則11条12項3号)
        • 当該行為による土砂及び汚濁水の流出のおそれがないこと。(施行規則11条12項4号)
  • 普通地域
    • 国立公園又は国定公園の区域のうち特別地域及び海域公園地区に含まれない区域(以下「普通地域」という。)内において、次に掲げる行為をしようとする者は、国立公園にあつては環境大臣に対し、国定公園にあつては都道府県知事に対し、環境省令で定めるところにより、行為の種類、場所、施行方法及び着手予定日その他環境省令で定める事項を届け出なければならない。ただし、第一号、第三号、第五号及び第七号に掲げる行為で海域内において漁具の設置その他漁業を行うために必要とされるものをしようとする者は、この限りでない。(自然公園法33条1項)
      • 一  その規模が環境省令で定める基準を超える工作物を新築し、改築し、又は増築すること(改築又は増築後において、その規模が環境省令で定める基準を超えるものとなる場合における改築又は増築を含む。)。
        • 自然公園法施行規則14条1号ヌで「太陽光発電施設 同一敷地内の地上部分の水平投影面積の和千平方メートル」が規定
      • 二  特別地域内の河川、湖沼等の水位又は水量に増減を及ぼさせること。
      • 三  広告物その他これに類する物を掲出し、若しくは設置し、又は広告その他これに類するものを工作物等に表示すること。
      • 四  水面を埋め立て、又は干拓すること。
      • 五  鉱物を掘採し、又は土石を採取すること(海域内においては、海域公園地区の周辺一キロメートルの当該海域公園地区に接続する海域内においてする場合に限る。)。
      • 六  土地の形状を変更すること。
      • 七  海底の形状を変更すること(海域公園地区の周辺一キロメートルの当該海域公園地区に接続する海域内においてする場合に限る。)。

環境省有識者会議検討結果

  • 国立・国定公園内における大規模太陽光発電施設設置のあり方に関する基本的考え方(平成27年2月環境省自然環境局作成資料)
  • 趣旨
    • 国立公園及び国定公園は、自然公園法に基づき、優れた自然の風景地を保護するとともに、利用の増進を図ることにより、国民の保健、休養及び教化に資することを目的に指定されるもので、その区域内では一定の行為が制限。自然公園は国土の生物多様性の屋台骨として位置づけ。再生可能エネルギーに対する社会の要請。自然環境との調和が図られる必要。特に、大規模な施設の設置については、その立地の是非を含めた許可基準に基づく取扱いの明確化や、具体的な環境配慮の考え方の整理が必要。
  • 太陽光発電の特徴
    • 発電時に二酸化炭素を排出しないクリーンなエネルギー
    • 基本的な太陽光発電システムは、太陽電池・アレイ、接続箱・集電盤、パワーコンディショナ等の面的構造物であり、土地を大面積にわたって被覆する。
    • パネルの組合せ次第で、規模が多様であり、上限がない。
    • 他の再生可能エネルギーと比較して個人所有地での設置が容易であるという特徴がある。
    • 場所を選べば、生物の生育・生息環境を損なわずにエネルギーを生み出せる。
    • メガソーラー等の大規模太陽光発電施設では、特別高圧連系の場合の鉄塔設置や系統までの送電網の整備が新たに必要となる場合がある。
  • 太陽光の普及度合
    • 平成 24 年7月の固定価格買取制度(FIT)導入以来、全国的に再生可能エネルギーの導入が加速し、特に太陽光発電については他の再生可能エネルギーと比較して設備認定容量が極めて多く、太陽光発電(非住宅)の設備認定容量は 6,562 万 kW に達し、再生可能エネルギーの全設備認定容量の約 92%を占めている(平成 26 年4月末時点)。
    • 国立公園内での導入実績(許可を得た事例の数)は、第2種特別地域内が8件、第3種特別地域内が8件、普通地域内が 10 件となっており、うち6件が 1000kW を超える所謂メガソーラーである。国定公園都道府県立自然公園内での導入実績は、第2種特別地域内が 13 件、第3種特別地域内が 29 件、普通地域内が 40 件となっており、うち 23 件がメガソーラーである(平成 26 年2月末時点)。
    • 設置に関する事前の相談を受けている事案は国立公園内で 100 件以上、国定公園都道府県立自然公園内で 50 件以上ある(同上)。
  • 自然公園法における取扱い
    • 特別地域内に太陽光発電施設を設置しようとする場合は、「工作物の新築」に該当するため、許可申請が必要となり、許可基準(自然公園法施行規則第 11 条第 13 項)により審査が行われる。
      • (水町注)審査基準を追加するために施行規則改正を実施!
    • 事業面積が1ha 以上である場合、風致又は景観に及ぼす影響の予測及び当該影響を軽減するための措置について許可申請書に添付することになっている(自然公園法施行規則第 10 条第3項)。しかし、普通地域内で太陽光発電施設は届出が必要な工作物とはされていない(自然公園法施行規則第 14 条)。
      • (水町注)自然公園法施行規則14条1号ヌに規定
  • 課題
    • 太陽光発電は、特定の自然環境(日照や植生条件等)に影響が集中する可能性があり、特に草地環境等への影響について配慮が必要である。
    • 樹林地においては、抜開面積が広大となり自然環境への影響が大きいことから、対応方針を明確化する必要がある。
    • 土地の改変による影響に留意が必要である。
    • 太陽光発電事業による生物多様性への影響という観点からの知見は少ない。
    • 改変跡地など土地利用の履歴等を考慮した立地選定や事業計画が必要である。
    • 事業者が事前に地元説明会等の機会を持つ義務はなく、情報の不足などによる軋轢を生ずることがある。
    • 事業ごとには環境配慮ができても、複数の事業が集中する場合に全体としては大きな影響を生じる可能性がある。
    • 土地の改変や伐採が行われると、森林等が保有している災害防止機能や炭素固定の機能等の多面的な機能を低下させる恐れがある。
  • 具体的な対応の考え方
    • (水町注)以下は、自治体における規制の観点に参考になる
    • 植生の復元が困難な場所や野生生物の生息地・生育地として重要な地域、景観上重要な地域については、立地から除外すべきである。
    • 自然草地等については、生物多様性保全上重要であり、立地から除外すべきである。
    • 樹林地については、立地から除外すべきである。
    • 施設の設置に伴う土地の形状変更については、抑制的な対応をすべきである。
    • 普通地域においても、大面積の施設については対応を検討すべきである。
    • 用途終了後の撤去等について適切な取扱がなされるよう措置することが必要である。
    • 現在の土地利用に加えて、改変跡地など過去の土地利用も考慮した上で、個別に設置の是非を検討すべきである。
    • 設置面積が大規模であることから、俯瞰(見下ろす景観)される場所や斜面に設置する場合に景観への影響がより大きくなるという特性に配慮し、主要な展望地等からの展望への影響及び眺望対象への支障を評価して、審査を行うべきである。
    • 道路からのセットバックを検討すべきである。
    • 施設の色彩や形態が景観と調和するよう指導をすべきである。
    • 架台の高さやパネルの角度が抑えられた方が近景から見た場合の支障が小さい一方で、動植物の生息・生育環境を分断する可能性が高くなることに配慮して当該地域への影響を判断すべきである。
    • 審査にあたっては、送・配電設備や道路等関連する施設の設置による影響についても一体的に考慮すべきである。
    • 動物の生息、植生への影響を評価し、適切な環境配慮が実施される計画であることを確認すべきである。
    • 他法令に基づく調整池等の防災規程等について関係機関と情報交換することにより確認する対応を検討すべきである。
    • 隣接地との緩衝帯を検討する必要がある。
    • 施設の設置に伴う土地の形状変更については、抑制的な対応をすべきである。