ITをめぐる法律問題について考える

弁護士水町雅子のIT情報法ブログ

公務員共済等は情報保護評価の義務付け対象外

今、特定個人情報保護評価(プライバシー影響評価)の本を執筆中で、義務付け対象外のコーナーまでようやく行きました。
執筆しながら思ったことがあったのですが、本に書くのは適さない気もするので、ブログに書きます。

公務員共済は情報保護評価の実施が義務付けられません。
そのほかに、義務付け対象外となるものとしては、公務員か否かにかかわらず職員の給与情報等、そして民間の単一健保等があります。

情報保護評価の目的は「積極的な事前対応を行うこと」「国民の信頼確保」ですが、これらの情報について積極的な事前対応を行うためには、情報保護評価以外の方法をとる方が妥当と考えられます。なぜなら、情報保護評価は、広く公示して国民の意見を聴取したり、第三者専門家の意見を聴取したり、一般公開したりして、透明性を高める手続をとるものとされていますが、職員等の給与情報等の取扱いや公務員共済の情報の取扱いに疑義・問題がある際にこのような手続をとるのは迂遠であり、それよりも、評価実施機関と職員との交渉で改善を促す方が直接的であると考えられます。またこれらは内部関係に基づく情報であるため、「国民の信頼を確保する」というもう一つの目的が当てはまらないと考えられます。

さらに情報保護評価が義務付けられなくても、個人番号の利用規制、提供規制、安全管理措置等の番号法のその他の規制は当然及ぶものであり、情報保護評価を実施しないからといって、これらの情報が保護されないわけではけしてありません。

法律で実施義務をかけるというからには、実施しなければならない強い理由が必要であると考えます。情報保護評価の制度趣旨・目的から、これらの情報は義務付けまでは不要であると判断されたものです。むろん、義務付けられないということにとどまり、任意に実施することは当然可能です。

というのが私の考えです。
これに対して、職員の給与情報について情報保護評価が義務付けられないという点は、特に反対意見をいただくことはこれまでありませんでした。

しかし公務員共済については、一部の公務員の方から「公務員のプライバシー権は保護されないのか」という意見をいただいたことがありました。しかし公務員だからプライバシー権が保障されないわけではないし、番号法では対象者が公務員か否かに関わらずプライバシー権保護のためにさまざまな保護措置を講じています。公務員共済が義務付け対象外である理由は、上記の通りです。

単一健保については、「どんな健保も一件でもマイナンバーを保有する以上、情報保護評価を義務付けるべき」との意見がK省からいったん出されましたが、これまたK省から「健保はすべて義務付け対象外にせよ」との意見が出ました。同一省内から真逆の意見が出てくることは不思議では全くありませんが、他省庁に省の意見を伝える際は、省内を調整して、省としての意見をまとめてからにするのが大人の常識な気がして、「K省ってふ・し・ぎ」って思ってしまいました。ブレストとかじゃなくて、書面で正式に意見を出してくるわけですからね。「省内で意見を調整してから意見を伝えてください」って言っても統一してくれないんですよね・・・。


情報保護評価のご説明とか協議に伺うと、「やりたくない」「なんでやらなくちゃいけないんだ」「そんなにいうなら委員会が勝手に評価すればいいじゃないか」という意見が非常に多かったのですが、そういうご意見を出された方も公務員共済が義務付け対象外であることには反対のようです。

制度設計をすると、「やりたくない」という意見と「やれ」という意見が強く出てきて、それを調整するのがまさに、公務員の仕事という感じです。
「やりたくない」という方には趣旨をご説明し、折れることができない範囲をお伝えして、で、「やれ」という方にはあらゆるものに義務付けすることは法制上困難であるし実務上もやっつけになる恐れがあるとご説明し、折れることができない範囲をお伝えして、、、という感じですが、なかなかみなさん、持論を変えないのですね。それが論理的な意見の展開である場合はさほど多くはなく、感情的だったり、上司を出してきたりされたりすると、だんだん「調整」作業に疲れてきて、「えいや」と、制度設計側が適当に折れてしまうことも中にはあるようにも思います。しかしそこで適当に折れてしまうと、制度としての核が失われたり揺らいだりしかねないので、制度としての核だけは絶対に譲らない、折れないようにしないといけないと私は考えます。しかしそうすると、本当にさまざまな戦いが必要になってきたりして、「調整」は本当に大変な作業だなと思いますが、極めて重要で、制度の核は折れてはいけないと強く思っています。

最後の方がなんか愚痴っぽくなってしまいました。失礼しました。